[2019年文献] 植物性蛋白質を多くとる人は,全死亡ならびに心血管疾患死亡リスクが低い

高蛋白質食の摂取は,循環器疾患の危険因子(高血圧など)の改善が示唆されているにもかかわらず,長期間の高蛋白質摂取が健康や死亡率に及ぼす影響については不明な点が多い。また,これまでは欧米からの報告が多かった。そこで,日本人を対象とした大規模コホート研究において,蛋白質の摂取量と全死亡,死因別死亡との関連を調べた。その結果,総摂取エネルギー量に占める,植物性蛋白質からの摂取エネルギー量が多い人ほど,全死亡,心血管疾患(CVD)死亡,心疾患死亡,脳血管疾患死亡リスクが低くなる傾向がみられた。また,総摂取エネルギー量に占める3%の動物性蛋白質(赤肉,加工肉,鶏肉,卵,乳製品,魚介)を植物性蛋白質にそれぞれおきかえたと仮定した場合,すべての動物性蛋白質で,植物性蛋白質のおきかえにより全死亡リスクが有意に低下し,赤肉では,CVD死亡リスクが有意に低下すると考えられた。植物性蛋白質を多く摂取することは,健康や長寿のためによい効果をもたらす可能性が示唆された。

Budhathoki S, et al.; Japan Public Health Center–based Prospective Study Group. Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality. JAMA Intern Med. 2019 Aug 26.pubmed

コホート
対象11保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査(コホートI: 1990年,コホートII: 1993年)に参加し,食事調査を行った,40~59歳の61595人(コホートI)ならびに40~69歳の78825人(コホートII)のうち,5年後に行った自己記入式質問票(食事調査を含む)に回答した人。そのうち,癌,脳卒中,虚血性心疾患,腎疾患既往のある人,エネルギー摂取量が極端に多いあるいは少ない人,蛋白質摂取量の上位0.1パーセンタイルにあたる人,追跡不可だった人などを除外した70696人(男性32201人,女性38495人)を平均18年間追跡した。

蛋白質の摂取源は以下のとおり。
 動物性蛋白質: 魚介類,動物の肉,加工肉,卵,牛乳,乳製品
 植物性蛋白質: 動物性蛋白質以外の蛋白質
結 果
追跡期間中の全死亡は12381人。そのうち癌死亡5055人,心血管疾患(CVD)死亡3025人,心疾患死亡1528人,脳血管疾患死亡1198人であった。

◇ 対象背景
総摂取エネルギー量に対する蛋白質(蛋白質全体,動物性蛋白質,植物性蛋白質)の摂取量の5分位値で分けたカテゴリーにおける,1,3,5番目の対象背景はそれぞれ以下のとおり。

・蛋白質全体
 男性: [Q1]72.8%,[Q3]41.5%,[Q5]27.7%
 年齢(歳): 55.1,55.6,56.7
 総摂取エネルギー量(kcal/日): 1859,2004,2244
 総摂取エネルギー量に占める総蛋白質からの摂取エネルギー量: 11.0%,14.3%,17.9%
 総摂取エネルギー量に占める動物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 4.5%,7.5%,11.3%
 総摂取エネルギー量に占める植物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 6.4%,6.8%,6.6%

・動物性蛋白質
 男性: [Q1]59.2%,[Q3]44.7%,[Q5]34.1%
 年齢(歳): 55.8,55.5,56.2
 総摂取エネルギー量(kcal/日): 1831,1996,2287
 総摂取エネルギー量に占める総蛋白質からの摂取エネルギー量: 11.6%,14.2%,17.5%
 総摂取エネルギー量に占める動物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 4.1%,7.5%,11.7%
 総摂取エネルギー量に占める植物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 7.5%,6.8%,5.8%

・植物性蛋白質
 男性: [Q1]63.7%,[Q3]44.3%,[Q5]30.5%
 年齢(歳): 54.9,55.6,56.9
 総摂取エネルギー量(kcal/日): 2208,2004,1914
 総摂取エネルギー量に占める総蛋白質からの摂取エネルギー量: 14.4%,14.3%,14.6%
 総摂取エネルギー量に占める動物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 9.5%,7.7%,6.0%
 総摂取エネルギー量に占める植物性蛋白質からの摂取エネルギー量: 4.9%,6.6%,8.6%

◇ 蛋白質の摂取エネルギー量と死亡リスクとの関連
総摂取エネルギー量に対する蛋白質(全体,動物性蛋白質,植物性蛋白質)の摂取エネルギー量のカテゴリーごとにみた,全死亡,CVD死亡,心疾患死亡,脳血管疾患死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。植物性蛋白質の摂取量が多いカテゴリーほど,全死亡,CVD死亡,心疾患死亡,脳血管疾患死亡のリスクが低くなる有意な傾向がみられた(年齢,性別,飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・その他の脂質からのエネルギー摂取の割合,BMI,喫煙,飲酒,運動,職種,緑茶摂取量,コーヒー摂取量,総エネルギー摂取量で調整)。

・全死亡
 蛋白質全体: [Q1]1(対照),[Q2]0.95(0.89-1.01),[Q3]0.93(0.86-1.00),[Q4]0.92(0.84-0.99),[Q5]0.99(0.90-1.09),P for trend=0.63
 動物性蛋白質: 1,0.91(0.85-0.97),0.95(0.88-1.02),0.97(0.89-1.05),0.98(0.88-1.08),P for trend=0.93
 植物性蛋白質: 1,0.89(0.83-0.95),0.88(0.82-0.95),0.84(0.77-0.92),0.87(0.78-0.96),P for trend=0.01

