[2018年文献] 飲酒量と全死亡リスクはJ字型に関連し,飲酒者男性の「休肝日」は癌・脳血管疾患死亡リスク低下と関連
日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,アルコール摂取量および摂取パターン(休肝日の有無)と,全死亡および死因別死亡リスクとの関連について検討した。その結果,男女ともに,アルコール摂取量は,全死亡・癌死亡・脳血管疾患死亡リスクとJ字型の有意な関連がみとめられた。また,飲酒者の男性では,1週間のアルコール摂取量にかかわらず,休肝日を設けない人に比して,休肝日が1~2日/週の人の癌死亡・脳血管疾患死亡リスクが有意に少なかった。節度のある飲酒をすることと,休肝日を設けることは,死亡リスクの低下に関連している可能性が示唆された。
Saito E, et al. Impact of Alcohol Intake and Drinking Patterns on Mortality From All Causes and Major Causes of Death in a Japanese Population. J Epidemiol. 2018; 28: 140-148.
- コホート
- JPHCコホートI(ベースライン: 1990年)およびコホートII(ベースライン: 1993年)。
対象11保健所の140420人のうち,アンケート調査の回答があった,40~59歳(コホートI)または40~69歳(コホートII)の113380人。回答者のうち,死亡・海外移住または追跡不可能の57人,癌の既往・脳卒中既往・心筋梗塞既往のある4164人,アルコール摂取量または食事の調査結果に不備のあった6310人を除いた102849人(男性48309人,女性54540人)を対象とした。追跡期間は,2011年12月31日までの平均18.2年間。
アルコール摂取量(エタノール換算)または頻度により,対象者を男女別に以下のカテゴリーに分類した。
男性: [Q1]飲まない,[Q2]1ヵ月に1~3回,[Q3]1~149 g/週,[Q4]150~299 g/週,[Q5]300~449 g/週,[Q6]450~599 g/週,[Q7]600 g以上/週
女性: [Q1]飲まない,[Q2]1ヵ月に1~3回,[Q3]1~149 g/週,[Q4]150~299 g/週,[Q5]300~449 g/週,[Q6]450 g以上/週 - 結 果
- ◇ 対象背景
男女ともに,アルコール摂取量が多いほど有意に高い値を示していたのは,喫煙率,高血圧既往の割合で,有意に低い値を示していたのは年齢であった。
追跡期間中の死亡は15203人。
うち癌による死亡は6228人,心疾患死亡は1899人,脳血管疾患死亡は1493人,呼吸器疾患死亡は948人,事故による死亡は1141人,その他の原因による死亡は3494人であった。
◇ アルコール摂取量と死亡リスク
アルコール摂取量のカテゴリーごとの,死亡の多変量調整*ハザード比は以下のとおりで,アルコール摂取量と死亡リスクには,男女ともにJ字型の有意な関連がみとめられた。(*年齢,地区,喫煙,BMI,高血圧既往,フラッシング反応[顔の紅潮],糖尿病既往,日常的な運動の有無,コーヒーまたは緑茶の摂取,エネルギー摂取量,フルーツ・野菜・魚・肉・乳製品の摂取,就業状況で調整)
・全死亡
男性: [Q1]1.00,[Q2]0.74(95%信頼区間0.68-0.80),[Q3]0.76(0.71-0.81),[Q4]0.75(0.70-0.80),[Q5]0.84(0.78-0.91),[Q6]0.92(0.83-1.01),[Q7]1.19(1.07-1.32),非線形の関連のP<0.001
女性: [Q1]1.00,[Q2]0.75(0.70-0.82),[Q3]0.80(0.73-0.88),[Q4]0.91(0.74-1.13),[Q5]1.04(0.73-1.48),[Q6]1.59(1.07-2.38),非線形の関連のP<0.001
この関連は,ベースラインから5年以内に死亡した人を除いた解析でも同様であった。
1週間のアルコール摂取量が150 g未満の男性において,休肝日(飲酒を控える日)が1~2日/週,5~6日/週の人では,多変量調整‡ハザード比(vs. 休肝日を設けない人)は以下のとおりで,癌死亡ならびに脳血管疾患死亡リスクが有意に減少していた。また,休肝日が1~2日/週の人では全死亡リスクも有意に減少していた。
(‡年齢,地域,喫煙,BMI,アルコールの累積摂取量,フラッシング反応[顔の紅潮],高血圧既往,糖尿病既往,日常的な運動の有無,コーヒーまたは緑茶の摂取,エネルギー摂取量,フルーツ・野菜・魚・肉・乳製品の摂取,就業状況で調整)
[アルコール摂取量が150 g未満/週の男性]
・休肝日が1~2日/週(vs. 休肝日を設けない人)
全死亡: 0.77(0.65-0.91),癌死亡: 0.71(0.57-0.88),心疾患死亡: 0.76(0.48-1.18),脳血管疾患死亡: 0.60(0.38-0.97)
・休肝日が5~6日/週(vs. 休肝日を設けない人)
全死亡: 0.93(0.79-1.09),癌死亡: 0.72(0.58-0.88),心疾患死亡: 1.05(0.69-1.58),脳血管疾患死亡: 0.61(0.38-0.96)
1週間のアルコール摂取量が150~299 g/週または300 g以上/週の男性についても,休肝日が1~2日/週の人では,癌死亡ならびに脳血管疾患死亡リスクが有意に減少していた。休肝日が5~6日/週の人については,有意な差はみとめられなかった。
[アルコール摂取量が150~299 g/週の男性]
・休肝日が1~2日/週(vs. 休肝日を設けない人)
全死亡: 0.96(0.86-1.07),癌死亡: 0.74(0.63-0.86),心疾患死亡: 0.86(0.64-1.16),脳血管疾患死亡: 0.60(0.43-0.84)
[アルコール摂取量が300 g以上/週の男性]
・休肝日が1~2日/週(vs. 休肝日を設けない人)
全死亡: 0.98(0.89-1.07),癌死亡: 0.75(0.65-0.87),心疾患死亡: 0.79(0.61-1.02),脳血管疾患死亡: 0.67(0.50-0.90)
女性では有意な差がみとめられなかった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,アルコール摂取量および摂取パターン(休肝日の有無)と,全死亡および死因別死亡リスクとの関連について検討した。その結果,男女ともに,アルコール摂取量は,全死亡・癌死亡・脳血管疾患死亡リスクとJ字型の有意な関連がみとめられた。また,飲酒者の男性では,1週間のアルコール摂取量にかかわらず,休肝日を設けない人に比して,休肝日が1~2日/週の人の癌死亡・脳血管疾患死亡リスクが有意に少なかった。節度のある飲酒をすることと,休肝日を設けることは,死亡リスクの低下に関連している可能性が示唆された。