[2008年文献] 前高血圧のリスクはBMI 23.0~24.9 kg/m2から増加
日本人一般住民における前高血圧(prehypertension,JNC7では収縮期血圧120~139 mmHgまたは拡張期血圧80~89 mmHg)の人の割合,ならびに前高血圧に関連する因子について,多施設コホート研究の断面解析による検討を行った。前高血圧の人の割合は33.0%であった。前高血圧に関連する因子のうち,とくに強い関連がみられたのがBMIで,23.0~24.9 kg/m2のカテゴリーから有意なリスク上昇がみとめられるなど,欧米のデータにくらべると低値から前高血圧リスクと関連する可能性が示唆された。そのほかに,男性では飲酒,女性では脂質異常症や高血圧家族歴も前高血圧のリスクと関連していた。
Ishikawa Y, et al.; Jichi Medical School Cohort Investigators Group. Prevalence and determinants of prehypertension in a Japanese general population: the Jichi Medical School Cohort Study. Hypertens Res. 2008; 31: 1323-30.
- コホート
- JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992~1995年にベースライン健診を受け,血圧のデータがある12048人(男性4706人,女性7342人)。
平均年齢は55.3歳(男性55.3歳,女性55.4歳)。
対象者を,JNC7の基準による以下の血圧カテゴリーに分類した。
正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHg,かつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
前高血圧: SBP 120~139 mmHgかつ/またはDBP 80~89 mmHg
高血圧: SBP≧140 mmHg,DBP≧90 mmHgまたは降圧薬服用中 - 結 果
- ◇ 前高血圧の割合
正常血圧,前高血圧および高血圧の割合は,それぞれ以下のとおりであった。
正常血圧: 32.7%
前高血圧: 33.0%(男性34.8%,女性31.8%)
高血圧: 34.3%(36.8%,32.7%)
高血圧の割合は,年齢とともに上昇傾向を示していた。
一方,性・年齢層ごとにみた前高血圧者の割合は以下のとおりで,男女とも40歳にかけて上昇し,それ以降は男性では年齢とともに低下傾向,女性ではあまり変化しない傾向であった。
~29歳: 男性34.7%,女性20.5%
30~39歳: 43.3%,23.0%
40~49歳: 40.5%,33.0%
50~59歳: 35.8%,33.1%
60~69歳: 30.9%,32.6%
70歳以上: 24.7%,29.1%
BMIごとにみた前高血圧および高血圧の割合は以下のとおりで,高血圧の割合がBMIとともに上昇傾向を示していたのに対し,前高血圧の割合は,BMI 25 kg/m2未満までは上昇傾向,それ以上のカテゴリーではBMIが大きくなるほど低下傾向を示していた。
~22.9 kg/m2: 前高血圧32.4%,高血圧25.6%
23.0~24.9 kg/m2: 35.0%,37.3%
25.0~26.9 kg/m2: 32.8%,45.9%
27.0~29.9 kg/m2: 32.8%,53.3%
30.0 kg/m2以上: 27.6%,62.9%
◇ 前高血圧に関連する因子
前高血圧の人で,正常血圧の人に比して有意に高い値(P<0.01)を示していたのは,年齢,BMI,血糖,および総コレステロールで,有意に低い値(P<0.01)を示していたのはHDL-C(女性のみ)であった。
多変量ロジスティック回帰分析†において,前高血圧との有意な関連を示していた因子は以下のとおりで,男女ともBMIがもっとも関連の強い因子であった。なお,喫煙と前高血圧との負の関連には,BMI低値が関与していると考えられた。
(†年齢,BMI,高血圧家族歴,飲酒,喫煙,耐糖能および脂質異常症で調整)
・男性
年齢(+10歳): オッズ比1.12(95%信頼区間1.05-1.20),P<0.001
BMI 23.0~24.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 1.47(1.21-1.79),P<0.001
BMI 25.0~26.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 2.20(1.68-2.87),P<0.001
BMI 27.0~29.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 2.75(1.80-4.19),P<0.001
BMI≧30.0 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 3.39(1.21-9.46),P=0.020
飲酒(vs. 非飲酒): 1.45(1.23-1.70),P<0.001
喫煙(vs. 非喫煙): 0.82(0.69-0.96),P=0.016
・女性
年齢(+10歳): 1.48(1.39-1.57),P<0.001
BMI 23.0~24.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 1.67(1.42-1.95),P<0.001
BMI 25.0~26.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 1.79(1.46-2.19),P<0.001
BMI 27.0~29.9 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 3.65(2.73-4.89),P<0.001
BMI≧30.0 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2): 4.23(2.33-7.70),P<0.001
両親に高血圧家族歴あり(vs. 両親ともなし): 1.90(1.38-2.62),P<0.001
喫煙(vs. 非喫煙): 0.67(0.50-0.88),P=0.005
耐糖能異常(vs. 耐糖能正常): 1.41(1.03-1.94),P=0.034
糖尿病(vs. 耐糖能正常): 2.01(1.16-3.47),P=0.012
脂質異常症(vs. 正常): 1.43(1.22-1.67),P<0.001
一方,多変量ロジスティック回帰分析†において,高血圧のオッズ比と有意な関連を示していた因子は,年齢(+10歳),BMI 23.0~24.9・25.0~26.9・27.0~29.9・≧30 kg/m2(vs. <22.9 kg/m2),片親・両親の高血圧家族歴(vs. 両親ともなし),飲酒(vs. 非飲酒,男性のみ),喫煙(vs. 非喫煙,負の関連),耐糖能異常・糖尿病(vs. 耐糖能正常),脂質異常症(vs. 正常)であった。
◇ 結論
日本人一般住民における前高血圧(prehypertension,JNC7では収縮期血圧120~139 mmHgまたは拡張期血圧80~89 mmHg)の人の割合,ならびに前高血圧に関連する因子について,多施設コホート研究の断面解析による検討を行った。前高血圧の人の割合は33.0%であった。前高血圧に関連する因子のうち,とくに強い関連がみられたのがBMIで,23.0~24.9 kg/m2のカテゴリーから有意なリスク上昇がみとめられるなど,欧米のデータにくらべると低値から前高血圧リスクと関連する可能性が示唆された。そのほかに,男性では飲酒,女性では脂質異常症や高血圧家族歴も前高血圧のリスクと関連していた。