[2015年文献] HbA1cの高値だけでなく低値も心血管疾患発症リスクと関連
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,HbA1c(とくに低値)と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。9.4年間(中央値)の追跡の結果,ベースライン時に糖尿病を有さない人において,HbA1cが低値(5.0%未満)および高値(6.5%以上)のいずれの場合もCVDおよび脳卒中の発症リスクが有意に高くなるという,二次関数的な関連がみとめられた。HbA1cと冠動脈疾患の発症リスクは,線形の関連を示していた。以上のように,糖尿病の人のみならず,糖尿病と診断されていないがHbA1c高値の人や,HbA1c低値の人においてもCVDのリスクが高い可能性が示された。
Goto A, et al.; JPHC Study Group. Hemoglobin a1c levels and the risk of cardiovascular disease in people without known diabetes: a population-based cohort study in Japan. Medicine (Baltimore). 2015; 94: e785.
- コホート
- 対象11保健所の管轄行政区内に居住し,1990年(コホートI)または1993年(コホートII)の健診を受けたJPHC研究の対象者(コホートI: 40~59歳,コホートII: 40~69歳)のうち,追跡健診とあわせて実施された,HbA1c値測定および糖尿病や生活習慣に関する質問票調査からなるJPHC Diabetes Studyの第1回(1998~2000年)または第2回(2003~2005年)のいずれか(ベースライン調査)に参加した35197人(冠動脈疾患および脳卒中発症に関するデータのない2保健所に属する対象者のデータは除外)。
このうち,心血管疾患既往のある1004人,癌の既往のある984人,および健診データに不備のある4150人を除いた29059人を,2009年12月31日(コホートI)または2008年12月31日(コホートII)まで追跡。
追跡期間の中央値は9.4年間(23万8456人・年)。
ベースライン時にすでに糖尿病と診断されていた人は1780人。
糖尿病と診断されていない人については,HbA1c値に基づき,以下の6つのカテゴリーに分類した。
5.0%未満(2008人),5.0~5.4%(8177人),5.5~5.9%(12450人),6.0~6.4%(3635人),6.5%以上(1009人),糖尿病(1780人) - 結 果
- ◇ 対象背景
HbA1cが低いカテゴリーにくらべ,HbA1cが高いカテゴリー,および糖尿病の人で高い値を示していたのは年齢,喫煙および禁煙者の割合,BMI,血圧,non-HDL-C,脂質低下薬服用率,身体活動の割合および摂取エネルギーで,低い値を示していたのはHDL-C。
追跡期間中の脳卒中の発症は770件(うちラクナ梗塞226件,非ラクナ脳梗塞232件,出血性脳卒中311件,病型不明1件)で,冠動脈疾患(CHD)の発症は165件(うち心筋梗塞の確定診断129件,心筋梗塞の可能性が高いものが12件,心臓突然死が24件)であった。
◇ HbA1cと心血管疾患(CVD)死亡リスク
HbA1cおよび糖尿病のカテゴリーごとの,心血管疾患発祥の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,CVDおよび脳卒中については二次関数的な(quadratic)関連がみとめられ,脳卒中病型別にみてもおおむね同様であったが,出血性脳卒中ではHbA1cが低いカテゴリーにおいて,高いカテゴリーよりもハザード比が高くなっていた。一方,CHDについては線形の有意な関連がみとめられた。
糖尿病をもつ人のCVDおよびその内訳のリスクは,出血性脳卒中を除いていずれも有意に高かった(vs. HbA1c 5.0~5.4%)。
(†年齢,性,管轄保健所,BMI,喫煙,スポーツ・身体活動,飲酒,収縮期血圧,non-HDL-C,HDL-Cで調整)
・CVD
5.0%未満: 1.50(1.15-1.95),5.0~5.4%: 1.00(対照),5.5~5.9%: 1.01(0.85-1.20),6.0~6.4%: 1.04(0.82-1.32),6.5%以上: 1.77(1.32-2.38)
[線形の関連のP=0.069,二次関数的な関連のP<0.001]
糖尿病: 1.81(1.43-2.29)
・脳卒中
1.55(1.17-2.05),1.00,0.99(0.82-1.20),0.97(0.74-1.26),1.80(1.30-2.50)
[線形の関連のP=0.24,二次関数的な関連のP<0.001]
糖尿病: 1.79(1.38-2.31)
・出血性脳卒中
1.72(1.14-2.60),1.00,0.97(0.73-1.29),0.87(0.57-1.32),1.15(0.63-2.09)
[線形の関連のP=0.27,二次関数的な関連のP=0.018]
糖尿病: 1.23(0.76-1.97)
・虚血性脳卒中
1.47(0.996-2.15),1.00,1.00(0.78-1.29),1.06(0.75-1.51),2.29(1.53-3.42)
[線形の関連のP=0.011,二次関数的な関連のP<0.001]
糖尿病: 2.19(1.60-3.09)
・ラクナ梗塞
1.41(0.81-2.46),1.00,0.94(0.65-1.35),1.10(0.68-1.80),2.21(1.20-4.06)
[線形の関連のP=0.067,二次関数的な関連のP=0.066]
糖尿病: 2.38(1.54-3.68)
・非ラクナ脳梗塞
1.51(0.89-2.58),1.00,1.07(0.75-1.52),1.02(0.62-1.69),2.47(1.43-4.25)
[線形の関連のP=0.066,二次関数的な関連のP=0.006]
糖尿病: 1.99(1.26-3.16)
・CHD
1.23(0.57-2.56),1.00,1.09(0.71-1.67),1.42(0.83-2.43),1.92(0.96-3.85)
[線形の関連のP=0.046,二次関数的な関連のP=0.61]
糖尿病: 1.94(1.11-3.41)
HbA1cとCVDとの二次関数的な関連は,さらに腎機能障害,肝機能障害,貧血,およびBMI低値の人を除外した解析のいずれにおいても同様にみとめられた。
男女別に解析を行うと,男性では,HbA1c 5.0~5.4%に対して,5.0%未満,6.5%以上,および糖尿病におけるCVD発症の多変量調整ハザード比†の有意な増加がみとめられた。一方,女性では,HbA1c 5.0~5.4%に対し,有意なCVDリスク増加がみられたのは6.5%以上および糖尿病のみであった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,HbA1c(とくに低値)と心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。9.4年間(中央値)の追跡の結果,ベースライン時に糖尿病を有さない人において,HbA1cが低値(5.0%未満)および高値(6.5%以上)のいずれの場合もCVDおよび脳卒中の発症リスクが有意に高くなるという,二次関数的な関連がみとめられた。HbA1cと冠動脈疾患の発症リスクは,線形の関連を示していた。以上のように,糖尿病の人のみならず,糖尿病と診断されていないがHbA1c高値の人や,HbA1c低値の人においてもCVDのリスクが高い可能性が示された。