[2014年文献] 中心血圧は,心臓の無症候性臓器障害(左側R波増高,ST-T異常,左室肥大)のリスクと有意に関連
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の断面解析によって,非侵襲的な検査によって推算された中心血圧と,心臓における無症候性臓器障害との関連を検討した。その結果,中心血圧がもっとも高いカテゴリーでは,もっとも低いカテゴリーに対して左側R波増高,ST-T異常,および左室肥大のリスクがいずれも有意に高くなっており,これらの関連は高血圧者よりも非高血圧者で顕著であった。
Cui R, et al.; CIRCS Investigators. An association between central aortic pressure and subclinical organ damage of the heart among a general Japanese cohort: Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Atherosclerosis. 2014; 232: 94-8.
- コホート
- 2010年1月~2011年6月に,秋田県井川町,茨城県筑西市協和地区または大阪府八尾市南高安地区で循環器健診を受診し,中心血圧を測定した40~79歳の3002人(男性1507人,女性1495人)(断面解析)。
中心血圧*は,自動式の血圧脈波検査装置HEM-9000AI(オムロンヘルスケア株式会社)を用いて非侵襲的に測定し,その三分位による以下のカテゴリーを用いて解析を行った。
T1(低値): 中心血圧の平均123 mmHg,T2: 142 mmHg,T3(高値): 166 mmHg
*血液が心臓から大動脈に出た直後の血圧のこと。「心臓,脳,腎臓のレベルで作動する血圧」であり,太い弾性動脈から末梢の小・細動脈に至る全身的な動脈の硬度(stiffness)や緊張度(tonus)を反映する。高値は,臓器障害や将来の動脈硬化の進展,心血管疾患発症と関連することが報告されている。以前は心臓カテーテル検査でしか測れなかったが,橈骨動脈波から測定する収縮後期圧(SBP2)に基づいて,非侵襲的に推算できるようになった。
(参考: 日本循環器学会. 血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_yamashina_h.pdf ) - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢64.1歳,中心血圧143.9 mmHg,収縮期血圧126.4 mmHg,拡張期血圧77.9 mmHg,BMI 23.6 kg/m2,総コレステロール209.6 mg/dL,HDL-C 62.5 mg/dL,トリグリセリド112.4 mg/dL,アルコール摂取量20.1 g/日,喫煙率15.9%,高血圧36.6%,降圧薬服用率18.7%,糖尿病7.9%,脳卒中既往2.2%,冠動脈疾患既往1.3%。
性別にみた中心血圧は,男性143.8 mmHg,女性144.0 mmHgで,有意差はみられなかった(P=0.80)。
◇心臓における無症候性臓器障害
心電図により診断した無症候性臓器障害の所見の保有率は,以下のとおりであった。
左側R波増高: 8.8%(男性13.6%,女性4.0%[P<0.001])
重度ST-T異常: 3.8%(3.5%,4.0%[P=0.39])
軽度ST-T異常: 16.4%(11.1%,21.8%[P<0.001])
左室肥大: 1.4%(1.8%,1.1%[P=0.10])
◇ 中心血圧と無症候性臓器障害リスク
中心血圧の三分位によるカテゴリーごとの,それぞれの無症候性臓器障害の多変量調整オッズ比†は以下のとおりで,T1にくらべ,もっとも値の高いT3ではいずれのリスクも有意に高かった(それぞれT1,T2,T3の値,*P<0.05)。
(†年齢,性,BMI,喫煙,飲酒,総コレステロール,HDL-C,トリグリセリド,糖尿病,地域,降圧薬服用で調整)
左側R波増高: 1.0(対照),1.7(95%信頼区間1.2-2.5)*,2.7(1.9-3.9)*
重度ST-T異常: 1.0,1.0(0.6-1.8),1.8(1.1-2.9)*
軽度ST-T異常: 1.0,1.3(1.0-1.7),1.7(1.3-2.3)*
左室肥大: 1.0,2.0(0.7-5.2),3.2(1.3-8.1)*
高血圧の有無による層別解析を行った結果,中心血圧と左側R波増高,軽度ST-T異常,および左室肥大との関連は,いずれも非高血圧者でのみ有意であった。
◇ 上腕血圧との比較
上腕で測定した収縮期血圧値および中心血圧値と無症候性臓器障害の各所見との関連の強さについて,受信者特性(ROC)解析を行い,曲線下面積を比較した結果は以下のとおりで,軽度ST-T異常について,中心血圧のほうが有意に強い関連を示していた。
左側R波増高: 中心血圧0.63,上腕収縮期血圧0.62(P=0.76)
重度ST-T異常: 0.61,0.59(P=0.29)
軽度ST-T異常: 0.62,0.58(P=0.002)
左室肥大: 0.67,0.63(P=0.27)
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の断面解析によって,非侵襲的な検査によって推算された中心血圧と,心臓における無症候性臓器障害との関連を検討した。その結果,中心血圧がもっとも高いカテゴリーでは,もっとも低いカテゴリーに対して左側R波増高,ST-T異常,および左室肥大のリスクがいずれも有意に高くなっており,これらの関連は高血圧者よりも非高血圧者で顕著であった。