[2008年文献] 虚血性心血管疾患発症リスク予測能が高いメタボリックシンドローム基準は改変NCEP-ATP III
日本人一般住民を対象とした10.5年間の追跡研究において,日本基準を含む4つのメタボリックシンドローム(MetS)診断基準を用い,MetSと虚血性心疾患および脳卒中発症リスクとの関連を比較した。その結果,改変NCEP-ATP III基準によるMetSは虚血性心疾患,虚血性脳卒中および全心血管疾患発症リスクを予測するが,その他の3つの基準を用いると予測能は劣ることが示された。
Chei CL, et al. Metabolic Syndrome and the Risk of Ischemic Heart Disease and Stroke among Middle-Aged Japanese. Hypertens Res. 2008; 31: 1887-94.
- コホート
- CIRCS協和コホート。
1990~1993年に循環器健診を受けた40~69歳の一般住民2660人(男性998人,女性1662人)のうち,虚血性心疾患既往のある15人,および脳卒中既往のある32人を除いた2613人を2003年まで10.5年間(中央値)追跡(27477人・年)。
メタボリックシンドローム(MetS)の判定には,以下の4つの基準を用いた。
(1)改変NCEP-ATP III基準(腹囲のみアジア人向けの基準を採用): 以下のMetS構成因子を3つ以上もつ場合にMetSと診断。
高トリグリセリド血症: トリグリセリド値≧150 mg/dL
低HDL-C血症: HDL-C値<40 mg/dL未満(男性),<50 mg/dL(女性)
血圧高値: 血圧≧130 / 85 mmHg,または降圧薬服用
血糖高値: 空腹時血糖値≧110 mg/dL,非空腹時血糖値≧140 mg/dL,または治療中
腹部肥満: 腹囲≧90 cm(男性),≧80 cm(女性)
(2)AHA/NHLBI基準: 以下のMetS構成因子を3つ以上もつ場合にMetSと診断。
高トリグリセリド血症: トリグリセリド値≧150 mg/dL,または治療中
低HDL-C血症: HDL-C値<40 mg/dL未満(男性),<50 mg/dL(女性),または治療中
血圧高値: 血圧≧130 / 85 mmHg,または降圧薬服用
血糖高値: 空腹時血糖100 mg/dL以上,非空腹時血糖≧130 mg/dL,または治療中
腹部肥満: 腹囲≧90 cm(男性),≧80 cm(女性)
(3)新しいIDF(国際糖尿病連盟)基準(日本人向け): 腹部肥満(腹囲≧90 cm[男性],≧80 cm[女性])に加え,以下のMetS構成因子を2つ以上もつ場合にMetSと診断。
高トリグリセリド血症: トリグリセリド値≧150 mg/dL,または治療中
低HDL-C血症: HDL-C値<40 mg/dL未満(男性),<50 mg/dL(女性),または治療中
血圧高値: 血圧≧130 / 85 mmHg,または降圧薬服用
血糖高値: 空腹時血糖値100 mg/dL以上,非空腹時血糖値≧130 mg/dL,または治療中
(4)日本基準: 腹部肥満(腹囲≧85 cm[男性],≧90 cm[女性])に加え,以下のMetS構成因子を2つ以上もつ場合にMetSと診断。
高トリグリセリド血症: トリグリセリド値≧150 mg/dL,または治療中
低HDL-C血症: HDL-C値<40 mg/dL,または治療中
血圧高値: 血圧≧130 / 85 mmHg,または降圧薬服用
血糖高値: 空腹時血糖値≧110 mg/dL,非空腹時血糖値≧140 mg/dL,または治療中 - 結 果
- ◇ 対象背景
追跡期間中の心血管疾患の発症は115人(発症率4.2/1000人・年)。
うち,虚血性心疾患(IHD)の発症は42人(1.5/1000人・年),脳卒中は73人(2.7/1000人・年),虚血性脳卒中は54人(2.0/1000人・年),出血性脳卒中は18人(0.7/1000人・年),虚血性心血管疾患は92人(3.4/1000人・年)。
IHD発症者では,非発症者にくらべ,男女とも年齢,高血圧の割合,喫煙率,総コレステロール値,トリグリセリド値,血糖値が高く,HDL-Cが低かった。
虚血性脳卒中発症者では,非発症者にくらべ,男女とも年齢,高血圧の割合,喫煙率,トリグリセリド値,血糖値が高かった。
◇ 各基準によるメタボリックシンドローム(MetS)と心血管疾患リスク
・ 改変NCEP-ATP III基準
改変NCEP-ATP III基準によるMetSは,IHD(MetSの非MetSに対するハザード比: 2.1[95%信頼区間1.1-4.0]),全脳卒中(1.7[1.0-2.7]),虚血性脳卒中(2.0[1.2-3.5]),虚血性心血管疾患(2.0[1.3-3.1])および全心血管疾患(1.7[1.2-2.5])の発症リスクと有意に関連していた。出血性脳卒中との関連はみられなかった。
・ AHA/NHLBI基準およびIDF基準
MetSと心血管疾患発症リスクとの関連は,改変NCEP-ATP III基準とほぼ同様か,やや弱い関連を示していた。AHA/NHLBI基準およびIDF基準によるMetSは,虚血性脳卒中,虚血性心血管疾患,および全心血管疾患の発症リスクと有意に関連していた。全脳卒中,出血性脳卒中,IHDとの関連はみられなかった。
・ 日本基準
日本基準によるMetSとの有意な関連がみられたのは,全脳卒中(1.8[1.1-3.1])および虚血性脳卒中(2.0[1.1-3.6])の発症リスクのみであった。
◇ 各基準によるMetSの人口寄与危険度(PAF)
IHD,全脳卒中,虚血性脳卒中,虚血性心血管疾患,および全心血管疾患の発症におけるMetSのPAFは,各基準により以下のようになった。
・ 改変NCEP-ATP III基準: 19~27%
・ AHA/NHLBI基準: 18~23%
・ IDF基準: 16~25%
・ 日本基準: 14~18%
◇ 腹部肥満の有無による層別化解析
各基準において,「腹部肥満とそれ以外のMetS因子を2つ以上あわせもつ人」,および「腹部肥満がなく,それ以外のMetS因子を2つ以上もつ人」のそれぞれにおいて,MetSと虚血性心血管疾患発症リスクとの関連を比較した。
・ 改変NCEP-ATP III基準: 腹部肥満のない人(MetS構成因子2つ以上)ではハザード比3.3(95%信頼区間1.0-11.2),腹部肥満のある人(MetS構成因子2つ以上)はで5.1(1.6-16.9)であった。
・ AHA/NHLBI基準およびIDF基準: それぞれ4.3(1.0-18.3),6.5(1.6-27.5)であった。
・ 日本基準: それぞれ3.4(1.3-8.9),3.4(1.3-9.0)であった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした10.5年間の追跡研究において,日本基準を含む4つのメタボリックシンドローム(MetS)診断基準を用い,MetSと虚血性心疾患および脳卒中発症リスクとの関連を比較した。その結果,改変NCEP-ATP III基準によるMetSは虚血性心疾患,虚血性脳卒中および全心血管疾患発症リスクを予測するが,その他の3つの基準を用いると予測能は劣ることが示された。