[2009年文献] 肥満の少ない日本人でも,メタボリックシンドロームは虚血性心血管疾患の予測因子
メタボリックシンドローム(MetS)およびその構成因子と心血管疾患,とくに虚血性心疾患と虚血性脳卒中との関連について,欧米に比して肥満の少ない集団である40~69歳の日本人の男女を対象とした大規模前向きコホート研究における検討を行った。11年間(中央値)の追跡の結果,MetSは虚血性心疾患および虚血性脳卒中の発症リスクと有意に関連していたが,出血性脳卒中との関連はみられなかった。肥満を必須項目としていないAHA/NHLBIによる基準を用いたMetSのほうが,IDFの基準を用いたMetSよりも虚血性心血管疾患リスクの予測能が高かったが,これは,たとえ非肥満であっても,心血管疾患危険因子を有している人では,有していない場合にくらべて虚血性心血管疾患を発症するリスクが高いことを示していると考えられる。
Noda H, et al. The impact of the metabolic syndrome and its components on the incidence of ischemic heart disease and stroke: the Japan public health center-based study. Hypertens Res. 2009; 32: 289-298.
- コホート
- コホートIおよびII。
対象9保健所の管轄行政区内に居住していた40~69歳の男性8582人および女性15521人のうち,脳卒中,心筋梗塞,狭心症または癌の既往がある人を除いた23313人(男性8249人,女性15064人)を,コホートIでは1995年,コホートIIでは1993~94年から2003年12月31日まで追跡。
追跡期間の中央値は11.0年。
◇ メタボリックシンドローム(MetS)の診断
AHA(米国心臓協会)/NHLBI(米国国立心肺血液研究所)の修正基準,ならびにIDF(国際糖尿病連盟)の修正基準の2つを用いた。なお,この研究では腹囲の測定を行っていないことから,腹部肥満のかわりに過体重(BMI≧25.0 kg/m2)が用いられた。
・AHA/NHLBIの修正基準: 以下のMetS構成因子を3つ以上あわせもつ場合にMetSと診断した。
・IDFの修正基準: 過体重を必須とし,さらに以下の過体重以外のMetS構成因子を2つ以上あわせもつ場合にMetSと診断した。
血圧高値: 血圧≧130 / 85 mmHg,または降圧薬服用
血糖高値: 空腹時血糖100 mg/dL以上,非空腹時血糖≧140 mg/dL,または治療中
低HDL-C血症: HDL-C値<40 mg/dL(男性),<50 mg/dL(女性),または治療中
高トリグリセリド血症: トリグリセリド値≧150 mg/dL,または治療中
過体重: BMI≧25.0 kg/m2 - 結 果
- ◇ 対象背景
男性は,女性にくらべて年齢,収縮期血圧値,拡張期血圧値,血糖値,トリグリセリド値が高く,HDL-C値,BMIが低かった。
追跡期間中の心血管疾患の発症状況は以下のとおり。
虚血性心疾患: 122人(男性82人,女性40人)
心筋梗塞(確診): 95人
心筋梗塞(疑い): 9人
心突然死: 18人
脳卒中: 572人(314人,258人)
虚血性脳卒中: 348人(206人,142人)
出血性脳卒中: 224人(108人,116人)
脳内出血: 160人(90人,70人)
くも膜下出血: 64人(18人,46人)
全心血管疾患に占める虚血性心血管疾患(虚血性心疾患+虚血性脳卒中)の割合は,男性72.9%,女性61.1%。
脳卒中の10万人・年あたり発症率は,男性で虚血性心疾患の3.8倍,女性で6.5倍であった。
◇ メタボリックシンドローム(MetS)と心血管疾患発症リスク
MetSの人における各心血管疾患発症の多変量調整ハザード比†(vs. 非MetS),ならびに人口寄与割合(PAF)は以下のとおり(†年齢,地域,食後経過時間,総コレステロール値,喫煙状況,飲酒状況により調整)。
