[2019年文献] 中高年男性の長時間労働は急性心筋梗塞発症リスクと関連する
欧米,豪州の研究を含むメタ解析の結果から,長時間労働をする人は,標準的な労働時間の人と比べて,冠動脈疾患発症リスク・脳卒中発症リスクが高くなることが報告されている。一方で,「過労死」が問題になっているにもかかわらず,日本人を対象とした大規模研究は少ない。そこで,日本人男性を対象とした大規模コホート研究において,労働時間と心血管疾患リスクとの関連を調べた。その結果,50~59歳の男性で,労働時間が1日11時間以上の人では,7~9時間の人と比べて,急性心筋梗塞(AMI)発症リスクが有意に高かった。また,労働時間が長い人のほうが,AMI発症リスクが増加する傾向がみとめられた。中高年の日本人男性における長時間労働は,心筋梗塞発症リスクと有意に関連していることが示唆された。
Hayashi R, et al.; Japan Public Health Center-Based (JPHC) Prospective Study Group. Working Hours and Risk of Acute Myocardial Infarction and Stroke Among Middle-Aged Japanese Men - The Japan Public Health Center-Based Prospective Study Cohort II. Circ J. 2019;
- コホート
- JPHCコホートII。
対象6保健所(データのない大阪は除外)の管轄行政区内に居住し,初回調査(1993年)に参加した,40~69歳の63216人のうち,ベースライン時に自己記入式質問票に回答した人は52256人。そのうち,女性27451人(女性は男性と比べて1日の平均労働時間が短い[4.00時間 vs. 8.11時間]ため),日本国籍を持たない,あるいは調査前に転居した11人,癌・冠動脈疾患・脳卒中の既往のある1048人,労働時間の記載が不正確だった1692人,年齢が60~69歳の6500人,就業していない人または専業主夫277人を除外した40~59歳の男性15277人を20年間(中央値)追跡。
追跡期間中に労働時間が変化することも考慮し,ベースライン時と10年追跡時に労働時間を調査した。
ベースライン時には「あなたは1日に何時間働いていますか?」と自由回答の設問とし,10年追跡時には<1時間/日,1~<3時間/日,3~<5時間/日,5~<7時間/日,7~<9時間/日,9~<11時間/日,≧11時間/日の選択肢から回答する設問とした。
ベースライン時と10年追跡時の設問により算出した1日の労働時間について,以下の4つのカテゴリーに分類した。
G1: <7時間/日,G2: 7~<9時間/日,G3: 9~<11時間/日,G4: ≧11時間/日 - 結 果
- 追跡期間中に急性心筋梗塞(AMI)を発症したのは212人,脳卒中を発症したのは745人。
◇ 対象背景
ベースライン時 vs. 10年追跡時の労働時間のカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。
人数(人): [G1]694,[G2]6596,[G3]5945,[G4]2042 vs. [G1]4095,[G2]4994,[G3]2484,[G4]1099
年齢(歳): 51.2,48.9,48.5,48.1 vs. 61.9,57.6,56.6,55.7
BMI(kg/m2): 24.1,23.8,23.6,23.8 vs. 23.8,23.8,23.7,23.9
高血圧既往(%): 18%,16%,16%,15% vs. 28%,19%,15%,14%
飲酒習慣(%): 25%,18%,16%,18% vs. 17%,16%,15%,15%
喫煙習慣(%): 28%,25%,26%,24% vs. 30%,27%,25%,25%
睡眠時間(時間/日): 7.5,7.4,7.4,6.9 vs. 7.2,7.2,7.0,6.7
勤務者の割合(%): 19%,60%,54%,42% vs. 11%,42%,46%,52%
農業・林業・漁業に従事する人の割合(%): 40%,13%,14%,18% vs. 38%,13%,12%,9%
◇ 1日の労働時間と心血管疾患発症リスクとの関連
労働時間によるカテゴリーごとの心血管疾患発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。1日の労働時間(≧11時間)と,AMI発症リスクとのあいだに有意な関連はみとめられた。また,すべてのカテゴリーで,脳卒中発症リスク・出血性脳卒中発症リスク・全心血管疾患発症リスクとのあいだに有意な関連はみられなかった(†年齢,BMI,高血圧既往,糖尿病既往,高脂血症既往,喫煙,アルコール摂取量,徒歩時間または立っている時間,睡眠時間,職業で調整)。
AMI: [G1]1.29(0.81-2.05),[G2: 対照]1.00,[G3]1.22(0.84-1.77),[G4]1.63(1.01-2.63),P for trend=0.07
脳卒中: 1.04(0.82-1.32),1.00,1.06(0.87-1.29),0.83(0.60-1.13),P for trend=0.21
出血性脳卒中: 1.07(0.73-1.56),1.00,1.20(0.89-1.62),0.64(0.37-1.09),P for trend=0.08
虚血性脳卒中: 1.00(0.73-1.37),1.00,0.96(0.73-1.26),0.95(0.64-1.41),P for trend=0.79
全心血管疾患: 1.09(0.88-1.34),1.00,1.09(0.92-1.30),0.97(0.75-1.25),P for trend=0.69
◇ 職業別,年齢層別にみた1日の労働時間とAMI発症リスクとの関連
職業(勤務者・非勤務者)別ならびに年齢層(40~49歳・50~59歳)別にみた,AMI発症の多変量調整†ハザード比は以下のとおり。勤務者,ならびに労働時間が11時間以上かつ50~59歳の人では,AMI発症リスクが顕著に高くなっていた。また,50~59歳の人では,労働時間が多い人ほど,AMI発症リスクが高くなる有意な傾向がみとめられた。
勤務者: [G1]2.49(1.12-5.56),[G2]1.00,[G3]1.46(0.87-2.46),[G4]2.11(1.03-4.35),P for trend=0.08
非勤務者: 1.25(0.73-2.13),1.00,1.11(0.65-1.90),1.48(0.78-2.81),P for trend=0.31
40~49歳: 1.03(0.45-2.34),1.00,1.24(0.71-2.15),0.94(0.42-2.10),P for trend=0.87
50~59歳: 1.52(0.85-2.71),1.00,1.25(0.75-2.07),2.60(1.42-4.77),P for trend=0.004
◇ 結論
欧米,豪州の研究を含むメタ解析の結果から,長時間労働をする人は,標準的な労働時間の人と比べて,冠動脈疾患発症リスク・脳卒中発症リスクが高くなることが報告されている。一方で,「過労死」が問題になっているにもかかわらず,日本人を対象とした大規模研究は少ない。そこで,日本人男性を対象とした大規模コホート研究において,労働時間と心血管疾患リスクとの関連を調べた。その結果,50~59歳の男性で,労働時間が1日11時間以上の人では,7~9時間の人と比べて,急性心筋梗塞(AMI)発症リスクが有意に高かった。また,労働時間が長い人のほうが,AMI発症リスクが増加する傾向がみとめられた。中高年の日本人男性における長時間労働は,心筋梗塞発症リスクと有意に関連していることが示唆された。