[2013年文献] 飽和脂肪酸の摂取量は,脳卒中リスクとは負の関連,心筋梗塞リスクとは正の関連を示す
食事からの飽和脂肪酸の摂取は動脈硬化を惹起すると考えられているが,脳卒中および冠動脈疾患との関連については一貫した知見が得られておらず,また欧米にくらべて摂取量の少ないアジア人での検討は少ない。そこで,「飽和脂肪酸の摂取量は深部の脳実質出血リスクおよびラクナ梗塞リスク増加と負の関連を示す」「飽和脂肪酸の摂取量は冠動脈疾患リスク増加と関連する」という仮説について,日本人一般住民を対象とした大規模多施設前向きコホート研究で検討した。平均11.1年間の追跡の結果,飽和脂肪酸の摂取量と全心血管疾患発症および脳卒中(とくに深部の脳実質出血およびラクナ梗塞)の発症リスクには有意な負の関連がみられたが,心筋梗塞発症リスクとのあいだには有意な正の関連がみとめられた。
Yamagishi K, et al.; for the JPHC Study Group. Dietary intake of saturated fatty acids and incident stroke and coronary heart disease in Japanese communities: the JPHC Study. Eur Heart J. 2013;
- コホート
- JPHCコホートI(ベースライン: 1990年)およびコホートII(ベースライン: 1993年)。
対象11保健所のうち,追跡調査のデータがそろっている9つの保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査,ならびに5年後に実施された第2回調査(食物摂取頻度調査票[FFQ]を用いた食事調査を含む)に参加した40~59歳(コホートI)または40~69歳(コホートII)の92905人(参加率79%)のうち,追跡不可能だった226人,心筋梗塞・狭心症・脳卒中・癌の既往のある7964人(初回調査時または第2回調査時),食事調査データへの回答に不備のあった1114人,および1日の総摂取エネルギー量が全体の1パーセンタイル未満または99パーセンタイル超の1670人を除いた81931人(男性38084人,女性43847人)を対象とした。
第2回調査時から2009年末(コホートI)または2007年末(コホートII)まで,平均11.1年間追跡。
第2回調査時にFFQ(138品目)を実施。各食品に含まれる飽和脂肪酸の量(日本食品標準成分表より)と摂取頻度(4段階)をかけあわせて求めた対象者の1日あたりの飽和脂肪酸摂取量の五分位を用いて,以下の5つのカテゴリーで解析を行った。
Q1: 0.8~11.7 g,Q2: 11.8~14.8 g,Q3:14.9~17.7 g,Q4: 17.8~21.5 g,Q5: 21.6~96.7 g - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は56.7歳,飽和脂肪酸の摂取量(中央値)は1日あたり16.3 gであった。
飽和脂肪酸の摂取量が多いカテゴリーほど高い傾向を示していたのは糖尿病治療薬服用率,総コレステロール,週3回以上運動する人の割合,非就業者の割合,総摂取エネルギー量,コレステロール摂取量,蛋白質摂取量,一価不飽和脂肪酸摂取量,ω6系多価不飽和脂肪酸摂取量,カルシウム摂取量,肉類の摂取量および乳製品の摂取量で,低い傾向を示していたのは年齢,血圧,降圧薬服用率,脂質異常症治療薬服用率,喫煙率,飲酒率,毎日3時間以上立つ・歩く人の割合および炭水化物の摂取量。
追跡期間中の脳卒中の発症は3192件(うち98%にCTまたはMRIによる画像診断を実施)で,内訳は脳内出血894件,くも膜下出血348件,虚血性脳卒中1939件(ラクナ梗塞871件,アテローム血栓性脳梗塞403件,脳塞栓563件)であった。
また,610件の心筋梗塞がみとめられ,心臓突然死は116件であった。
◇ 飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患発症リスク
飽和脂肪酸の摂取量のカテゴリーごとの全心血管疾患発症の多変量調整ハザード比†(Q1~Q5)は以下のとおりで,有意な負の関連がみとめられた(P for trend=0.01)。
(†年齢,性,総摂取エネルギー,コホート,喫煙,飲酒,BMI,余暇の運動,立つ・歩く時間,心理的ストレスの自覚,および総摂取エネルギーで調整した炭水化物・蛋白質・コレステロール・野菜・果物・カルシウムの摂取量で調整)
1.0,0.94(0.85-1.05),0.91(0.81-1.03),0.86(0.75-0.98),0.82(0.69-0.96),P for trend=0.01
◇ 飽和脂肪酸の摂取量と脳卒中リスク
