[2011年文献] 糖尿病は,日本人でも冠動脈疾患の危険因子

欧米では糖尿病が冠動脈疾患(CHD)の重要な危険因子であることがよく知られているが,日本人を対象としたエビデンスは少ない。そこで,40~69歳の日本人の男女を対象とした大規模前向きコホート研究において,境界域糖尿病,および糖尿病とCHD発症リスクとの関連を検討した。その結果,糖尿病は,糖尿病治療薬服用の有無に関わらず,致死性/非致死性CHD発症リスクと強く関連していた。また,境界域糖尿病もCHD発症リスクとの有意な関連を示していた。

Saito I, et al. Diabetes and the risk of coronary heart disease in the general Japanese population: the Japan Public Health Center-based prospective (JPHC) study. Atherosclerosis. 2011; 216: 187-91.pubmed

コホート
JPHCコホートI,II。
ベースライン時の血糖値データが得られている40~69歳の男性11046人,女性20115人,および5年後の調査時に新たに血糖値データが得られた男性1654人,女性1917人のうち,ベースライン時に脳卒中,心筋梗塞/狭心症,または癌の既往のある3491人を除いた31192人を,1990年1月1日から2006年12月31日まで12.9年間(中央値)追跡。

ベースライン時の血糖値により,対象者を以下の3つのカテゴリーに分けて解析した。
・糖尿病(1256人):空腹時血糖値≧7.0 mmol/L,非空腹時血糖値≧11.1 mmol/L,または糖尿病治療薬使用
・境界域糖尿病(4744人):空腹時血糖値5.6~6.9 mmol/L,非空腹時血糖値7.8~11.0 mmol/L
・正常(25192人):空腹時血糖値<5.6 mmol/L,非空腹時血糖値<7.8 mmol/L

冠動脈疾患は,心筋梗塞(MI)(確診[definite],疑い[probable]),または心臓突然死(MIの診断が得られず,発症から1時間以内に死亡した場合)と定義。
心筋梗塞による致死率は,発症から28日以内に死亡した割合とした。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は,正常53.7歳,境界域糖尿病54.4歳,糖尿病56.7歳。
血糖値が高いカテゴリーほど,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール値,トリグリセリド値,高血圧の割合,および脂質異常症の割合が有意に高く,HDL-C値は有意に低かった(いずれもP<0.001)。

追跡期間中の冠動脈疾患(CHD)の発症は266件。
内訳は,心筋梗塞(MI)確診199件, MI疑い28件,心臓突然死39件。

◇ 血糖値とCHD発症率
各カテゴリーにおけるCHD発症数は以下のとおりであった。
全CHD:正常182件,境界域糖尿病55件,糖尿病29件
   MI確診:138件,42件,19件
   MI疑い:20件,2件,6件
   致死性MI:53件,17件,9件
   非致死性MI:129件,38件,20件
   心臓突然死:24件,11件,4件

全CHD発生率(1000人・年あたり,年齢調整)は,男性では正常1.00,境界域糖尿病1.37,糖尿病2.06,女性ではそれぞれ0.30,0.29,1.02であった。
CHDによる致死率は,男性では正常28.6%,境界域糖尿病28.9%,糖尿病26.3%で,女性ではそれぞれ30.0%,40.0%,40.0%であった。

◇ 血糖値と致死性/非致死性CHD発症リスク
各カテゴリーにおける致死性/非致死性CHDの多変量調整ハザード比(HR)*(95%信頼区間)は以下のとおりで,正常にくらべ,境界域糖尿病および糖尿病の人では直線的な増加がみられた。
*性別,年齢,採血状況(空腹時/非空腹時),居住地区,BMI,高血圧,脂質異常症,喫煙,定期的なアルコール摂取,スポーツ,運動により調整

 全CHD:正常1.00,境界域糖尿病1.50(1.07-2.10),糖尿病2.38(1.57-3.61)(P for trend<0.001)
  非致死性CHD:1.00,1.37(0.92-2.05),2.38(1.45-3.90)(P for trend<0.001)
   致死性CHD:1.00,1.90(1.03-3.51),2.45(1.12-5.37)(P for trend=0.016)

全CHD,致死性CHD,および非致死性CHDに対する糖尿病の人口寄与割合は,それぞれ6.3%,6.2%,6.7%であった。


◇ 結論
欧米では糖尿病が冠動脈疾患(CHD)の重要な危険因子であることがよく知られているが,日本人を対象としたエビデンスは少ない。そこで,40~69歳の日本人の男女を対象とした大規模前向きコホート研究において,境界域糖尿病,および糖尿病とCHD発症リスクとの関連を検討した。その結果,糖尿病は,糖尿病治療薬服用の有無に関わらず,致死性/非致死性CHD発症リスクと強く関連していた。また,境界域糖尿病もCHD発症リスクとの有意な関連を示していた。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.