[2015年文献] コーヒーを多く飲む人では,心疾患・脳血管疾患による死亡リスクが低い
世界的にコーヒーの摂取量が急速に増加しているにもかかわらず,アジア人を対象にコーヒーの摂取量と死因別死亡リスクとの関連を調べた前向きの研究はほとんどない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,コーヒーの摂取量と,全死亡・おもな5つの死亡原因(癌・心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患・事故)との関連を検討した。その結果,コーヒーの摂取量と,全死亡・心疾患死亡・脳血管疾患死亡・呼吸器疾患死亡・事故による死亡・その他の死亡のリスクとのあいだには,いずれも有意な負の関連がみられた。とくに1日に3~4杯コーヒーを摂取する人は,もっともリスクが低かった。日常的にコーヒーを飲むことは,心疾患,脳血管疾患などによる死亡リスクの低下と関連している可能性が示唆された。
Saito E, et al. Association of coffee intake with total and cause-specific mortality in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2015; 101: 1029-37.
- コホート
- 対象11保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査(コホートI: 1990年,コホートII: 1993年)に参加した,初回調査時40~59歳(コホートI)または40~69歳(コホートII)の140420人のうち,外国人,出生日時が不正確な人,重複登録している人,転居を予定している人,追跡開始後に転居した人,および癌の既往・脳卒中既往・心筋梗塞既往がある人を除外した。そのなかで質問票への回答があった人のうち,回答に不備があった人(コーヒー・緑茶・烏龍茶・紅茶・炭酸飲料・ジュース・フルーツ・野菜・肉・魚・乳製品・米飯・味噌汁・エネルギーの摂取量,ベースライン時の就業状況,喫煙歴,アルコール摂取量,糖尿病既往,高血圧既往,日常的な運動の有無のいずれか)を除いた90914人(男性42836人,女性48078人)を平均18.7年間追跡した(169万9305人・年)。
コーヒーの摂取量(1日あたり)については,質問票への回答をもとに,対象者を以下のカテゴリーに分類した。
男性: 飲まない(12301人),1杯未満/日(12521人),1~2杯/日(11537人),3~4杯/日(4878人),5杯以上/日(1599人)
女性: 飲まない(14668人),1杯未満/日(13892人),1~2杯/日(14495人),3~4杯/日(4060人),5杯以上/日(963人) - 結 果
- ◇ 対象背景
男女ともに,コーヒーの摂取量が多いほど高い傾向を示していたのは喫煙率,低い傾向を示していたのは年齢,高血圧既往の割合および糖尿病既往の割合であった。
追跡期間中の死亡は12874人で,内訳は以下のとおり。
癌死亡: 5327人,心疾患死亡: 1577人,脳血管疾患死亡: 1264人,呼吸器疾患死亡: 783人,事故による死亡: 992人,その他の原因による死亡: 2931人
◇ コーヒーの摂取量と死亡リスク
コーヒーの摂取量のカテゴリーごとにみた全死亡リスクの多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,コーヒーの摂取量と全死亡とのあいだには,有意な負の関連がみとめられた(P for trend<0.001)。
(*性別,年齢,地域,喫煙,アルコール摂取量,BMI,高血圧既往,糖尿病既往,日常的な運動の有無,緑茶・烏龍茶・紅茶・炭酸飲料とジュース・エネルギー・フルーツ・野菜・魚・肉・乳製品・米飯・味噌汁の摂取量,就業状況)
[飲まない]1.00,[1杯未満/日]0.91(0.86-0.95),[1~2杯/日]0.85(0.81-0.90),[3~4杯/日]0.76(0.70-0.83),[5杯以上/日]0.85(0.75-0.98)
◇ コーヒーの摂取量と死因別死亡リスク
コーヒーの摂取量のカテゴリーごとにみた死因別の死亡リスクは以下のとおり(それぞれ「飲まない」,「1杯未満/日」,「1~2杯/日」,「3~4杯/日」,「5杯以上/日」の値)。コーヒーの摂取量と心疾患死亡・脳血管疾患死亡・呼吸器疾患死亡・事故による死亡・その他の死亡の死亡リスクのあいだには,いずれも有意な負の関連がみとめられた。コーヒー摂取量と癌死亡のあいだには,有意な関連はみとめられなかった。
・心疾患死亡(P for trend=0.001)
1.00,0.90(0.78-1.03),0.77(0.65-0.90),0.64(0.50-0.84),1.03(0.73-1.47)
・脳血管疾患死亡(P for trend<0.001)
1.00,0.84(0.72-0.98),0.77(0.64-0.92),0.57(0.41-0.78),0.72(0.44-1.16)
・呼吸器疾患死亡(P for trend<0.001)
1.00,0.78(0.64-0.94),0.63(0.50-0.79),0.60(0.41-0.88),0.79(0.45-1.40)
・事故による死亡(P for trend=0.009)
1.00,0.84(0.71-1.00),0.88(0.73-1.06),0.65(0.48-0.89),0.68(0.42-1.11)
・その他の原因による死亡(P for trend<0.001)
1.00,0.84(0.76-0.93),0.79(0.70-0.88),0.61(0.50-0.74),0.76(0.57-1.02)
・癌死亡(P for trend=0.622)
1.00,1.00(0.93-1.08),0.98(0.90-1.07),1.00(0.88-1.13),0.95(0.77-1.16)
これらの関連は,追跡開始から5年以内に死亡した人を除外した解析でも同様であった。
◇ 結論
世界的にコーヒーの摂取量が急速に増加しているにもかかわらず,アジア人を対象にコーヒーの摂取量と死因別死亡リスクとの関連を調べた前向きの研究はほとんどない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,コーヒーの摂取量と,全死亡・おもな5つの死亡原因(癌・心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患・事故)との関連を検討した。その結果,コーヒーの摂取量と,全死亡・心疾患死亡・脳血管疾患死亡・呼吸器疾患死亡・事故による死亡・その他の死亡のリスクとのあいだには,いずれも有意な負の関連がみられた。とくに1日に3~4杯コーヒーを摂取する人は,もっともリスクが低かった。日常的にコーヒーを飲むことは,心疾患,脳血管疾患などによる死亡リスクの低下と関連している可能性が示唆された。