[2017年文献] 集団レベルでみると,1990年代後半以降も,脳卒中・冠動脈疾患に対する高血圧のインパクトは大きい
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,おもな心血管危険因子と心血管疾患との関連の強さを,個人レベル(相対リスク)および集団レベル(人口寄与度割合[PAF])で検討した。1990年代後半から平均12.5年間の追跡を行った結果,脳卒中と冠動脈疾患(CHD)のいずれに対しても,PAFがもっとも大きい(集団レベルでインパクトの大きい)危険因子は高血圧であった。個人レベルでみると,虚血性脳卒中リスクとの関連が強い危険因子は心房細動で,CHDリスクとの関連が強い危険因子は高血圧,脂質異常症および喫煙であった。また,高血圧に伴う無症候性臓器障害(眼底異常,心電図異常,蛋白尿,腎機能低下)をもつ人では脳卒中とCHDのいずれの発症リスクも高くなっていた。以上の結果より,健診の場などで,高血圧者のスクリーニングとともに,高血圧者を対象とした非侵襲的な検査でこれらの臓器障害の有無を確認することは,今後も心血管疾患の予防に有用であると考えられた。
Kitamura A, et al.; CIRCS Investigators. Impact of Hypertension and Subclinical Organ Damage on the Incidence of Cardiovascular Disease Among Japanese Residents at the Population and Individual Levels - The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Circ J. 2017; 81: 1022-1028.
- コホート
- 秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県[旧]協和町,および大阪府八尾市南高安地区の4地域において,1995~2000年に循環器健診を受けた40~74歳の一般住民のうち,脳卒中または冠動脈疾患既往のある人を除いた10612人(男性3960人,女性6652人)を平均12.5年間追跡(野市: 2005年まで,協和: 2010年まで,井川および八尾: 2012年まで)。
おもな心血管危険因子および無症候性臓器障害のカットオフ値・診断基準は以下のとおり。
高血圧: 140 / 90 mmHg以上または降圧薬服用
non-HDL-C高値: 140 mg/dL以上または脂質低下薬服用
HDL-C低値: 40 mg/dL未満
トリグリセリド高値: 空腹時150 mg/dL以上,非空腹時250 mg/dL以上
血糖高値: 空腹時110 mg/dL以上または非空腹時140 mg/dL以上または糖尿病薬服用
メタボリックシンドローム: 日本の基準を一部修正したもの
眼底異常: 修正Scheie分類で高血圧性変化(H所見)1度以上または硬化性変化(S所見)1度以上
心電図上ST-T変化: 安静時の心電図でミネソタコード4-1~4-3または5-1~5-3のいずれかの所見あり
蛋白尿: 1+以上
腎機能低下: 推算糸球体濾過量(eGFR)60 mL/min/1.73 m2未満 - 結 果
- 追跡期間中の脳卒中発症は364件(男性188件,女性176件)で,うち出血性脳卒中が126件(脳内出血87件,くも膜下出血39件),虚血性脳卒中が232件(ラクナ梗塞127件,アテローム血栓性脳梗塞67件,未分類の脳梗塞38件),病型不明6件であった。
冠動脈疾患(CHD)の発症は137件(94件,43件)で,うち心筋梗塞が74件,狭心症が35件,心臓突然死が28件であった。
◇ 対象背景
脳卒中発症者,CHD発症者,および脳卒中・CHDとも発症しなかった人(非発症者)のあいだで,おもな対象背景を比較した。
脳卒中発症者で,非発症者にくらべて有意に高い値を示していたのは,年齢,高血圧の割合,血糖高値の割合,心房細動の割合,眼底異常の割合,多量飲酒者の割合(男性のみ),心電図上ST-T変化の割合(男性のみ),蛋白尿の割合(男性のみ),およびBMI(女性のみ)で,有意に低い値を示していたのは推算糸球体濾過量(eGFR)であった。
CHD発症者で,非発症者にくらべて有意に高い値を示していたのは,年齢,脂質異常症の割合(男性のみ),血糖高値の割合(男性のみ),多量喫煙者の割合(男性のみ),眼底異常の割合(男性のみ),心電図上ST-T変化の割合(男性のみ),蛋白尿(男性のみ),高血圧の割合(女性のみ),および心房細動の割合(女性のみ)で,有意に低い値を示していたのは飲酒率(男性のみ)およびeGFR(女性のみ)。
◇ おもな危険因子と脳卒中リスク
おもな心血管危険因子をもつ場合の脳卒中発症の多変量調整ハザード比†(vs. もたない場合),ならびに人口寄与度割合(population attributable fraction: PAF,多変量調整ハザード比が有意に高い場合にのみ算出)は以下のとおりで,もっともハザード比が高いのは心房細動だったが,PAFがもっとも大きいのは高血圧であった。
