[2014年文献] 肺炎クラミジア感染は冠動脈疾患および心筋梗塞発症リスクと関連
近年,血管壁の急性または慢性の炎症が,動脈硬化を介して冠動脈疾患(CHD)の発症につながることが指摘されている。とくに慢性の炎症をもたらす微生物の一つである肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae )は,電子顕微鏡下でヒト動脈硬化プラーク内に観察され,また冠動脈硬化巣から分離されたとの報告もあることから,肺炎クラミジア感染とCHDとの関連が注目されている。そこで,欧米よりCHDの少ない日本人一般住民の大規模前向きコホートにおいて,肺炎クラミジア感染とCHD発症リスクとの関連を検討するコホート内症例対照研究を行った。その結果,肺炎クラミジアのIgA抗体価指数が高いとCHDおよびMIの発症リスクがそれぞれ有意に増加していたが,IgGについてはCHD・MI発症リスクとの関連はみられなかった。以上の結果から,肺炎クラミジアの持続的または繰り返す感染がCHD発症リスクに関連している可能性が示唆される。
Sakurai-Komada N, et al. Association between Chlamydophila pneumoniae infection and risk of coronary heart disease for Japanese: The JPHC study. Atherosclerosis. 2014; 233: 338-342.
- コホート
- JPHCコホートI,II(コホート内症例対照研究)。
対象11保健所の管轄行政区内に居住し,研究に登録された40~69歳の男女14万420人のうち,1990~92年(コホートI)または1993~95年(コホートII)のベースライン健診ならびに血液検査を受け,かつ1990~95年に実施された自己記入式質問票による調査に回答した,心血管疾患既往のない49011人(男性18159人,女性30852人,参加率35%)を2004年末まで追跡。
このなかから,追跡期間中の冠動脈疾患(CHD)発症者(196人),ならびに発症者1人につき2人の対照者(392人)を抽出した(性別,年齢[±2歳以内],血液検査実施日[3か月以内],食後経過時間[4時間以内],地域でマッチング)。
血清中の肺炎クラミジアIgA抗体価およびIgG抗体価を測定し,それぞれの結果により全体を以下のように四分位に分けて検討を行った。
・肺炎クラミジアIgA抗体価指数
Q1: 0~0.45,Q2: 0.45~0.71,Q3: 0.71~1.10,Q4: 1.11~6.06
・肺炎クラミジアIgG抗体価指数
Q1: 0~0.45,Q2: 0.45~0.86,Q3: 0.86~1.54,Q4: 1.54~4.64 - 結 果
- ◇ 対象背景
男性62.2%,平均年齢は57歳。
冠動脈疾患(CHD)発症者,対照者のおもな背景は以下のとおり(*P<0.05)。
BMI: 24.4,23.8 kg/m2 *,収縮期血圧: 141.3,134.2 mmHg*,拡張期血圧: 82.4,79.7 mmHg*,総コレステロール: 212,201 mg/dL*,糖尿病: 13.2%,3.4%*,喫煙率: 39.5%,28.2%*,飲酒率: 36.4%,46.2%*,降圧薬服用率: 33.2%,17.9%*,脂質低下薬服用率: 3.6%,1.5%,CRP: 0.08,0.06 mg/dL*
◇ 肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)感染とCHD死亡リスク
肺炎クラミジアIgGおよびIgAの抗体価指数によるカテゴリー間でCHDならびに心筋梗塞(MI)発症の多変量調整オッズ比†を比較した結果は以下のとおりで,IgAの抗体価指数が高いと,CHDおよびMIのリスクが有意に高くなっていたが,IgGはCHD,MIのいずれのリスクとも関連しなかった。
(†BMI,飲酒量,喫煙状況,収縮期血圧,総コレステロール,糖尿病,降圧薬服用,脂質低下薬服用で調整)
・CHD
[IgA]Q1: 1.00(対照),Q2: 2.03(1.11-3.74),Q3: 2.36(1.27-4.41),Q4: 2.29(1.21-4.33)
[IgG]Q1: 1.00,Q2: 1.45(0.80-2.60),Q3: 1.49(0.76-2.92),Q4: 1.85(0.92-3.72)
・MI
[IgA]Q1: 1.00,Q2: 1.77(0.92-3.43),Q3: 2.58(1.30-5.12),Q4: 2.58(1.29-5.19)
[IgG]Q1: 1.00,Q2: 1.23(0.65-2.30),Q3: 1.44(0.69-3.01),Q4: 1.25(0.56-2.79)
なお,IgAおよびIgG抗体価の一般的な判定基準(-/±/+/++)によるカテゴリーを用いて同様の検討を行った結果,「-」に対して「+」や「++」ではCHDおよびMIの多変量調整オッズ比†が高い傾向がみられたが,いずれも有意差はなかった。
◇ 結論
近年,血管壁の急性または慢性の炎症が,動脈硬化を介して冠動脈疾患(CHD)の発症につながることが指摘されている。とくに慢性の炎症をもたらす微生物の一つである肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae )は,電子顕微鏡下でヒト動脈硬化プラーク内に観察され,また冠動脈硬化巣から分離されたとの報告もあることから,肺炎クラミジア感染とCHDとの関連が注目されている。そこで,欧米よりCHDの少ない日本人一般住民の大規模前向きコホートにおいて,肺炎クラミジア感染とCHD発症リスクとの関連を検討するコホート内症例対照研究を行った。その結果,肺炎クラミジアのIgA抗体価指数が高いとCHDおよびMIの発症リスクがそれぞれ有意に増加していたが,IgGについてはCHD・MI発症リスクとの関連はみられなかった。以上の結果から,肺炎クラミジアの持続的または繰り返す感染がCHD発症リスクに関連している可能性が示唆される。