[2014年文献] 女性における社会的地位の不一致,とくに「資格過剰」は脳卒中発症リスクと関連
教育歴と職業が見合っていない状況として定義される社会的地位の不一致(social status inconsistency)は,心血管疾患の発症に影響を及ぼす可能性がある。日本ではとくに女性でその傾向が強いとされるものの,これまでに検討は行われていない。そこで,社会的地位の不一致と脳卒中発症リスクとの関連について,大規模多施設前向きコホート研究の対象者の女性における検討を行った。その結果,社会的地位の不一致のうち「資格過剰」(学歴スコア>職業スコア)の女性では脳卒中発症リスクが有意に高いことが示された。また,学歴と職業のカテゴリーの組合わせごとにみた脳卒中発症リスクがもっとも高かったのは,「短期大学・専門学校・大学卒業以上+肉体労働」の女性であった。
Honjo K, et al.; JPHC Study Group. Socioeconomic status inconsistency and risk of stroke among Japanese middle-aged women. Stroke. 2014; 45: 2592-8.
- コホート
- JPHCコホートI。
対象15保健所の管轄行政区内に居住し,1990年に研究に登録された40~59歳の61595人を対象に,社会人口統計学的な情報を含む質問票調査を実施。回答が得られた50245人(回答率82%)のうち,脳卒中発症率のデータのない東京地区の7096人,日本人ではない7人,追跡開始前に転居した2人,癌または心血管疾患既往のある1549人を除いた41591人のなかの女性21599人から,さらに職業が不明の339人,教育年数が不明の599人,最終学歴が中学・高校・短期大学/専門学校・大学・大学院のいずれにも該当しない359人,および就業していない5690人を除外。最終的に14742人の女性を平均18.5年間追跡した。
・社会的地位の不一致(social status inconsistency)の評価
対象者の職業スコアと学歴スコアをそれぞれ以下のように定義し,学歴スコアから職業スコアを差し引いた結果によって,「妥当(qualified: -1,0,1点)」「資格過剰(overqualified: 2,3点)」「資格不足(underqualified: -2,-3点)」のいずれかに対象者を分類した。
[学歴スコア]
1点: 中学卒業; 7867人(53%)
2点: 高校卒業; 5219人(35%)
3点: 短期大学・専門学校卒業; 1311人(9%)
4点: 大学卒業以上; 345人(2%)
[職業スコア]
1点: 肉体労働(警備,農林水産業,輸送,労務); 8031人(54%)
2点: サービス・販売; 3950人(27%)
3点: 事務職; 1638人(11%)
4点: 専門・管理職; 1124人(8%) - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢49.0歳,婚姻率は73.0%。
最終学歴ごとにみると,中学卒業の女性では年齢,過体重の割合,高血圧既往の割合および大きい心理的ストレスをもつ割合が高く,活発に運動する割合および婚姻率が低かった。
職業ごとにみると,専門・管理職の女性では婚姻率,活発に運動する割合および大きい心理的ストレスをもつ割合が高く,一方でサービス・販売職の女性では喫煙率,多量飲酒者の割合,および過体重の割合が高かった。
社会的地位の不一致について,「資格不足」に該当するのは720人(5%),「妥当」は13706人(93%),「資格過剰」は316人(2%)であった。
「資格過剰」の女性では,年齢,活発に運動する割合および過体重の割合が高く,喫煙率や多量飲酒者の割合は低かった。
◇ 社会的地位の不一致と脳卒中発症リスク
学歴,職業,および社会的地位の不一致の各カテゴリーごとの,脳卒中発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,「資格不足」の女性における有意なリスク増加がみとめられた。
(†年齢,婚姻状況,地区,BMI,喫煙,飲酒,運動,自覚的心理的ストレス,高血圧,糖尿病,脂質異常症,および学歴[職業についての解析]または職業[学歴についての解析])
・学歴
中学卒業: 1.00(対照)
高校卒業: 0.73(0.59-0.89)
短期大学・専門学校・大学卒業以上: 0.97(0.69-1.36)
・職業
肉体労働: 1.60(0.99-2.60)
サービス・販売: 1.78(1.10-2.88)
事務職: 1.63(0.96-2.78)
専門・管理職: 1.00(対照)
・社会的地位の不一致
資格不足: 1.04(0.71-1.53)
妥当: 1.00(対照)
資格過剰: 2.23(1.22-4.09)
◇ 学歴と職業のカテゴリーの組合わせによる解析
学歴と職業のカテゴリーの組合わせごとに,職業による脳卒中発症の調整ハザード比(年齢,婚姻状況および地区で調整)の違いを検討した。
その結果,「短期大学・専門学校・大学卒業以上+専門・管理職」(対照)の女性にくらべて,もっとも脳卒中発症リスクが高くなっていたのは「短期大学・専門学校・大学卒業以上+肉体労働」の女性で(調整ハザード比3.47[95%信頼区間1.54-7.84]),その次に高かったのは「短期大学・専門学校・大学卒業以上+サービス・販売」の女性であった(3.21[1.49-6.90])。
◇ 結論
教育歴と職業が見合っていない状況として定義される社会的地位の不一致(social status inconsistency)は,心血管疾患の発症に影響を及ぼす可能性がある。日本ではとくに女性でその傾向が強いとされるものの,これまでに検討は行われていない。そこで,社会的地位の不一致と脳卒中発症リスクとの関連について,大規模多施設前向きコホート研究の対象者の女性における検討を行った。その結果,社会的地位の不一致のうち「資格過剰」(学歴スコア>職業スコア)の女性では脳卒中発症リスクが有意に高いことが示された。また,学歴と職業のカテゴリーの組合わせごとにみた脳卒中発症リスクがもっとも高かったのは,「短期大学・専門学校・大学卒業以上+肉体労働」の女性であった。