[2011年文献] LDL-Cは80 mg/dLから冠動脈疾患リスクと正の相関

LDL-C高値は冠動脈疾患(CHD)発症リスクと関連することがこれまでに報告されているが,LDL-C値が低い集団ではどうか,また,LDL-Cがあまり高くない範囲でも同様の関連がみられるかについてはあまり検討されていない。そこで,欧米人にくらべてLDL-C値の低い日本人一般住民を対象とした21.9年間(中央値)の追跡研究により,LDL-C値と冠動脈疾患発症リスクとの関連を検討した。その結果,LDL-C値は,80 mg/dLからCHD発症リスクと有意な正の相関を示していた。

Imano H, et al. Low-density lipoprotein cholesterol and risk of coronary heart disease among Japanese men and women: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Prev Med. 2011; 52: 381-6.pubmed

コホート
1975~1987年に循環器健診を受診した4地域(秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県[旧]協和町,大阪府八尾市南高安地区)の40~69歳の一般住民8157人(男性3201人,女性4956人)のうち,冠動脈疾患または脳卒中の既往のある26人を除いた8131人(男性3178人,女性4953人)を21.9年間追跡(中央値)。

LDL-C値はFriedewald式により総コレステロール値とHDL-C値,トリグセリド値から算出し,以下のカテゴリーごとに解析を行った。
   <80 mg/dL,80~99 mg/dL,100~119 mg/dL,120~139 mg/dL,≧140 mg/dL
結 果
◇ 対象背景
LDL-C値の平均は105.5 mg/dL。
男性では99.4 mg/dL,女性では109.4 mg/dLであった。

冠動脈疾患(CHD)非発症者にくらべ,全CHD発症者,心筋梗塞(MI)発症者,非致死的CHD発症者では,男性の割合,年齢,総コレステロール値,LDL-C値,トリグリセリド値,収縮期血圧,拡張期血圧が高い傾向がみられた。

◇ LDL-CとCHD発症リスク
追跡期間中にCHDを発症したのは155人で,うちMIは91人であった。
また,非致死的CHDは115人,致死的CHDは40人だった。

LDL-C値を連続変数として解析すると,全CHD,MI,非致死的CHDのいずれについても,LDL-C値が高くなるほど発症リスクが有意に増加していた。
全CHD,およびMIについて男女ごとにみると,男性ではMIについてのみLDL-C値との有意な関連がみとめられ,女性では全CHD,MIのいずれについてもLDL-C値との有意な関連がみとめられた。
LDL-C値の30 mg/dL増加ごとのCHD発症のハザード比(95%信頼区間)は,全CHDで1.30(1.14-1.49),MIで1.33(1.12-1.59),非致死的CHDで1.36(1.16-1.58),致死的CHDで1.16(0.87-1.55)であった。

LDL-C≧140 mg/dLの人のCHD発症のハザード比(vs. LDL-C<80 mg/dL)は以下のとおり。
   全CHD: 2.80 (95%信頼区間1.59-4.92)
   MI: 3.83 (1.78-8.23)
   非致死的CHD: 4.07 (2.02-8.20)
   致死的CHD: 1.24 (0.44-3.47)

これらの関連に,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。
また,高トリグリセリド血症(≧300 mg/dL)の男性193人,女性172人を除いた解析でも結果は同様であった。

◇ CHDリスクが上昇し始めるLDL-Cの閾値
今回の対象者でみられたLDL-C値の範囲(約30 mg/dL~約200 mg/dL)内において,LDL-C値と全CHD,非致死的CHD,致死的CHDのハザード比を比較した。
その結果,全CHD,および非致死的CHDについては,80 mg/dL前後(対応する総コレステロール値: 167 mg/dL)を境にハザード比が上昇し始め,80 mg/dL未満の範囲ではハザード比はほとんど同等であった。致死的CHDについては,120 mg/dL前後(対応する総コレステロール値: 202 mg/dL)を境にハザード比が上昇し始めた。


◇ 結論
LDL-C高値は冠動脈疾患(CHD)発症リスクと関連することがこれまでに報告されているが,LDL-C値が低い集団ではどうか,また,LDL-Cがあまり高くない範囲でも同様の関連がみられるかについてはあまり検討されていない。そこで,欧米人にくらべてLDL-C値の低い日本人一般住民を対象とした21.9年間(中央値)の追跡研究により,LDL-C値と冠動脈疾患発症リスクとの関連を検討した。その結果,LDL-C値は,80 mg/dLからCHD発症リスクと有意な正の相関を示していた。


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