(†年齢,性,コホート,高血圧,non-HDL-C高値,HDL-C低値,トリグリセリド高値,血糖高値,心房細動,喫煙状況,および飲酒状況で調整)
高血圧: 2.5(95%信頼区間2.0-3.3),PAF 46%(95%信頼区間35-56%)
non-HDL-C高値: 0.9(0.7-1.1)
HDL-C低値: 1.1(0.8-1.5)
トリグリセリド高値: 1.0(0.8-1.4)
血糖高値: 1.4(1.1-1.8),PAF 7%(2-12%)
心房細動: 4.9(2.9-8.3),PAF 3%(1-5%)
喫煙: 1.1(0.8-1.6)
飲酒: 0.9(0.7-1.3)
メタボリックシンドローム: 2.8(1.7-4.7),PAF 9%(5-13%)
これらの結果は,男女別に行った解析でも同様であった。
病型別にみると,高血圧は出血性脳卒中と虚血性脳卒中のいずれのリスクとも有意に関連しており,PAFはそれぞれ57%と42%であった。
心房細動をもつ人における虚血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比は,6.0と顕著に高かった。
◇ 高血圧に伴う無症候性臓器障害と脳卒中リスク
無症候性臓器障害をもつ高血圧者における,脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡(vs. 非高血圧者)は以下のとおりで,いずれもリスク増加と有意に関連していた(‡年齢,性,コホート,non-HDL-C高値,HDL-C低値,トリグリセリド高値,血糖高値,心房細動,喫煙状況,および飲酒状況で調整)。
眼底異常: 3.8(95%信頼区間2.8-5.1)
心電図上ST-T変化: 3.8(2.5-5.6)
蛋白尿: 4.9(2.8-8.4)
eGFR低値: 3.6(2.6-5.0)
また,無症候性臓器障害の保有数が増えるほど,脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡が有意に増加する傾向がみとめられた(P for trend<0.001)。
◇ おもな危険因子とCHDリスク
おもな心血管危険因子をもつ場合のCHD発症の多変量調整ハザード比‡(vs. もたない場合),ならびに PAFは以下のとおりで,ハザード比がもっとも高いのは喫煙,PAFがもっとも大きいのは高血圧で,飲酒はCHDリスクと有意な負の関連を示していた。
(‡年齢,性,コホート,高血圧,non-HDL-C高値,HDL-C低値,トリグリセリド高値,血糖高値,喫煙状況,および飲酒状況で調整)
高血圧: 1.8(95%信頼区間1.2-2.5),PAF 29%(95%信頼区間9-45%)
non-HDL-C高値: 1.4(0.9-2.2),PAF 20%(0-40%)
HDL-C低値: 1.7(1.1-2.6),PAF 8%(0-16%)
トリグリセリド高値: 1.4(1.0-2.2),PAF 7%(0-17%)
血糖高値: 1.4(1.0-2.2),PAF 7%(0-16%)
心房細動: 算出せず(CHD発症者が少ないため)
喫煙: 2.0(1.1-3.5),PAF 21%(4-34%)
飲酒: 0.5(0.3-0.8)
メタボリックシンドローム: 1.7(0.9-3.2)
性別の解析を行った結果,男性でCHDのPAFがもっとも大きい危険因子はnon-HDL-C高値(38%)だったが,女性では高血圧(48%)であった。
◇ 高血圧に伴う無症候性臓器障害とCHDリスク
無症候性臓器障害をもつ高血圧者における,CHD発症の多変量調整ハザード比‡(vs. 非高血圧者)は以下のとおりで,いずれもリスク増加と有意に関連していた。
眼底異常: 2.6(1.6-4.2)
心電図上ST-T変化: 2.8(1.5-5.4)
蛋白尿: 3.9(1.7-8.8)
eGFR低値: 2.7(1.6-4.5)
また,無症候性臓器障害の保有数が増えるほど,CHD発症の多変量調整ハザード比‡が有意に増加する傾向がみとめられた(P for trend=0.001)。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,おもな心血管危険因子と心血管疾患との関連の強さを,個人レベル(相対リスク)および集団レベル(人口寄与度割合[PAF])で検討した。1990年代後半から平均12.5年間の追跡を行った結果,脳卒中と冠動脈疾患(CHD)のいずれに対しても,PAFがもっとも大きい(集団レベルでインパクトの大きい)危険因子は高血圧であった。個人レベルでみると,虚血性脳卒中リスクとの関連が強い危険因子は心房細動で,CHDリスクとの関連が強い危険因子は高血圧,脂質異常症および喫煙であった。また,高血圧に伴う無症候性臓器障害(眼底異常,心電図異常,蛋白尿,腎機能低下)をもつ人では脳卒中とCHDのいずれの発症リスクも高くなっていた。以上の結果より,健診の場などで,高血圧者のスクリーニングとともに,高血圧者を対象とした非侵襲的な検査でこれらの臓器障害の有無を確認することは,今後も心血管疾患の予防に有用であると考えられた。