[2017年文献] チョコレートの摂取量が多い女性では脳卒中発症リスクが低い
これまでに,チョコレートやカカオを豊富に含む食品の摂取が血圧や脂質などの心血管危険因子によい影響をもたらし,脳卒中リスク低下とも関連するとの報告があるが,おもに欧米での研究であり,脳卒中病型別の検討も行われていなかった。そこで,チョコレートの摂取量が欧米の1/2程度である日本人一般住民を対象とした大規模多施設前向きコホート研究において,チョコレートの摂取量と脳卒中発症リスクとの関連を検討した。その結果,女性では,摂取量の多いカテゴリーほど脳卒中発症リスクが低くなっており,この傾向は病型別にみても同様であった。一方,男性では明らかな関連はみとめられなかった。
Dong JY, et al.; Japan Public Health Center–based Prospective Study Group. Chocolate consumption and risk of stroke among men and women: A large population-based, prospective cohort study. Atherosclerosis. 2017; 260: 8-12.
- コホート
- JPHCコホートIおよびコホートII。
対象11保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査(コホートI: 1990年,コホートII: 1993年),ならびに5年後に実施された第2回調査(食物摂取頻度調査票[FFQ]を用いた食事調査を含む)に参加した,初回調査時40~59歳(コホートI)または40~69歳(コホートII)の113171人のうち,28574人(心疾患・脳卒中・糖尿病・癌の既往があった人,チョコレート摂取に関する回答に不備のあった人,BMIが著しく高いまたは低い人[14kg/m2未満または40kg/m2超],総摂取エネルギー量が著しく高いまたは低い人[男女ごとの平均±2 SDの範囲外],ならびに脳卒中発症データのない2保健所の管轄内に居住していた人)を除いた84597人(男性38182人,女性46415人)(回答率81.5%)を対照とした。
第2回調査時から2009年末(コホートI)または2010年末(コホートII)まで,12.9年間(中央値)追跡。
第2回調査時にFFQ(138品目)を実施。摂取頻度(食べない~1日7回以上)とポーションサイズ(≦12.5 g,25 g,37.5 g以上)をかけあわせて求めた対象者の1週間あたりのチョコレート摂取量の四分位を用いて,以下のカテゴリーで解析を行った。
[男性]Q1(中央値): 0 g,Q2: 5.8 g,Q3: 11.6 g,Q4: 37.5 g
[女性]Q1: 0 g,Q2: 5.8 g,Q3: 11.6 g,Q4: 37.5 g - 結 果
- ◇ 対象背景
チョコレートの摂取量が多いカテゴリーほど有意に高い値を示していたのは,週3回以上運動する人の割合(男性のみ),緑茶の摂取量,魚介類の摂取量,肉類の摂取量,果物の摂取量,野菜の摂取量,大豆製品の摂取量ならびに総摂取エネルギー量で,有意に低い値を示していたのは年齢,降圧薬服用率,脂質低下薬服用率(女性のみ),喫煙率(女性のみ),ホワイトカラー職の人の割合(女性のみ),およびアルコール摂取量であった。
◇ チョコレートの摂取量と全脳卒中発症リスク
チョコレートの摂取量のカテゴリーごとにみた全脳卒中発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおり。年齢調整モデルでは男女ともに有意な負の関連がみられたものの,多変量調整を行うと男性では有意な関連がみとめられなかった。
(†年齢,地区,BMI,喫煙,運動,職種,降圧薬・脂質低下薬服用,飲酒,総摂取エネルギー量,および緑茶・コーヒー・魚介類・肉類・果物・大豆製品・野菜の摂取量で調整)
[男性]Q1: 1.00,Q2: 0.98(0.86-1.13),Q3: 1.08(0.96-1.22),Q4: 0.94(0.80-1.10),P for trend=0.41
[女性]1.00,0.90(0.78-1.04),0.97(0.84-1.11),0.84(0.71-0.99),P for trend=0.05
チョコレートの摂取量と全脳卒中リスクとの関連について,性による有意な相互作用はみられなかった(P for interaction=0.19)。
また,男女をあわせた解析を行うと関連が強まった(Q4の多変量調整ハザード比0.89[0.80-1.00] vs. Q1)。
◇ チョコレートの摂取量と脳卒中病型別の発症リスク
チョコレートの摂取量のカテゴリーごとにみた,脳梗塞および出血性脳卒中(脳内出血+くも膜下出血)の発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおり。
性を問わず,いずれの病型についても有意な関連はみとめられなかったが,女性の脳梗塞および出血性脳卒中リスクについては,摂取量が多いカテゴリーほど低くなる傾向がみられた。
・脳梗塞
[男性]Q1: 1.00,Q2: 1.05(0.89-1.24),Q3: 1.07(0.92-1.24),Q4: 0.97(0.79-1.17),P for trend=0.66
[女性]1.00,0.97(0.80-1.18),0.98(0.81-1.19),0.82(0.65-1.03),P for trend=0.08
・出血性脳卒中
[男性]1.00,0.85(0.67-1.08),1.09(0.89-1.33),0.87(0.67-1.13),P for trend=0.37
[女性]1.00,0.81(0.65-1.00),0.93(0.76-1.14),0.85(0.67-1.07),P for trend=0.26
◇ 結論
これまでに,チョコレートやカカオを豊富に含む食品の摂取が血圧や脂質などの心血管危険因子によい影響をもたらし,脳卒中リスク低下とも関連するとの報告があるが,おもに欧米での研究であり,脳卒中病型別の検討も行われていなかった。そこで,チョコレートの摂取量が欧米の1/2程度である日本人一般住民を対象とした大規模多施設前向きコホート研究において,チョコレートの摂取量と脳卒中発症リスクとの関連を検討した。その結果,女性では,摂取量の多いカテゴリーほど脳卒中発症リスクが低くなっており,この傾向は病型別にみても同様であった。一方,男性では明らかな関連はみとめられなかった。