[2010年文献] 米飯を多く食べる女性では,2型糖尿病の発症リスクが高い
日本人の米飯の摂取量は過去数十年で減少してきたものの,いまだ総摂取エネルギーの3割近くを占めている。これまでに,白米をはじめとする精製炭水化物の摂取が糖代謝異常を介して2型糖尿病のリスクを増加させるとの報告があるが,米飯の摂取量の多いアジア人における検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの関連について検討した。5年間の追跡の結果,女性では,米飯の摂取量が多いほど2型糖尿病発症リスクが高くなることが示された。女性における有意なリスク増加は,1日3杯(420 g)以上摂取するカテゴリーからみとめられた。パンおよび麺類の摂取量は,性別を問わず,2型糖尿病の発症リスクとは関連していなかった。
Nanri A, et al.; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2010; 92: 1468-77.
- コホート
- JPHCコホートI(1990年開始)およびコホートII(1993年開始)。
対象9保健所の管轄行政区内に居住し,研究参加に同意した40~69歳の95373人のうち,研究開始から5年後(コホートI: 1995年,コホートII: 1998年)に実施された自己記入式質問票および147品目の食物摂取頻度調査票(FFQ: 1回あたり摂取量[ポーションサイズ]の調査を含む)による調査に参加し,さらに10年後の追跡調査にも応じた71075人(参加率74.5%)。このうち2型糖尿病既往のある5183人,癌・脳血管疾患・心筋梗塞・慢性肝疾患・腎疾患などの重篤な疾患をもつ6284人,米飯の摂取に関するデータに不備のある556人,および総摂取エネルギーが極端に多いまたは少ない(平均±3 SD超)537人を除いた59288人(男性25666人,女性33622人)を5年間追跡した。
糖尿病の発症状況については,研究開始から10年後に実施した自己記入式質問票による調査,ならびに病院受診記録による確認を行って把握。
◇ 主食の摂取量(1日あたり)
米飯(ジャポニカ米,ポーションサイズ: 小110 g/中140 g/大170 g),パンおよび麺類(ポーションサイズ: 標準量の1/2未満/標準量/標準量の1.5倍超)の摂取についてたずね,算出された1日あたりの摂取量の四分位によるカテゴリーに対象者を分類した。
各カテゴリーの平均摂取量は以下のとおり。
・米飯: 男性[Q1]0~315 g,[Q2]>315~420 g,[Q3]>420~560 g,[Q4]>560 g; 女性0~278 g,280~417 g,420~420 g,>437 g
・パン: 男性0~2 g,4~6 g,12~23 g,≧30 g; 女性0~4 g,6~12 g,15~30 g,≧45 g
・麺類: 男性0~44.6 g,44.9~90.46 g,90.47~146.6 g,>146.6 g; 女性0~44.64 g,44.65~71.7 g,71.8~114 g,>114.1 g - 結 果
- ◇ 対象背景
対象者における炭水化物摂取のうち,米飯が占める割合は男性51.9%,女性46.4%で,パンはそれぞれ3.3%,4.6%,麺類はそれぞれ7.4%,6.3%であった。
米飯の摂取量が多いカテゴリーほど有意に高い値を示していたのは,喫煙率(男性のみ),身体活動量,第一次産業従事者の割合,糖尿病家族歴(男性のみ),総摂取エネルギー,炭水化物の摂取量,麺類の摂取量(女性のみ),果物の摂取量,野菜の摂取量(男性のみ),および魚の摂取量。
一方,米飯の摂取量が多いほど有意に低い値を示していたのは,年齢,BMI,喫煙率(女性のみ),週1回以上の飲酒の割合,高血圧既往の割合,蛋白質の摂取量,脂肪の摂取量,カルシウムの摂取量,マグネシウムの摂取量,食物繊維の摂取量,パンの摂取量,麺類の摂取量(男性のみ),野菜の摂取量(女性のみ),1日1杯以上のコーヒー摂取の割合。
パンの摂取量が多い人では,第一次産業従事者の割合が低く,喫煙率および飲酒率が低く(男性のみ),脂肪・食物繊維(男性のみ)・コーヒー・カルシウム(男性のみ)・マグネシウム(男性のみ)の摂取量が多かった。
麺類の摂取量が多い人では,飲酒率が高く,食物繊維の摂取量が多かったが,カルシウムの摂取量が少なかった。
追跡期間中に糖尿病を新たに発症したのは1103人(男性625人,女性478人)。
◇ 米飯,パン,麺類の摂取と2型糖尿病発症リスク
