[2013年文献] 粒子の小さいHDL亜分画中のコレステロールは脳卒中発症リスクと負の関連
血清中のリポ蛋白の一つである高密度リポ蛋白(HDL)は,多様なサイズ・性質の粒子からなっており,抗動脈硬化作用や抗炎症作用は粒子の小さい(密度の高い)HDLのほうが強いとされる。農村部の日本人一般住民を対象としたコホート研究において,HDLの各亜分画のコレステロール値と脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果,small HDLおよびmedium HDLに含まれるコレステロール値は脳卒中,脳梗塞および脳出血の発症リスクと負の関連を示したが,large HDLのコレステロール値については,このような関連はみられなかった。
Chei CL, et al.; on behalf of the CIRCS Investigators. High-density Lipoprotein Subclasses and Risk of Stroke and its Subtypes in Japanese Population: The Circulatory Risk in Communities Study. Stroke. 2013; 44: 327-333.
- コホート
- 1985~2000年(協和町[6829人]),1989~1998年(井川町[2570人],野市町[3915人])に循環器検診を受けた40~85歳の地域住民13314人を2005年末まで追跡(コホート内症例対照研究)。
脳卒中または冠動脈疾患の既往のある510人は解析から除外した。
脳卒中発症者1人につき,性別,年齢(±2歳),地域,血清採取の年度,血清採取時の空腹状態(食後8時間以上/未満)でマッチさせた対照1人を,脳卒中を発症していない参加者からランダムに抽出した。
総高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C),ならびにHDLの粒子サイズによる以下の各亜分画中のコレステロール値を測定し,それぞれの四分位のカテゴリーに脳卒中発症者および対照者を分類した。
・L-HDL(very large HDLおよびlarge HDL)
・M-HDL(medium HDL)
・S-HDL(small HDLおよびvery small HDL) - 結 果
- ◇ 対象背景
追跡期間中に脳卒中を発症したのは241人。
このうち脳梗塞は155人(ラクナ梗塞116人,アテローム血栓性脳梗塞35人,心原性脳塞栓11人),脳出血は86人(脳内出血64人,くも膜下出血22人)。
HDL亜分画のカテゴリーごとに対照者の背景をみると,BMIは全HDL-C値およびL-HDL-C値と,喫煙率はL-HDL-C値と,それぞれ負の関連を示していた。全HDL-C値は,S-HDL値,M-HDL-C値,L-HDL-C値のいずれとも正の関連を示したが,トリグリセリド値は,S-HDL-C値,M-HDL-C値,L-HDL-C値のいずれとも負の関連を示していた。血圧,1日の飲酒量,高血圧有病率および糖代謝異常の有病率については,総HDL-C値,S-HDL-C値,M-HDL-C値,L-HDL-C値のいずれとも関連していなかった。
◇ HDL亜分画のコレステロールと脳卒中発症リスク
各HDL亜分画のコレステロール値のカテゴリーごと,ならびに1 SD増加あたりの脳卒中および各病型発症の多変量調整オッズ比†は以下のとおり(*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001)で,S-HDL-C値と全脳卒中,脳梗塞,ラクナ梗塞,脳出血および脳実質内出血との有意かつ強い負の関連がみとめられた。M-HDL-C値についても,全脳卒中および各病型との負の関連がみられた。総HDL-C値は全脳卒中およびラクナ梗塞と負の関連を示しており,L-HDL-C値は,いずれのリスクとも関連していなかった。
†高血圧,BMI,1日の飲酒量,喫煙状況,脂質低下治療,トリグリセリド,血糖値で調整
・全脳卒中
[総HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.60(95%信頼区間0.33-1.10),Q3: 0.41(0.21-0.81)*,Q4: 0.40(0.19-0.80)**; +1 SD: 0.79(0.61-1.02)
[L-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 1.78(1.00-3.16),Q3: 1.25(0.70-2.23),Q4: 1.57(0.81-3.05); +1 SD: 1.13(0.89-1.44)
[M-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.66(0.34-1.28),Q3: 0.31(0.15-0.64)**,Q4: 0.23(0.11-0.51)***; +1 SD: 0.56(0.41-0.75)***
[S-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.37(0.17-0.78)**,Q3: 0.18(0.06-0.34)***,Q4: 0.05(0.02-0.15)***; +1 SD: 0.34(0.23-0.52)***
・脳梗塞
[総HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.66(0.33-1.35),Q3: 0.37(0.15-0.87)*,Q4: 0.47(0.20-1.12); +1 SD: 0.85(0.62-1.16)