AHA/NHLBI基準を用いるとMetSの男性の虚血性心疾患発症リスクは有意に高くなっていたが,IDF基準では有意なリスク増加はみられなかった。
いずれの基準でも,MetSは出血性脳卒中のリスクとは関連していなかった。
(1)AHA/NHLBIの修正基準によるMetS
全心血管疾患: 男性1.73(95%信頼区間1.40-2.13),女性1.42(1.11-1.81)[PAF 男性15%,女性9%]
全虚血性心血管疾患: 1.97(1.54-2.51),1.51(1.10-2.06)[PAF 19%,12%]
虚血性心疾患: 2.25(1.44-3.51),1.00(0.48-2.06)[PAF 25%,0%]
脳卒中: 1.61(1.26-2.05),1.49(1.14-1.94)[PAF 12%,11%]
虚血性脳卒中: 1.88(1.40-2.52),1.67(1.18-2.36)[PAF 16%,15%]
出血性脳卒中: 1.19(0.77-1.83),1.27(0.85-1.92)[PAF 4%,6%]
(2)IDFの修正基準によるMetS
全心血管疾患: 1.67(1.33-2.11),1.35(1.03-1.77)[PAF 10%,6%]
全虚血性心血管疾患: 1.82(1.39-2.38),1.49(1.06-2.08)[PAF 12%,8%]
虚血性心疾患: 1.61(0.99-2.64),0.80(0.33-1.92)[PAF 11%,-4%]
脳卒中: 1.71(1.31-2.22),1.44(1.08-1.92)[PAF 10%,8%]
虚血性脳卒中: 1.94(1.41-2.68),1.71(1.18-2.47)[PAF 13%,12%]
出血性脳卒中: 1.34(0.84-2.12),1.12(0.71-1.77)[PAF 6%,2%]
◇ メタボリックシンドローム(MetS)構成因子と心血管疾患発症リスク
各MetS構成因子をもつ人における各心血管疾患発症の多変量調整ハザード比†(vs. もたない人),ならびにPAFは以下のとおり。
全体に,各MetS構成因子と虚血性心疾患発症リスクとの関連は,女性にくらべ男性で強い傾向がみとめられた。
出血性脳卒中については,血圧を除き,どの構成因子との関連もみられなかった。
(1)血圧高値
全心血管疾患: 男性2.46(1.87-3.23),女性2.83(2.09-3.82)[PAF 男性50%,女性53%]
全虚血性心血管疾患: 2.37(1.72-3.25),2.28(1.57-3.31)[PAF 48%,45%]
虚血性心疾患: 2.32(1.34-4.03),2.80(1.22-6.44)[PAF 45%,53%]
脳卒中: 2.49(1.82-3.40),2.83(2.05-3.90)[PAF 51%,53%]
虚血性脳卒中: 2.36(1.60-3.47),2.15(1.42-3.26)[PAF 49%,43%]
出血性脳卒中: 2.75(1.62-4.67),3.98(2.38-6.64)[PAF 54%,63%]
(2)血糖高値
全心血管疾患: 1.25(1.00-1.56),1.28(0.95-1.73)[PAF 7%,4%]
全虚血性心血管疾患: 1.46(1.13-1.89),1.44(0.99-2.08)[PAF 11%,7%]
虚血性心疾患: 1.81(1.12-2.91),1.33(0.58-3.04),[PAF 17%,5%]
脳卒中: 1.13(0.88-1.46),1.28(0.93-1.77),[PAF 4%,4%]
虚血性脳卒中: 1.34(0.99-1.82),1.47(0.97-2.22)[PAF 9%,7%]
出血性脳卒中: 0.81(0.51-1.28),1.05(0.63-1.77)[PAF -6%,1%]
(3)低HDL-C血症
全心血管疾患: 1.52(1.18-1.97),1.15(0.90-1.47)[PAF 7%,5%]
