[2001年文献] トリグリセリドは,総コレステロール,HDL-Cとは独立して冠動脈疾患リスクと関連
欧米人よりも総コレステロール値の低い日本人地域住民におけるトリグリセリド値と冠動脈疾患発症リスクとの関連について,15.5年間の追跡研究による検討を行った。その結果,トリグリセリド値は,総コレステロール値およびHDL-C値とは独立に,冠動脈疾患発症リスクを予測することが示された。
Iso H, et al. Serum triglycerides and risk of coronary heart disease among Japanese men and women. Am J Epidemiol. 2001; 153: 490-9.
- コホート
- 秋田県井川町,茨城県筑西市協和地区,高知県(旧)野市町,大阪府八尾市南高安地区において,1975~1986年に循環器健診を受けた40~69歳の住民のうち,冠動脈疾患既往のある61人,およびトリグリセリド値に不備があった241人を除いた11068人(男性4452人,女性6616人)を,1997年末まで平均15.5年間追跡。
トリグセリド値により,全体を以下のように四分位に分けて解析を行った。
Q1: <84.1 mg/dL,Q2: 84.1 mg/dL以上116.0 mg/dL以下,Q3: 116.1 mg/dL以上166 mg/dL以下,Q4: 167 mg/dL以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均血圧は男性138 / 83 mmHg,女性134 / 80 mmHg,平均総コレステロール値はそれぞれ182.6 mg/dL,194.2 mg/dL。
平均トリグリセリド値は男性146.0 mg/dL,女性131.0 mg/dLであった。
トリグリセリド値の分布は男女とも非対称で,冠動脈疾患(CHD)発症者では非発症者よりも値が高いほうにずれた分布がみとめられた。
食事から採血までの経過時間(2時間未満/2時間/3~7時間/8時間以上)ごとにCHD発症者と非発症者のトリグリセリドの中央値を比較した結果,経過時間にかかわらず,発症者のほうが高い値を示していた。
◇ トリグリセリドとCHD発症リスク
追跡期間中のCHD発症は236人(男性135人,女性101人)で,うち心筋梗塞が133人(それぞれ86人,47人),狭心症が68人(35人,33人),心突然死が44人(19人,25人)であった。
トリグリセリド値とCHD発症リスクとの間には,用量-反応関係がみられた。
トリグリセリド値によるCHD発症の相対危険度は以下のとおり(*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001 vs. Q1)。
・ 全体(男性+女性)
Q1: 1.0 (対照)
Q2: 1.67* (95%信頼区間1.04-2.66)
Q3: 2.00** (1.26-3.17)
Q4: 2.86*** (1.82-4.48)
トリグリセリド値 +88.5 mg/dLごとの相対危険度: 1.34 (1.18-1.53,P<0.001)
・ 男性
Q1: 1.00 (対照)
Q2: 2.07* (1.16-3.70)
Q3: 2.01* (1.10-3.68)
Q4: 2.81*** (1.56-5.05)
トリグリセリド値 +88.5 mg/dLごとの相対危険度: 1.29 (1.09-1.53,P<0.01)
・ 女性
Q1: 1.00 (対照)
Q2: 1.14 (0.52-2.50)
Q3: 1.89 (0.91-3.94)
Q4: 2.76*** (1.34-5.68)
トリグリセリド値 +88.5 mg/dLごとの相対危険度: 1.42 (1.15-1.75,P<0.01)
◇ 総コレステロール値による層別化解析
総コレステロール値が中央値以上の人,および中央値未満の人で層別化解析(男性+女性)を行った結果,総コレステロール値にかかわらず,トリグリセリド値とCHD発症リスクとの有意な関連がみとめられた。
男女別の解析を行うと,男性では,総コレステロール値が低い人のほうが,トリグリセリド値とCHD発症リスクとの関連が強い傾向がみられた(相互作用のP=0.08)。女性では総コレステロール値による違いはみとめられなかった。
◇ HDL-C値による層別化解析
HDL-C値の得られている5641人において,トリグリセリド値とCHD発症リスクとの関連についてHDL-Cによる調整を行うと,関連はやや弱められた。
男女別に解析を行うと,HDL-Cによる相互作用は,男性では有意性がボーダーライン上(P=0.09),女性では有意(P=0.04)であった。
HDL-C値が中央値以上の人,および中央値未満の人で層別化解析(男性+女性,および男女別)を行うと,HDL-C値にかかわらず,トリグリセリド値とCHD発症リスクとの有意な関連がみとめられた。
◇ トリグリセリド値と全死亡リスク
トリグリセリド値は,全死亡リスクとも有意な関連を示していた。
トリグリセリド値の88.5 mg/dL増加ごとの相対危険度は,男性で1.13(95%信頼区間1.06-1.21,P<0.001),女性で1.09(1.00-1.19,P=0.04)。
さらにHDL-Cによる調整を行うと,男性では結果は同様であった(P=0.03)が,女性では有意な関連はみられなかった(P=0.20)。
◇ 結論
欧米人よりも総コレステロール値の低い日本人地域住民におけるトリグリセリド値と冠動脈疾患発症リスクとの関連について,15.5年間の追跡研究による検討を行った。その結果,トリグリセリド値は,総コレステロール値およびHDL-C値とは独立に,冠動脈疾患発症リスクを予測することが示された。