[2004年文献] 飲酒者のアルコールの好み(日本酒,ビール,ウイスキー,焼酎,ワイン)は,血圧と関連しない
日本の事業所に勤務する中年男性を対象とした断面解析により,飲酒者のアルコール飲料の好み(ワイン,ビール,日本酒,ウイスキー,焼酎)と血圧との関連を検討した。その結果,ベースライン時の血圧は焼酎群でもっとも高く,また焼酎群のみが正常高値血圧+高血圧との有意な関連を示した。ただし,これらの有意性はアルコール摂取量やBMIなどで補正すると消失した。血圧を下げるためには,アルコールの種類にかかわらず,量を減らすか,せめて増やさない努力が必要であると考えられる。
Okamura T, et al.; HIPOP-OHP research group. Specific alcoholic beverage and blood pressure in a middle-aged Japanese population: the High-risk and Population Strategy for Occupational Health Promotion (HIPOP-OHP) Study. J Hum Hypertens. 2004; 18: 9-16.
なお,このうち1事業所の526人については,他の事業所とは異なる自動血圧計を用いていたため解析の対象からは除外した。
平均年齢は38.2歳。
飲酒状況は,自己記入式質問票により調査した。
1日あたりのアルコール摂取量は合(1合=エタノール23 g)を単位として算出した。なお,1合は日本酒で180 mL,ビール1瓶(663 mL),ウイスキー2杯(70 mL),焼酎1/2杯(110 mL),ワイン240 mLに相当する。発泡酒はビールに含めた。
この研究では,1杯=1/2合とし,いずれかのアルコール飲料を1日0.6杯以上(エタノール換算で1 g)飲む人を飲酒者と定義した。
飲酒者には主にどの酒を好むかをたずね,特定のアルコール飲料(日本酒,ビール,ウイスキー,焼酎,ワイン)が飲酒量の2/3を占めている人については,該当する群に分類した。いずれにも当てはまらない飲酒者は「その他」に分類した。
飲酒者の1日あたりの平均アルコール摂取量は,エタノール換算で30.8 g。
飲酒者で非飲酒者よりも有意に高い値を示した(P<0.001)のは,年齢,尿中ナトリウム排泄,γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP),尿中カリウム排泄。
日本酒,ビール,ウイスキー,焼酎,ワイン,およびその他の各群において,有意差を示したのは年齢,BMI,尿中カリウム排泄,γ-GTP,アルコール摂取量(いずれもP<0.001)。
◇ アルコールの種類と血圧の平均値
各群における年齢調整後の血圧を比較した結果は以下のようになった。それぞれ収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)の値。
ワイン: 116.6 mmHg,72.6 mmHg
ビール: 118.4 mmHg,72.4 mmHg
日本酒: 118.9 mmHg,73.8 mmHg
その他: 119.1 mmHg,73.5 mmHg
ウイスキー: 120.9 mmHg,74.2 mmHg
焼酎: 123.0 mmHg,76.0 mmHg
SBP,DBPのいずれも,焼酎群でもっとも高い値を示した。一方,SBPがもっとも低かったのはワイン群(焼酎群との差6.4 mmHg,P<0.001)で,DBPがもっとも低かったのはビール群(焼酎群との差3.6 mmHg,P<0.001)だった。ただし,この有意性はアルコール摂取量で補正した場合,およびアルコール摂取,BMI,尿中ナトリウム排泄,尿中カリウム排泄で補正した場合のいずれにおいても消失した。
◇ アルコールの種類と高血圧および正常高値血圧の関連
この研究の対象者は平均年齢が若いため,高血圧(SBP 140 mmHgまたはDBP 90 mmHg以上)だけでなく正常高値血圧(SBP 130 mmHg以上またはDBP 85 mmHg)の分類も用い,正常高値血圧以上の人と高血圧をあわせて「正常高値血圧+高血圧」として解析を行った。
飲酒者における正常高値血圧+高血圧の割合は25.2 %(643人),高血圧の割合は13.0 %(331人)だった。
ロジスティック回帰分析によると,焼酎群のみが正常高値血圧+高血圧との有意な関連を示した(オッズ比1.85,95 %信頼区間1.43-2.41,P<0.001,vs. ビール群)。焼酎群は高血圧とも関連を示したが,その有意性はボーダーライン上だった(オッズ比1.34,0.96-1.88,P=0.086,vs. ビール群)。焼酎群以外では,血圧との関連はみられなかった。
焼酎と正常高値血圧+高血圧との関連は,アルコール摂取量で補正したのちも有意だった(オッズ比1.43,1.06-1.95,P=0.02,vs. ビール群)が,BMI,尿中ナトリウム排泄,尿中カリウム排泄を加えたモデルでは有意性が消失した。
◇ 結論
日本の事業所に勤務する中年男性を対象とした断面解析により,飲酒者のアルコール飲料の好み(ワイン,ビール,日本酒,ウイスキー,焼酎)と血圧との関連を検討した。その結果,ベースライン時の血圧は焼酎群でもっとも高く,また焼酎群のみが正常高値血圧+高血圧との有意な関連を示した。ただし,これらの有意性はアルコール摂取量やBMIなどで補正すると消失した。血圧を下げるためには,アルコールの種類にかかわらず,量を減らすか,せめて増やさない努力が必要であると考えられる。