飽和脂肪酸の摂取量のカテゴリーごとの全脳卒中,ならびに各病型の発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,全脳卒中,ならびに脳内出血(とくに深部脳内出血)について,有意な負の関連がみとめられた。
虚血性脳卒中との有意な関連はみられなかったが,その内訳をみると,飽和脂肪酸の摂取量とラクナ梗塞発症リスクとのあいだには有意な負の関連がみられた。
全脳卒中: 1.0,0.98(0.88-1.10),0.90(0.79-1.13),0.83(0.71-0.97),0.77(0.65-0.93),P for trend=0.002
脳内出血: 1.0,0.92(0.74-1.14),0.84(0.65-1.07),0.76(0.57-1.01),0.61(0.43-0.86),P for trend=0.005
深部(deep)脳内出血: 1.0,0.91(0.71-1.17),0.85(0.64-1.13),0.75(0.54-1.05),0.67(0.45-0.99),P for trend=0.04
脳葉内(lobar)出血: 1.0,0.93(0.59-1.46),0.85(0.51-1.43),0.81(0.45-1.45),0.49(0.24-1.02),P for trend=0.07
くも膜下出血: 1.0,1.17(0.81-1.68),0.91(0.59-1.39),0.93(0.58-1.50),0.87(0.50-1.52),P for trend=0.45
虚血性脳卒中: 1.0,0.98(0.85-1.13),0.94(0.80-1.11),0.85(0.70-1.03),0.84(0.67-1.06),P for trend=0.08
ラクナ梗塞: 1.0,1.15(0.93-1.41),0.97(0.76-1.25),0.75(0.55-1.01),0.75(0.53-1.07),P for trend=0.02
アテローム血栓性脳梗塞: 1.0,0.83(0.60-1.14),0.80(0.55-1.16),0.89(0.58-1.35),0.81(0.49-1.34),P for trend=0.55
脳塞栓: 1.0,0.92(0.71-1.20),0.96(0.70-1.30),0.94(0.65-1.34),1.04(0.69-1.58),P for trend=0.84
◇ 飽和脂肪酸の摂取量と心疾患リスク
飽和脂肪酸の摂取量のカテゴリーごとの心筋梗塞発症および心臓突然死の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,心筋梗塞については有意な正の関連がみとめられた。
心筋梗塞:1.0,0.90(0.68-1.18),1.24(0.92-1.67),1.24(0.88-1.75),1.39(0.93-2.08),P for trend=0.046
心臓突然死: 1.0,0.53(0.30-0.93),0.29(0.14-0.60),0.42(0.19-0.92),0.39(0.15-0.99),P for trend=0.06
◇ 降圧薬・糖尿病治療薬服用による調整
今回の検討でみとめられた飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患との関連に,高血圧や糖尿病が関与している可能性を考えて,降圧薬服用および糖尿病治療薬服用による調整を行うと,全脳卒中(Q1に対するQ5の多変量調整ハザード比: 0.82[95%信頼区間0.69-0.98],P for trend=0.01),脳内出血(0.63[0.45-0.89],P for trend=0.009),ラクナ梗塞(0.81[0.57-1.14],P for trend=0.047),心筋梗塞(1.49[0.99-2.22],P for trend=0.02)については同様の結果がみとめられたが,虚血性脳卒中との関連は弱くなった(0.91[0.72-1.14],P for trend=0.25)。
◇ 結論
食事からの飽和脂肪酸の摂取は動脈硬化を惹起すると考えられているが,脳卒中および冠動脈疾患との関連については一貫した知見が得られておらず,また欧米にくらべて摂取量の少ないアジア人での検討は少ない。そこで,「飽和脂肪酸の摂取量は深部の脳実質出血リスクおよびラクナ梗塞リスク増加と負の関連を示す」「飽和脂肪酸の摂取量は冠動脈疾患リスク増加と関連する」という仮説について,日本人一般住民を対象とした大規模多施設前向きコホート研究で検討した。平均11.1年間の追跡の結果,飽和脂肪酸の摂取量と全心血管疾患発症および脳卒中(とくに深部の脳実質出血およびラクナ梗塞)の発症リスクには有意な負の関連がみられたが,心筋梗塞発症リスクとのあいだには有意な正の関連がみとめられた。