[2020年文献] 発酵大豆食品を多く食べる人は全死亡リスクが低い
これまでに,発酵大豆食品の摂取量が多い人は高血圧リスクが低いとの報告や,納豆の摂取量が多い人は心血管疾患死亡リスクが低いとの報告があるが,発酵大豆食品の摂取と死亡リスクとの関連についての報告は少ない。そこで,日本人を対象とした大規模コホート研究において,大豆食品(総大豆食品,発酵大豆食品,非発酵大豆食品)と全死亡リスクとの関連を調べた。その結果,男女ともに,発酵大豆食品の摂取量が多い人ほど,全死亡リスクが有意に低かった。また,食品別でみると,女性では納豆の摂取量が多い人ほど全死亡リスクが有意に低く,男女ともに納豆の摂取量が多い人ほど心血管疾患死亡リスクが有意に低かった。発酵大豆食品には,非発酵大豆食品よりも食物繊維やカリウムなどの健康によいとされる成分が多く含まれているため,日本人の健康によい影響を与えている可能性が示唆された。
Katagiri R, et al.; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study. BMJ. 2020; 368: m34.
- コホート
- 対象11保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査(コホートI: 1990年,コホートII: 1993年)に参加し,食事調査(1995年,1998年)を行った,45~64歳(コホートI)ならびに45~74歳(コホートII)の103472人のうち,癌・脳卒中・心筋梗塞の既往のある4634人,エネルギー摂取量が極端に少ない,または極端に多い5923人を除外した92915人(男性42750人,女性50165人)を2012年12月31日(東京は2009年12月31日)までの14.8年間追跡した。
大豆食品の摂取源は,発酵大豆食品(納豆,味噌),非発酵大豆食品(豆腐,油揚げ,豆乳)とした。
食事調査を含む自己記入式質問票により調査した大豆食品の摂取量により,対象者を男女それぞれ5つのカテゴリー(C1[少ない]~C5[多い])に分類した。 - 結 果
- 追跡期間中の死亡は13303人(男性8370人,女性4933人)。
◇ 対象背景
大豆食品摂取量のカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。男女ともに,大豆食品の摂取量が多い人は,年齢が高く,喫煙習慣が少なかった。
・男性
年齢: [C1]55.1,[C2]55.9,[C3]56.2,[C4]56.7,[C5]57.6
BMI(kg/m2): 23.5,23.5,23.6,23.6,23.8
喫煙習慣: 52.0%,49.2%,46.6%,45.3%,41.8%
総エネルギー摂取量(kcal/日): 2035,2140,2129,2091,1993
総大豆食品摂取量(g/日): 37,67,92,121,178
納豆(g/日): 2.5,5.9,10.0,13.6,16.2
味噌(g/日): 6.7,14.8,22.1,26.3,28.8
豆腐(g/日): 17,26,32,44,80
・女性
年齢: [C1]55.8,[C2]56.4,[C3]56.5,[C4]57.0,[C5]58.0
BMI(kg/m2): 23.2,23.3,23.4,23.5,23.9
喫煙習慣: 9.0%,6.0%,5.1%,4.6%,4.5%
エネルギー摂取量(kcal/日): 1742,1819,1815,1778,1716
総大豆食品摂取量(g/日): 37,64,87,115,174
納豆(g/日): 3.4,7.3,11.8,15.5,17.4
味噌(g/日): 6.0,12.2,17.6,22.3,24.4
豆腐(g/日): 18,28,35,48,83
◇ 大豆食品の摂取量と全死亡リスクとの関連
大豆食品の摂取量のカテゴリーごとにみた,全死亡の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。発酵大豆食品をみると,C1に比してC5では,男女ともに全死亡リスクが有意に低く,摂取量が多いカテゴリーほど全死亡リスクが低くなる有意な傾向もみられた。また,非発酵大豆食品では,有意な差はみられなかった(†年齢,地域,喫煙,飲酒,BMI,運動習慣,糖尿病既往または糖尿病治療薬服用,降圧薬服用,健康診断の受診,総エネルギー摂取量,緑茶・コーヒー・魚介・肉・果物・野菜の摂取量で調整)。
・総大豆食品
男性: [C1: 対照]1.00,[C2]0.96(0.89-1.03),[C3]0.94(0.87-1.01),[C4]0.91(0.84-0.98),[C5]0.98(0.91-1.06),P for trend=0.43
