[2020年文献] 頚動脈内膜-中膜壁厚高値は脳卒中発症リスクと有意な正の関連を示す
頚動脈内膜-中膜壁厚(IMT)ならびにプラーク表面の不均一性は動脈硬化の指標となり,これらは脳卒中発症リスクと関連することが知られている。欧米からは,IMTならびにプラーク特性が冠動脈疾患(CHD)の発症リスクと関連することが報告されている。一方,日本人の男性を対象とした研究では,IMTとプラーク特性は全脳卒中ならびに虚血性脳卒中発症リスクと関連することが示された。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究で,IMTならびにプラーク特性と,脳卒中(病型別),CHD発症リスクとの関連を調べた。その結果,総頚動脈の最大IMT(最大CCA-IMT)と,脳卒中ならびにCHD発症リスクとの有意な正の関連がみられ,内頚動脈の最大IMT(最大CCA-IMT)と,脳卒中発症リスクとの有意な正の関連がみられた。また,プラークのエコー輝度が不均一な人は,プラークがない人に比して,全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞,CHD,心血管疾患発症リスクが有意に高いことが示された。
Shimoda S, et al. Associations of Carotid Intima-Media Thickness and Plaque Heterogeneity With the Risks of Stroke Subtypes and Coronary Artery Disease in the Japanese General Population: The Circulatory Risk in Communities Study. J Am Heart Assoc. 2020; e017020.
- コホート
- 秋田県井川町(1996~2000年,2002~2004年),大阪府八尾市南高安地区(1997~2000年),高知県(旧)野市町(1996~1999年),茨城県(旧)協和町(1997~1999年)で検診を受けた40~75歳の3073人のうち,脳卒中既往(75人),冠動脈疾患(CHD)既往(40人),心血管疾患(CVD)リスク因子のデータのない人(6人),頚動脈超音波検査による頚動脈内膜-中膜壁厚(IMT)のデータのない人(9人)を除外した2943人(男性2226人,女性717人)を解析対象とした。さらに,頚動脈プラークのエコー輝度に関するデータのない人(1人)を除外した2942人を頚動脈プラーク特性の解析対象とした。追跡期間は15.1年(中央値)。
総頚動脈の最大IMT(最大CCA-IMT)は,右総頚動脈または左総頚動脈の近位壁ならびに遠位壁における最大IMTと定義し,内頚動脈の最大IMT(最大ICA-IMT)も同様に定義した。
最大CCA-IMTならびに最大ICA-IMTの四分位数により対象者を4つのカテゴリー([Q1]~[Q4])に分けて解析した。
・最大CCA-IMT
[Q1]≦0.77 mm,[Q2]0.78~0.95 mm,[Q3]0.96~1.06 mm,[Q4]≧1.07 mm
・最大ICA-IMT
[Q1]≦0.98 mm,[Q2]0.99~1.25 mm,[Q3]1.26~1.83 mm,[Q4]≧1.84 mm
頚動脈プラークは,内頚動脈の血管壁の局所の厚さが1.5 mm以上の場合に「あり」と定義し,プラーク特性は,Cardiovascular Health Studyで用いられている方法により,プラークのエコー輝度を定性的に分類し,「プラークなし」「均一」「不均一」の3つのカテゴリーにわけて解析した。
- 結 果
- 追跡期間中に脳卒中を発症した人は186人。そのうち,虚血性脳卒中137人(うちラクナ梗塞77人)で,CHDを発症したのは88人であった。
◇ 対象背景
最大CCA-IMTならびに最大ICA-IMTの四分位数で分けた4つのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。
・最大CCA-IMT
人数(人): [Q1]862,[Q2]610,[Q3]741,[Q4]730
男性: 74.8%,72.6%,74.0%,80.8%,P for trend<0.001
年齢(歳): 62.6,65.2,66.6,66.6,P for trend<0.001
BMI(kg/m2): 22.7,23.7,23.6,24.2,P for trend<0.001
降圧薬服用: 23.1%,23.9%,30.4%,34.9%,P for trend<0.001
糖尿病既往: 5.3%,7.2%,9.4%,14.3%,P for trend<0.001
総コレステロール(mg/dL): 196.9,200.7,204.6,212.3,P for trend<0.001
HDL-C(mg/dL): 57.9,54.0,54.0,54.0,P for trend<0.001
non-HDL-C(mg/dL): 139.0,146.7,146.7,158.3,P for trend<0.001
トリグリセリド(mg/dL): 115.1,132.8,132.8,132.8,P for trend=0.0007
・最大ICA-IMT
人数(人): [Q1]735,[Q2]743,[Q3]758,[Q4]707
男性: 69.3%,71.7%,77.4%,84.4%,P for trend<0.001
年齢(歳): 63.5,64.1,65.5,66.9,P for trend<0.001
BMI(kg/m2): 23.6,23.6,23.6,23.3,P for trend=0.04