全虚血性心血管疾患: 1.82(1.36-2.42),1.40(1.04-1.90)[PAF 10%,11%]
虚血性心疾患: 2.48(1.53-4.03),1.37(0.71-2.64)[PAF 20%,10%]
脳卒中: 1.23(0.90-1.69),1.12(0.86-1.46)[PAF 3%,4%]
虚血性脳卒中: 1.48(1.03-2.14),1.41(1.00-1.98)[PAF 6%,11%]
出血性脳卒中: 0.79(0.43-1.47),0.84(0.55-1.26)[PAF -3%,-6%]
(4)高トリグリセリド血症
全心血管疾患: 1.38(1.10-1.72),1.07(0.81-1.40)[PAF 10%,2%]
全虚血性心血管疾患: 1.50(1.16-1.94),1.17(0.83-1.65)[PAF 13%,4%]
虚血性心疾患: 1.76(1.10-2.81),0.70(0.31-1.58)[PAF 22%,-9%]
脳卒中: 1.28(1.00-1.65),1.14(0.85-1.52)[PAF 7%,3%]
虚血性脳卒中: 1.42(1.04-1.93),1.33(0.91-1.95)[PAF 10%,8%]
出血性脳卒中: 1.07(0.69-1.65),0.91(0.57-1.45)[PAF 2%,-2%]
(5)過体重
全心血管疾患: 1.33(1.07-1.65),1.10(0.87-1.40)[PAF 9%,3%]
全虚血性心血管疾患: 1.44(1.12-1.85),1.13(0.83-1.53)[PAF 11%,4%]
虚血性心疾患: 1.65(1.05-2.59),0.63(0.31-1.31)[PAF 16%,-14%]
脳卒中: 1.26(0.99-1.61),1.19(0.92-1.53)[PAF 7%,6%]
虚血性脳卒中: 1.37(1.01-1.85),1.31(0.93-1.84)[PAF 9%,10%]
出血性脳卒中: 1.08(0.71-1.63),1.04(0.71-1.52)[PAF 2%,1%]
◇ MetS構成因子の集積と心血管疾患発症リスク
MetS構成因子の数が多いほど,男性の虚血性心疾患,ならびに男女の虚血性脳卒中の発症の多変量調整ハザード比†が高くなる有意な傾向がみられた(いずれもP for trend<0.0001)。
◇ 過体重の有無による層別化解析
過体重の有無ごとに,過体重を除くMetS構成因子の保有数と全虚血性心血管疾患発症の多変量調整ハザード比†との関連を検討した結果は以下のとおり。
・過体重なし
0個: 男性1.0,女性1.0(対照)
1個: 1.90(1.14-3.14),1.73(0.99-3.02)[PAF 13%,11%]
2個以上: 2.72(1.65-4.48),2.08(1.19-3.64)[PAF 20%,14%]
・過体重あり
0個: 男性0.30(0.04-2.26),女性発症者なし[PAF 男性-1%,女性該当なし]
1個: 2.23(1.21-4.11),1.73(0.91-3.27)[PAF4%,5%]
2個以上: 3.61(2.17-6.00),2.38(1.36-4.18)[PAF 19%,15%]
◇ 結論
メタボリックシンドローム(MetS)およびその構成因子と心血管疾患,とくに虚血性心疾患と虚血性脳卒中との関連について,欧米に比して肥満の少ない集団である40~69歳の日本人の男女を対象とした大規模前向きコホート研究における検討を行った。11年間(中央値)の追跡の結果,MetSは虚血性心疾患および虚血性脳卒中の発症リスクと有意に関連していたが,出血性脳卒中との関連はみられなかった。肥満を必須項目としていないAHA/NHLBIによる基準を用いたMetSのほうが,IDFの基準を用いたMetSよりも虚血性心血管疾患リスクの予測能が高かったが,これは,たとえ非肥満であっても,心血管疾患危険因子を有している人では,有していない場合にくらべて虚血性心血管疾患を発症するリスクが高いことを示していると考えられる。