[2014年文献] 米飯の摂取量は,心血管疾患の発症リスクおよび死亡リスクのいずれとも関連しない

日本人の米飯の摂取量は,過去数十年で減少してきたものの,いまだ総摂取エネルギーの3割近くを占めている。これまでに,白米をはじめとする精製炭水化物の摂取が,とくに女性の心血管疾患リスク増加に関連するとした報告がいくつかあるが,米飯の摂取量の多いアジア人における検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量と脳卒中発症リスクとの関連について,BMIも考慮した検討を行った。その結果,米飯の摂取量は心血管疾患の発症および死亡リスクのいずれとも関連しておらず,この結果は肥満者でも非肥満者でも同様であった。

Eshak ES, et al. Rice consumption is not associated with risk of cardiovascular disease morbidity or mortality in Japanese men and women: a large population-based, prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2014; 100: 199-207.pubmed

コホート
JPHCコホートI(ベースライン: 1990年)およびコホートII(ベースライン: 1993年)。
対象9保健所の管轄行政区内に居住し,研究参加に同意した40~59歳(コホートI)または40~69歳(コホートII)の95405人(参加率82%)のうち,白米の摂取に関する項目への回答がなかった528人,総摂取エネルギーが極端に多いまたは少ない(平均±3 SD超)744人,脳卒中・虚血性心疾患・癌の既往のある2910人を除いた91223人。
心血管疾患発症データについては,コホートIで2009年12月31日,コホートIIで2007年12月31日まで追跡(140万1401人・年)。
死亡データについては,コホートI・IIとも2009年12月31日まで追跡(142万8544人・年)。

食事および交絡因子の保有状況の更新のために,ベースライン時に加えて5年後および10年後にも,食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire: FFQ)および自己記入式質問票による調査を実施。5年後および10年後のFFQでは,摂取頻度とともに各食品の1回摂取量(ポーションサイズ)をたずね,その結果を用いて更新した摂取量のデータを解析に用いた。回答率は,ベースライン時は男性77%,女性83%,5年後調査はそれぞれ72%,79%,10年後調査は70%,78%。

米飯の摂取については,ベースライン時には標準的な摂取量として1膳(140 g)の摂取頻度を,5年後および10年後の調査時には摂取頻度とともにポーションサイズ(小: 110 g,中: 140 g,大: 170 g)をたずねた。これらの結果を用いて更新された,1日あたりの米飯の摂取量(g)の五分位によって,対象者を以下のカテゴリーに分類した。
  Q1: 中央値251 g,Q2: 326 g,Q3: 377 g,Q4: 430 g,Q5: 542 g
結 果
◇ 対象背景
米飯の摂取量が多いほど有意に高い値を示していたのは高血圧既往の割合,ブルーカラー職種の割合および炭水化物の摂取量で,有意に低い値を示していたのはエタノール摂取量,毎日運動する割合,脂質低下薬服用率,総摂取エネルギー,魚介類の摂取量,野菜の摂取量,果物の摂取量,肉類の摂取量,大豆の摂取量,食物繊維の摂取量,飽和脂肪酸の摂取量,蛋白質の摂取量およびナトリウムの摂取量。

追跡期間中に脳卒中を発症したのは4395人で(うち虚血性脳卒中が2590人,出血性脳卒中が1777人),虚血性心疾患(IHD)を発症したのは1088人だった。
追跡期間中の心血管疾患(CVD)死亡は2705人。うち脳卒中死亡が1153人,IHD死亡が605人,その他のCVDによる死亡が947人だった。

◇ 米飯の摂取とCVD発症リスク
米飯の摂取量のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも有意な関連はみとめられなかった。
年齢,性,管轄保健所,高血圧既往,糖尿病既往,脂質低下薬服用,BMI,喫煙状況,エタノール摂取量,余暇の運動習慣,職種,魚介類・肉類・果物・野菜・大豆・飽和脂肪酸・ナトリウムの摂取量,総摂取エネルギー,閉経状況[女性のみ],ホルモン補充治療状況[女性のみ]で調整)