降圧薬服用: 22.4%,24.5%,28.8%,36.8%,P for trend<0.001
糖尿病既往: 7.0%,7.6%,8.8%,12.7%,P for trend<0.001
総コレステロール(mg/dL): 200.7,204.6,204.6,204.6,P for trend=0.014
HDL-C(mg/dL): 57.9,57.9,54.0,57.9,P for trend=0.99
non-HDL-C(mg/dL): 142.8,146.7,150.5,150.5,P for trend=0.009
トリグリセリド(mg/dL): 123.9,123.9,132.8,132.8,P for trend=0.009
◇最大CCA-IMTとCVD[CHD+脳卒中]発症リスクとの関連
最大CCA-IMTのカテゴリーごとの,心血管疾患発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。最大CCA-IMTと全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞,CHD,CVD発症リスクとの有意な正の関連がみられた。出血性脳卒中,非ラクナ梗塞との関連はみられなかった(†年齢,性別,地域,BMI,収縮期血圧,降圧薬服用,糖尿病既往,non-HDL-C値,トリグリセリド値,脂質低下薬服用,推算糸球体濾過量[eGFR],心房細動既往,喫煙,飲酒で調整)。
・全脳卒中
[Q1]1.00,[Q2]1.38(0.86-2.23),[Q3]1.38(0.87-2.18),[Q4]1.97(1.26-3.06)
・虚血性脳卒中
1.00,1.87(1.04-3.38),1.97(1.12-3.45),2.45(1.41-4.27)
・ラクナ梗塞
1.00,2.59(1.13-5.96),2.45(1.10-5.48),3.60(1.64-7.91)
・CHD
1.00,2.54(1.17-5.52),1.75(0.79-3.91),2.68(1.24-5.76)
・CVD
1.00,1.64(1.09-2.47),1.44(0.97-2.15),2.11(1.44-3.11)
◇最大ICA-IMTとCVD発症リスクとの関連
最大ICA-IMTのカテゴリーごとの,CVD発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。Q1に比して,Q4は全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞,CVD発症リスクが有意に高かった。出血性脳卒中,非ラクナ梗塞との関連はみられなかった
・全脳卒中
[Q1]1.00,[Q2]1.31(0.81-2.14),[Q3]1.31(0.81-2.11),[Q4]1.98(1.25-3.14)
・虚血性脳卒中
1.00,1.37(0.74-2.55),1.73(0.97-3.10),2.45(1.39-4.34)
・ラクナ梗塞
1.00,1.75(0.74-4.15),2.20(0.97-4.97),2.80(1.24-6.32)
・CHD
1.00,0.79(0.37-1.72),1.47(0.74-2.91),1.49(0.74-2.98)
・CVD
1.00,1.09(0.72-1.66),1.39(0.93-2.06),1.78(1.20-2.62)
◇プラーク特性とCVD発症リスクとの関連
プラーク特性とCVD発症の多変量調整†後ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。プラークのエコー輝度が不均一な人は,プラーク(-)の人に比して,全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞,CHD,CVD発症リスクが有意に高かった。出血性脳卒中,非ラクナ梗塞との関連はみられなかった
・全脳卒中
[プラーク(-)]1.00,[均一]1.35(0.91-2.01),[不均一]1.58(1.09-2.30)
・虚血性脳卒中
1.00,1.55(0.98-2.44),1.74(1.13-2.67)
・ラクナ梗塞
1.00,1.35(0.72-2.53),1.84(1.06-3.19)
・CHD
1.00,1.03(0.51-2.07),2.11(1.20-3.70)
・CVD
1.00,1.25(0.88-1.77),1.71(1.25-2.35)
◇ 結論
頚動脈内膜-中膜壁厚(IMT)ならびにプラーク表面の不均一性は動脈硬化の指標となり,これらは脳卒中発症リスクと関連することが知られている。欧米からは,IMTならびにプラーク特性が冠動脈疾患(CHD)の発症リスクと関連することが報告されている。一方,日本人の男性を対象とした研究では,IMTとプラーク特性は全脳卒中ならびに虚血性脳卒中発症リスクと関連することが示された。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究で,IMTならびにプラーク特性と,脳卒中(病型別),CHD発症リスクとの関連を調べた。その結果,総頚動脈の最大IMT(最大CCA-IMT)と,脳卒中ならびにCHD発症リスクとの有意な正の関連がみられ,内頚動脈の最大IMT(最大CCA-IMT)と,脳卒中発症リスクとの有意な正の関連がみられた。また,プラークのエコー輝度が不均一な人は,プラークがない人に比して,全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞,CHD,心血管疾患発症リスクが有意に高いことが示された。