・CVD死亡
 蛋白質全体: 1,0.91(0.80-1.04),0.84(0.72-0.98),0.90(0.76-1.06),0.97(0.80-1.18),P for trend=0.75
 動物性蛋白質: 1,0.90(0.79-1.03),0.89(0.77-1.03),0.99(0.84-1.17),0.97(0.79-1.19),P for trend=0.87
 植物性蛋白質: 1,0.84(0.73-0.96),0.77(0.66-0.90),0.70(0.59-0.83),0.73(0.59-0.91),P for trend=0.002

・心疾患死亡
 蛋白質全体: 1,0.92(0.76-1.11),0.82(0.66-1.01),0.85(0.68-1.08),0.95(0.72-1.24),P for trend=0.57
 動物性蛋白質: 1,0.93(0.78-1.12),0.91(0.74-1.11),0.97(0.77-1.23),0.97(0.73-1.30),P for trend=0.96
 植物性蛋白質: 1,0.84(0.70-1.02),0.73(0.59-0.91),0.72(0.57-0.92),0.72(0.54-0.97),P for trend=0.02

・脳血管疾患死亡
 蛋白質全体: 1,0.85(0.69-1.05),0.82(0.64-1.03),0.90(0.69-1.17),0.95(0.70-1.29),P for trend=0.91
 動物性蛋白質: 1,0.86(0.70-1.06),0.79(0.62-0.99),0.95(0.73-1.23),0.89(0.65-1.23),P for trend=0.73
 植物性蛋白質: 1,0.75(0.60-0.93),0.79(0.62-1.00),0.64(0.49-0.85),0.72(0.51-1.00),P for trend=0.04

◇動物性蛋白質を植物性蛋白質におきかえた場合の死亡リスクの推定
総摂取エネルギー量に占める3%の動物性蛋白質(赤肉,加工肉,鶏肉,卵,乳製品,魚介)を,植物性蛋白質にそれぞれおきかえたと仮定した場合の,全死亡,CVD死亡リスクの多変量調整ハザード比(vs. おきかえなかった場合)は以下のとおり。赤肉,加工肉,卵,魚介を植物性蛋白質におきかえると,全死亡リスクが有意に低くなると推算された。また,赤肉については,CVD死亡リスクも有意に低くなると推算された(年齢,性別,飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・その他の脂質・炭水化物からの摂取エネルギー量の割合,BMI,喫煙,飲酒,運動,職種,緑茶摂取量,コーヒー摂取量,総摂取エネルギー量で調整)。

・全死亡: [赤肉]0.66(0.55-0.80),[加工肉]0.54(0.38-0.75),[鶏肉]0.88(0.67-1.14),[卵]0.82(0.70-0.97),[乳製品]1.07(0.90-1.28),[魚介]0.88(0.79-0.99)
・CVD死亡: 0.58(0.39-0.86),0.58(0.29-1.14),0.84(0.50-1.42),0.79(0.57-1.11),0.82(0.56-1.18),0.86(0.69-1.08)

◇動物性蛋白質を魚介由来の蛋白質におきかえた場合の死亡リスクの推定
総摂取エネルギー量に占める3%の動物性蛋白質(赤肉,加工肉,鶏肉,卵,乳製品)を,魚介由来の蛋白質にそれぞれおきかえたと仮定した場合の,全死亡,CVD死亡リスクの多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。赤肉,加工肉を魚介におきかえると,全死亡リスクが有意に低くなると推算された。また,赤肉については,CVD死亡リスクが有意に低くなると推算された。

・全死亡: [赤肉]0.75(0.65-0.87),[加工肉]0.61(0.44-0.84),[鶏肉]1.00(0.78-1.28),[卵]0.93(0.83-1.05),[乳製品]1.22(1.03-1.44)
・CVD死亡: 0.67(0.50-0.91),0.67(0.36-1.27),0.98(0.60-1.59),0.92(0.72-1.17),0.95(0.66-1.36)

■ 結論
高蛋白質食の摂取は,循環器疾患の危険因子(高血圧など)の改善が示唆されているにもかかわらず,長期間の高蛋白質摂取が健康や死亡率に及ぼす影響については不明な点が多い。また,これまでは欧米からの報告が多かった。そこで,日本人を対象とした大規模コホート研究において,蛋白質の摂取量と全死亡,死因別死亡との関連を調べた。その結果,総摂取エネルギー量に占める,植物性蛋白質からの摂取エネルギー量が多い人ほど,全死亡,心血管疾患(CVD)死亡,心疾患死亡,脳血管疾患死亡リスクが低くなる傾向がみられた。また,総摂取エネルギー量に占める3%の動物性蛋白質(赤肉,加工肉,鶏肉,卵,乳製品,魚介)を植物性蛋白質にそれぞれおきかえたと仮定した場合,すべての動物性蛋白質で,植物性蛋白質のおきかえにより全死亡リスクが有意に低下し,赤肉では,CVD死亡リスクが有意に低下すると考えられた。植物性蛋白質を多く摂取することは,健康や長寿のためによい効果をもたらす可能性が示唆された。


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