女性: 1.00,1.01(0.92-1.11),0.95(0.86-1.04),0.96(0.87-1.06),0.98(0.89-1.08),P for trend=0.46
・発酵大豆食品
男性: 1.00,0.92(0.85-0.98),0.91(0.85-0.98),0.95(0.88-1.03),0.90(0.83-0.97),P for trend=0.05
女性: 1.00,0.95(0.87-1.04),0.91(0.83-1.00),0.90(0.81-0.99),0.89(0.80-0.98),P for trend=0.01
◇ 納豆,味噌,豆腐の摂取量と全死亡リスクとの関連
納豆,味噌,豆腐の摂取量のカテゴリーごとにみた,全死亡の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。納豆と味噌の摂取量が多い女性は,それぞれ少ない女性に比して,全死亡リスクが有意に低く,また,女性では納豆と味噌の摂取量が多いカテゴリーほど,全死亡リスクが低くなる有意な傾向がみられた。
・納豆
男性: 1.00,0.98(0.91-1.05),1.00(0.93-1.08),0.96(0.89-1.03),0.94(0.87-1.02),P for trend=0.10
女性: 1.00,0.81(0.74-0.89),0.90(0.82-0.99),0.81(0.74-0.90),0.84(0.76-0.93),P for trend=0.001
・味噌
男性: 1.00,0.94(0.87-1.01),0.92(0.85-0.98),0.91(0.85-0.98),0.95(0.87-1.02),P for trend=0.20
女性: 1.00,0.89(0.81-0.97),0.87(0.80-0.95),0.89(0.81-0.98),0.89(0.81-0.97),P for trend=0.03
・豆腐
男性: 1.00,0.94(0.87-1.01),0.97(0.91-1.04),0.98(0.91-1.05),0.99(0.92-1.06),P for trend=0.88
女性: 1.00,0.92(0.84-1.00),0.86(0.79-0.95),0.90(0.82-0.99),0.95(0.86-1.03),P for trend=0.21
◇ 発酵大豆食品と納豆の摂取量と心血管疾患(CVD)死亡リスクとの関連
発酵大豆食品全体ならびに納豆に限った摂取量のカテゴリーごとにみた,CVD死亡の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男女ともに,納豆の摂取量がもっとも少ない人に比して,もっとも多い人ではCVD死亡リスクが有意に低く,摂取量が多いカテゴリーほど,CVD死亡リスクが低くなる有意な傾向もみられた。
・男性
発酵大豆食品: 1,0.98(0.84-1.14),1.04(0.90-1.21),1.00(0.85-1.17),0.82(0.70-0.97),P for trend=0.04
納豆: 1,0.86(0.74-1.00),0.86(0.73-1.00),0.85(0.73-0.99),0.76(0.65-0.90),P for trend=0.002
・女性
発酵大豆食品: 1,0.95(0.80-1.13),0.84(0.70-1.01),0.92(0.76-1.11),0.89(0.73-1.07),P for trend=0.25
納豆: 1,0.76(0.64-0.92),0.87(0.72-1.04),0.72(0.60-0.88),0.79(0.65-0.95),P for trend=0.01
◇ 結論
これまでに,発酵大豆食品の摂取量が多い人は高血圧リスクが低いとの報告や,納豆の摂取量が多い人は心血管疾患死亡リスクが低いとの報告があるが,発酵大豆食品の摂取と死亡リスクとの関連についての報告は少ない。そこで,日本人を対象とした大規模コホート研究において,大豆食品(総大豆食品,発酵大豆食品,非発酵大豆食品)と全死亡リスクとの関連を調べた。その結果,男女ともに,発酵大豆食品の摂取量が多い人ほど,全死亡リスクが有意に低かった。また,食品別でみると,女性では納豆の摂取量が多い人ほど全死亡リスクが有意に低く,男女ともに納豆の摂取量が多い人ほど心血管疾患死亡リスクが有意に低かった。発酵大豆食品には,非発酵大豆食品よりも食物繊維やカリウムなどの健康によいとされる成分が多く含まれているため,日本人の健康によい影響を与えている可能性が示唆された。