[L-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 1.70(0.83-3.48),Q3: 1.35(0.65-2.80),Q4: 1.80(0.76-4.24); +1 SD: 1.19(0.87-1.62)
[M-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.72(0.33-1.61),Q3: 0.39(0.17-0.90)*,Q4: 0.30(0.12-0.76)*; +1 SD: 0.63(0.45-0.88)**
[S-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.34(0.13-0.89)*,Q3: 0.14(0.05-0.44)***,Q4: 0.07(0.02-0.25)***; +1 SD: 0.38(0.23-0.63)***
・ラクナ梗塞
[総HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.52(0.22-1.21),Q3: 0.23(0.08-0.67)**,Q4: 0.27(0.10-0.75)*; +1 SD: 0.75(0.53-1.06)
[L-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 1.77(0.75-4.16),Q3: 0.62(0.24-1.60),Q4: 0.97(0.35-2.69); +1 SD: 1.02(0.72-1.44)
[M-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.70(0.27-1.80),Q3: 0.35(0.13-0.94)*,Q4: 0.30(0.11-0.86)*; +1 SD: 0.59(0.40-0.87)**
[S-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.29(0.09-0.93)*,Q3: 0.15(0.04-0.57)**,Q4: 0.07(0.02-0.32)***; +1 SD: 0.33(0.18-0.61)***
・脳出血
[総HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.46(0.13-1.64),Q3: 0.44(0.12-1.62),Q4: 0.35(0.09-1.35); +1 SD: 0.79(0.49-1.29)
[L-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 2.71(0.83-8.84),Q3: 1.43(0.45-4.56),Q4: 1.87(0.57-6.13); +1 SD: 1.17(0.76-1.80)
[M-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.30(0.07-1.34),Q3: 0.11(0.02-0.62)*,Q4: 0.09(0.02-0.53)**; +1 SD: 0.41(0.21-0.80)**
[S-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.45(0.13-01.54),Q3: 0.12(0.02-0.66)*,Q4: 0.02(0.002-0.20)***; +1 SD: 0.30(0.14-0.65)***
・脳実質内出血
[総HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.80(0.13-4.95),Q3: 0.52(0.07-3.89),Q4: 0.32(0.05-2.16); +1 SD: 0.68(0.37-1.28)
[L-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 4.06(0.74-22.2),Q3: 3.71(0.61-2.60),Q4: 1.60(0.25-10.4); +1 SD: 1.06(0.60-1.87)
[M-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.25(0.04-1.72),Q3: 0.18(0.02-1.60),Q4: 0.06(0.005-0.62)*; +1 SD: 0.38(0.16-0.90)*
[S-HDL-C]Q1: 1.00,Q2: 0.46(0.11-2.00),Q3: 0.16(0.03-1.02),Q4: 0.02(0.001-0.29)**; +1 SD: 0.30(0.12-0.77)*
◇ 結論
血清中のリポ蛋白の一つである高密度リポ蛋白(HDL)は,多様なサイズ・性質の粒子からなっており,抗動脈硬化作用や抗炎症作用は粒子の小さい(密度の高い)HDLのほうが強いとされる。農村部の日本人一般住民を対象としたコホート研究において,HDLの各亜分画のコレステロール値と脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果,small HDLおよびmedium HDLに含まれるコレステロール値は脳卒中,脳梗塞および脳出血の発症リスクと負の関連を示したが,large HDLのコレステロール値については,このような関連はみられなかった。