[2005年文献] 軽〜中程度の飲酒は高いQOLと関連

日本の事業所勤務の男性を対象とした断面解析により,飲酒習慣と,主観的な健康の指標としての健康関連QOL(health-related QOL)との関連を検討した。その結果,事業所勤務者では,軽度~中程度の飲酒が健康関連QOLに対して望ましい効果を与える可能性が示唆された。

Saito I, et al. A cross-sectional study of alcohol drinking and health-related quality of life among male workers in Japan. J Occup Health. 2005; 47: 496-503.pubmed

コホート
国内の12の事業所のいずれかに勤務し,1999~2000年のベースライン健診を受けた25歳以上の男性5002人のうち,飲酒に関するデータ不足(307人),癌または心血管疾患既往(96人),QOLに関するデータ不足(106人)のいずれかに該当する計481人を除いた4521人(断面解析)。
平均年齢は39.4歳。

飲酒については,自己記入式質問票により飲酒の頻度,平均飲酒量,よく飲むアルコール飲料の種類などをたずねて1日あたりのエタノール換算摂取量を算出し,飲酒量と頻度によってそれぞれ全体を以下の6群に分けた。

   飲酒未経験,以前飲酒していた,飲酒者(1.0~22.9 g),飲酒者(23.0~45.9 g),飲酒者(46.0~68.9 g),飲酒者(69.0 g以上)。

また,飲酒の頻度によっても全体を以下の6群に分けた。

   飲酒未経験,以前飲酒していた,飲酒者(週1~2日),飲酒者(週3~4日),飲酒者(週5~6日),飲酒者(毎日)。

生活の質(quality of life, QOL)についてはSF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)調査票を用いて評価を行った。この調査票には8種類の尺度が設けられているが,この研究ではそのうち事業所勤務者で観察可能な「活力」,「心の健康」,「日常役割機能(身体)」,「日常役割機能(感情)」,「全体的健康感」の5つの尺度のみを用い,それぞれについて0~100のスコアを算出した。5つの尺度のすべてについて,全体の中央値よりも低いスコアを示した場合,「低QOL」と判断した。
この研究の対象集団の平均スコアはいずれの尺度においても50(日本人の標準)を下回っていた。
結果
飲酒者の割合は60.4 %だった。

エタノール換算摂取量がもっとも少ない飲酒者(1.0~22.9 g)は,飲酒未経験の人および以前飲酒していた人に比べ,喫煙率が低い,定期的な運動をよくするなど,健康的な生活を送っている傾向がみられた。
以前飲酒していた人では,肥満および糖尿病が多く見られた。
飲酒量が多い人ほど,血中HDL-C値が高い傾向がみられた。
摂取量がもっとも少ない飲酒者では「日常役割機能(身体)」スコアが高かったが,以前飲酒していた人の「全体的健康感」スコアは低かった。「活力」スコアは,飲酒量が多い人ほど高い傾向が見られた。

飲酒状況ごとに,各QOL尺度におけるスコア低値のオッズ比を調べたところ,飲酒未経験者に比べて有意差のあった項目は以下のとおり(**P<0.01,*P<0.05,年齢,生活状況,高血圧,肥満,高脂血症,糖尿病などの交絡因子で補正後)で,以前飲酒していた人では「全体的健康感」スコア低値のリスクが高かった一方,飲酒者の「活力」スコア低値リスクは有意に減少した。
   以前飲酒していた人の「全体的健康感」スコア低値: 1.68(1.27-2.22)**
   飲酒者(1.0~22.9 g)の「日常役割機能(身体)」低値: 0.85(0.73-0.997)*
   飲酒者(23.0~45.9 g)の「活力」低値: 0.77(0.63-0.94)*
   飲酒者(46.0~68.9 g)の「活力」低値: 0.69(0.53-0.90)**
   飲酒者(69.0 g以上)の「活力」低値: 0.67(0.50-0.90)**

飲酒頻度別の解析でも,同様に,以前飲酒していた人では「全体的健康感」スコア低値のリスクが高かった一方,飲酒者の「活力」スコア低値のリスクは有意に減少した。
   以前飲酒していた人の「全体的健康感」低値: 1.68(1.26-2.22)**
   飲酒者(週1~2日)の「活力」低値: 0.76(0.61-0.96)*
   飲酒者(週1~2日)の「心の健康」低値: 0.76(0.60-0.95)*
   飲酒者(週5~6日)の「日常役割機能(身体)」低値: 0.82(0.68-0.99)*
   飲酒者(週5~6日)の「活力」低値: 0.69(0.57-0.85)**

◇ 結論
日本の事業所勤務の男性を対象とした断面解析により,飲酒習慣と,主観的な健康の指標としての健康関連QOL(health-related QOL)との関連を検討した。その結果,事業所勤務者では,軽度~中程度の飲酒が健康関連QOLに対して望ましい効果を与える可能性が示唆された。


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