・全脳卒中(P for trend=0.72)
  Q1: 1.00(対照),Q2: 1.07(0.93-1.17),Q3: 0.94(0.85-1.08),Q4: 0.93(0.84-1.13),Q5: 1.01(0.90-1.14)
・出血性脳卒中(P for trend=0.51)
  Q1: 1.00,Q2: 1.05(0.90-1.22),Q3: 0.95(0.81-1.12),Q4: 0.95(0.81-1.11),Q5: 0.96(0.79-1.15)
・虚血性脳卒中(P for trend=0.34)
  Q1: 1.00,Q2: 1.07(0.92-1.23),Q3: 0.99(0.81-1.07),Q4: 0.99(0.81-1.16),Q5: 1.05(0.90-1.22)
・IHD(P for trend=0.56)
  Q1: 1.00,Q2: 0.93(0.76-1.14),Q3: 0.99(0.80-1.22),Q4: 0.95(0.77-1.19),Q5: 1.08(0.84-1.38)

◇ 米飯の摂取とCVD死亡リスク
米飯の摂取量のカテゴリーごとのCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも有意な関連はみとめられなかった。

・全CVD死亡(P for trend=0.33)
  Q1: 1.00,Q2: 0.96(0.85-1.09),Q3: 1.00(0.88-1.15),Q4: 0.81(0.80-1.11),Q5: 0.97(0.84-1.13)
・全脳卒中死亡(P for trned=0.71)
  Q1: 1.00,Q2: 1.07(0.88-1.30),Q3: 1.07(0.88-1.32),Q4: 1.00(0.82-1.23),Q5: 1.03(0.82-1.30)
・IHD死亡(P for trend=0.42)
  Q1: 1.00,Q2: 0.81(0.61-1.06),Q3: 0.93(0.70-1.23),Q4: 0.85(0.64-1.12),Q5: 0.93(0.68-1.27)
・その他のCVD死亡(P for trend=0.71)
  Q1: 1.00,Q2: 0.93(0.75-1.16),Q3: 0.96(0.77-1.20),Q4: 0.85(0.67-1.14),Q5: 0.91(0.71-1.17)

以上の結果は,感度分析(ベースライン時または最新の米飯摂取データのみを用いた解析,糖尿病既往者を除外した解析,追跡調査でなんらかの疾患既往が明らかになった対象者の食事調査データの更新を行わなかった解析,40~59歳の年齢層のみの解析)を行っても同様であった。
また,男女別,ならびにBMI別(25 kg/m2以上/未満)に解析を行っても結果は変わらなかった。

◇ 炭水化物の摂取量とCVD
炭水化物の摂取量とCVD発症および死亡リスク(多変量調整後)についても検討した結果,全脳卒中発症(P for trend=0.33),IHD発症(P for trend=0.19),全CVD死亡(P for trend=0.26)のいずれについても,有意な関連はみられなかった(年齢,性,管轄保健所,高血圧既往,糖尿病既往,脂質低下薬服用,BMI,喫煙状況,エタノール摂取量,余暇の運動習慣,職種,飽和脂肪酸・ナトリウムの摂取量,総摂取エネルギーで調整)。


◇ 結論
日本人の米飯の摂取量は,過去数十年で減少してきたものの,いまだ総摂取エネルギーの3割近くを占めている。これまでに,白米をはじめとする精製炭水化物の摂取が,とくに女性の心血管疾患リスク増加に関連するとした報告がいくつかあるが,米飯の摂取量の多いアジア人における検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量と脳卒中発症リスクとの関連について,BMIも考慮した検討を行った。その結果,米飯の摂取量は心血管疾患の発症および死亡リスクのいずれとも関連しておらず,この結果は肥満者でも非肥満者でも同様であった。


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