米飯,パンおよび麺類の摂取量のカテゴリーごとの2型糖尿病発症の多変量調整オッズ比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,女性の米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連がみとめられた。
(†年齢,管轄保健所,喫煙状況,飲酒状況,糖尿病家族歴,身体活動量,高血圧既往,職種,総摂取エネルギー,コーヒー摂取状況,カルシウム・マグネシウム・食物繊維・果物・野菜・魚の摂取量,BMI,ならびに検討項目以外の主食[米飯/パン/麺類]の摂取量で調整)
・米飯
[男性]Q1: 1.00(対照),Q2: 1.24(1.00-1.55),Q3: 1.25(0.93-1.67),Q4: 1.19(0.85-1.68),P for trend=0.32
[女性]Q1: 1.00,Q2: 1.15(0.85-1.55),Q3: 1.48(1.08-2.02),Q4: 1.65(1.06-2.57),P for trend=0.005
・パン
[男性]Q1: 1.00,Q2: 1.08(0.85-1.39),Q3: 1.11(0.85-1.43),Q4: 0.85(0.64-1.14),P for trend=0.30
[女性]Q1: 1.00,Q2: 1.00(0.77-1.28),Q3: 1.10(0.83-1.46),Q4: 0.99(0.73-1.34),P for trend=0.87
・麺類
[男性]Q1: 1.00,Q2: 0.99(0.78-1.26),Q3: 1.01(0.79-1.29),Q4: 0.89(0.68-1.17),P for trend=0.49
[女性]Q1: 1.00,Q2: 1.04(0.78-1.39),Q3: 1.27(0.95-1.70),Q4: 1.15(0.83-1.58),P for trend=0.23
◇ 層別解析(多変量調整)
・強度の身体活動(1日1時間以上/未満)
男女とも,強度の身体活動時間が1日1時間未満の人では,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとが関連する傾向がみられたが,有意ではなかった(男女ともP for trend=0.08)。
1日1時間以上の人では,男女とも米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連はみられなかった。
・職種(第一次産業/それ以外)
男性では,職種を問わず,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連はなかった。
女性では,第一次産業以外の従事者でのみ,米飯の摂取量が多いほどリスクが高い有意な関連がみとめられた(P for trend=0.008)。
・年齢(60歳以上/未満)
男性では,年齢層を問わず,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連はなかった。
女性では,60歳未満でのみ,米飯の摂取量が多いほどリスクが高い有意な関連がみとめられた(P for trend=0.02)。
・BMI(25 kg/m2以上/未満)
男性では,BMIを問わず,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連はなかった。
女性では,25 kg/m2未満でのみ,米飯の摂取量が多いほどリスクが高い有意な関連がみとめられた(P for trend<0.001)。
・喫煙状況(非喫煙/現在喫煙,男性のみ)
喫煙状況を問わず,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの有意な関連はなかった。
・閉経状況(閉経前/後,女性のみ)
閉経状況を問わず,米飯の摂取量が多いほどリスクが高い有意な関連がみとめられた(閉経前,後のいずれもP for trend=0.02)
◇ 結論
日本人の米飯の摂取量は過去数十年で減少してきたものの,いまだ総摂取エネルギーの3割近くを占めている。これまでに,白米をはじめとする精製炭水化物の摂取が糖代謝異常を介して2型糖尿病のリスクを増加させるとの報告があるが,米飯の摂取量の多いアジア人における検討は少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量と2型糖尿病発症リスクとの関連について検討した。5年間の追跡の結果,女性では,米飯の摂取量が多いほど2型糖尿病発症リスクが高くなることが示された。女性における有意なリスク増加は,1日3杯(420 g)以上摂取するカテゴリーからみとめられた。パンおよび麺類の摂取量は,性別を問わず,2型糖尿病の発症リスクとは関連していなかった。