[2014年文献] トリグリセリドは,空腹時・非空腹時とも虚血性心血管疾患リスクと関連する

欧米にくらべて脂質異常症が少ないアジアにおいて,非空腹時および空腹時のトリグリセリドと心血管疾患リスクとの関連を検討したはじめての研究。4つの地域の日本人一般住民を約22年間追跡した結果,男性では空腹時・非空腹時を問わずトリグリセリドと虚血性心血管疾患(冠動脈疾患+脳梗塞)発症リスクとの有意な関連がみられた。一方,女性では非空腹時トリグリセリドだけが虚血性心血管疾患発症リスクと有意に関連していた。これらの結果は,臨床および健診における非空腹時トリグリセリドの有用性を支持するものといえる。

Iso H, et al.; CIRCS Investigators. Fasting and non-fasting triglycerides and risk of ischemic cardiovascular disease in Japanese men and women: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Atherosclerosis. 2014; 237: 361-8.pubmed

コホート
CIRCSの循環器健診が行われた4地域(秋田県井川町[1975~1980年],大阪府八尾市南高安地区[1975~1984年],高知県[旧]野市町[1975~1980年],茨城県[旧]協和町[1981~1986年])の40~69歳の11370人のうち,冠動脈疾患や脳卒中の既往のある人を除いた10659人(男性4264人,女性6395人)を,協和町と野市町では2005年末まで,秋田県井川町では2009年末まで,八尾市南高安地区では2008年末まで追跡。
追跡期間(中央値)は,冠動脈疾患については22.3年,脳梗塞については22.2年。

トリグリセリド値の四分位によるカテゴリーに対象者を分類し,虚血性心血管疾患(冠動脈疾患および脳梗塞)の発症率を比較した。
さらに,直前の食事から血液検査までに8時間以上経過している場合は空腹時トリグリセリド,8時間未満の場合は非空腹時トリグリセリドとして,それぞれの四分位(男女別)による以下のカテゴリーを用いた解析も行った(直前の食事から血液検査までの時間は,1時間未満が3.0%,1時間以上2時間未満が20.7%,2時間以上3時間未満が43.7%,3時間以上8時間未満が9.9%,8時間以上が22.7%)。

・空腹時トリグリセリド
  Q1: 29~83 mg/dL(男性247人,女性358人),Q2: 84~114 mg/dL(228人,384人),Q3: 115~166 mg/dL(225人,377人),Q4: 167~1266 mg/dL(259人,346人)

・非空腹時トリグリセリド
  Q1: 23~84 mg/dL(男性807人,女性1255人),Q2: 85~115 mg/dL(773人,1291人),Q3: 116~165 mg/dL(797人,1280人),Q4: 166~2100 mg/dL(928人,1104人)
結 果
◇ 対象背景
性および空腹時・非空腹時を問わず,トリグリセリド値はBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,降圧薬服用率,高血圧の割合,総コレステロール値,および血糖値と有意な正の関連,HDL-Cと有意な負の関連を示していた。
男性では,空腹時・非空腹時を問わず,トリグリセリド値と年齢との有意な負の関連がみられた。また女性では,空腹時・非空腹時を問わず,トリグリセリド値と年齢,および閉経している人の割合との有意な正の関連がみとめられた。

追跡期間中の冠動脈疾患の発症は284人(男性165人,女性119人),脳梗塞の発症は666人(349人,317人)であった。

◇ トリグリセリドと虚血性心血管疾患リスク
トリグリセリド(空腹時・非空腹時を問わない)の四分位によるカテゴリーごとの虚血性心血管疾患(冠動脈疾患および脳梗塞)発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,Q3およびQ4で,Q1に対する有意なリスク増加がみとめられた(*P<0.001)。
この結果は,男女別に解析を行っても同様であった。
年齢,性,地域,収縮期血圧,降圧薬服用,総コレステロール,BMI,喫煙,アルコール摂取,血糖値,食後経過時間,閉経状況[女性]で調整)
  Q1: 1.00
  Q2: 1.05(95%信頼区間0.85-1.29)
  Q3: 1.43(1.17-1.76)*
  Q4: 1.65(1.33-2.04)*
  (P for trend<0.001)

◇ 空腹時・非空腹時トリグリセリドと虚血性心血管疾患リスク
・全体(男性+女性)
空腹時および非空腹時トリグリセリドのカテゴリーごとにみた虚血性心血管疾患の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,空腹時・非空腹時を問わず,トリグリセリドが高いほどリスクが有意に増加する傾向がみとめられた。

[空腹時]Q1:1.00,Q2: 1.22(95%信頼区間0.82-1.82),Q3: 1.73(1.17-2.56),Q4: 1.71(1.14-2.59),P for trend=0.013
[非空腹時]Q1:1.00,Q2: 0.96(0.75-1.23),Q3: 1.30(1.02-1.66),Q4: 1.60(1.25-2.05),P for trend<0.001)

・男性
空腹時・非空腹時を問わず,トリグリセリドが高いほどリスクが高い傾向がみられた。

[空腹時]Q1:1.00,Q2: 1.32(95%信頼区間0.80-2.19),Q3: 1.47(0.87-2.49),Q4: 1.75(1.03-3.07),P for trend=0.056
[非空腹時]Q1:1.00,Q2: 0.77(0.55-1.09),Q3: 1.28(0.93-1.77),Q4: 1.34(0.95-1.88),P for trend=0.016

・女性
非空腹時トリグリセリドは虚血性心血管疾患のリスクと有意に関連していたが,空腹時トリグリセリドについては有意な関連はみられなかった。

[空腹時]Q1:1.00,Q2: 1.01(95%信頼区間0.52-1.97),Q3: 1.81(0.97-3.37),Q4: 1.36(0.70-2.64,P for trend=0.342
[非空腹時]Q1:1.00,Q2: 1.19(0.82-1.73),Q3: 1.28(0.88-1.87),Q4: 1.87(1.28-2.73),P for trend<0.001)

冠動脈疾患と脳梗塞に分けて解析を行った結果,空腹時および非空腹時トリグリセリドとの関連は,脳梗塞より冠動脈疾患のほうが強かった。
また,冠動脈疾患と脳梗塞のいずれに関しても,非空腹時トリグリセリドのほうが空腹時トリグリセリドにくらべて強い関連を示していた。
この結果は,男女別にみても同様であった。

以上の結果は,HDL-Cのデータのある人(対象者の55%)において調整因子にHDL-Cを加えた多変量解析を行っても,ほぼ同様であった。


◇ 結論
欧米にくらべて脂質異常症が少ないアジアにおいて,非空腹時および空腹時のトリグリセリドと心血管疾患リスクとの関連を検討したはじめての研究。4つの地域の日本人一般住民を約22年間追跡した結果,男性では空腹時・非空腹時を問わずトリグリセリドと虚血性心血管疾患(冠動脈疾患+脳梗塞)発症リスクとの有意な関連がみられた。一方,女性では非空腹時トリグリセリドだけが虚血性心血管疾患発症リスクと有意に関連していた。これらの結果は,臨床および健診における非空腹時トリグリセリドの有用性を支持するものといえる。


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