[2008年文献] 治療中高血圧でも脳卒中リスクが増加
高血圧治療の有無,および血圧コントロール状況による脳卒中リスクの比較を目的に,日本人一般住民を対象とした約10年間の大規模前向き追跡研究を行った。その結果,治療中の高血圧者における脳卒中リスクは,正常血圧者の3倍にのぼることが示された。この結果は,治療中でコントロールが良好な高血圧者においても同様だった。治療中高血圧のうち,高血糖をもつ人では脳卒中リスクが約2.5倍となったことから,高血圧者の脳卒中リスク予防のためには血圧および血糖の両面からのコントロールが重要と考えられる。
Ishikawa S, et al.; Jichi Medical School (JMS) Cohort Study Group. Continued high risk of stroke in treated hypertensives in a general population: the Jichi Medical School Cohort study. Hypertens Res. 2008; 31: 1125-33.
- コホート
- JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992~1995年にベースライン健診を受けた12490人のうち,追跡不能となった6人,および血圧・降圧薬服用歴などの情報に不備があった人を除いた11103人(男性4318人,女性6785人)を平均10.7年間追跡。
血圧,服薬状況,およびコントロール状況について,以下のように定義した。
正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<140 mmHg,かつ拡張期血圧(DBP)<90 mmHg
治療中高血圧: 降圧薬治療中(現状の血圧値は問わず)
非治療高血圧: 降圧薬治療を受けておらず,SBP≧140 mmHgかつ/またはDBP≧90 mmHg
コントロール良好な高血圧: 降圧薬治療を受けており,SBP<140 mmHgかつDBP<90 mmHg
コントロール不良な高血圧: 降圧薬治療を受けているが,SBP≧140 mmHgかつ/またはDBP≧90 mmHg
軽症高血圧: SBP 140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg
中等症~重症高血圧: SBP≧160 mmHgかつ/またはDBP≧100 mmHg - 結 果
- ベースライン時の正常血圧,治療中高血圧,非治療高血圧の人数はそれぞれ以下のとおり。
男性: 正常血圧2725人(63.1 %),治療中高血圧422人(9.8 %),非治療高血圧1171人(27.1 %)
女性: 正常血圧4575人(67.4 %),治療中高血圧826人(12.2 %),非治療高血圧1384人(20.4 %)
正常血圧に比べ,治療中高血圧および非治療高血圧で高い値を示していたのは年齢,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),総コレステロール,トリグリセリド,血糖値,BMI(いずれも分散分析のP<0.01)。
正常血圧に比べ,治療中高血圧および非治療高血圧で低い値を示したのはHDL-C(女性のみ,分散分析のP<0.01)。
さらにコントロール状況(良好/不良)および高血圧の度合い(軽症/中等症~重症高血圧)を考慮すると,非治療の軽症高血圧の人よりも,治療中のコントロール不良高血圧の人のほうがSBPおよびDBPが高かった。
◇ 治療中高血圧および非治療高血圧における脳卒中リスク
10.7年間の追跡期間中に脳卒中を発症したのは412人(男性210人,女性202人)。
カテゴリーごとの全脳卒中のハザード比(多変量調整)は以下のとおりで,正常血圧にくらべ,治療中高血圧,および非治療高血圧において有意なリスク上昇がみとめられた。
男性: 正常血圧 1.00 (対照)
治療中高血圧 3.00 (95 %信頼区間2.00-4.51)
非治療高血圧 2.56 (1.83-3.57)
女性: 正常血圧 1.00 (対照)
治療中高血圧 3.34 (2.29-4.87)
非治療高血圧 1.93 (1.35-2.76)
脳梗塞についても同様に,正常血圧にくらべ,治療中高血圧,および非治療高血圧における有意なリスク上昇がみとめられた。
脳出血については,男性では正常血圧にくらべて非治療高血圧のほうが,女性では正常血圧にくらべて治療中高血圧のほうがそれぞれ有意にリスクが高かった。
くも膜下出血については,女性で,正常血圧にくらべて治療中高血圧,および非治療高血圧における有意なリスク上昇(ハザード比はそれぞれ2.93[95 %信頼区間1.23-7.03],2.57[1.24-5.33])がみとめられたが,男性では有意差なし。
◇ 5つのカテゴリーごとの脳卒中リスク
全体を,正常血圧,および4つの高血圧カテゴリー(コントロール良好高血圧,コントロール不良高血圧,非治療の軽症高血圧,非治療の中等症~重症高血圧)に分け,脳卒中リスクの比較を行った。
その結果,男女とも,コントロール良好高血圧を含むすべての高血圧カテゴリーにおいて,正常血圧に対する有意な脳卒中リスク上昇がみとめられた。
コントロール良好高血圧における全脳卒中のハザード比は,男性2.96(95 %信頼区間1.66-5.26),女性3.69(2.20-6.17)。
脳梗塞リスクがもっとも高かったのはコントロール不良高血圧で,ハザード比は男性4.00(2.43-6.58),女性3.67(2.03-6.62)。
◇ 治療中高血圧における脳卒中リスクに関与している因子
治療中高血圧の人において,ベースライン時の各因子(年齢,SBP,喫煙,飲酒,肥満,脂質異常,高血糖)と脳卒中リスクとの関連をCox比例ハザードモデル(多変量)により検討した。
その結果,男女ともに有意なハザード比の上昇がみとめられたのは,年齢および高血糖だった。ハザード比は以下のとおり。
年齢(+10歳): 男性1.11 (95 %信頼区間1.06-1.17),女性1.08 (1.03-1.13)
高血糖(vs. なし): 男性2.35 (1.21-4.54),女性2.52 (1.37-4.64)
◇ 結論
高血圧治療の有無,および血圧コントロール状況による脳卒中リスクの比較を目的に,日本人一般住民を対象とした約10年間の大規模前向き追跡研究を行った。その結果,治療中の高血圧者における脳卒中リスクは,正常血圧者の3倍にのぼることが示された。この結果は,治療中でコントロールが良好な高血圧者においても同様だった。治療中高血圧のうち,高血糖をもつ人では脳卒中リスクが約2.5倍となったことから,高血圧者の脳卒中リスク予防のためには血圧および血糖の両面からのコントロールが重要と考えられる。