[2009年文献] 飲酒量と全死亡リスクはJ字型に関連
アルコール摂取状況と全死亡リスクとの関連を検討するため,日本人一般住民を対象とした前向き追跡研究を行った。その結果,男性では飲酒未経験者にくらべて多量飲酒者の全死亡リスクが有意に増加している一方で,少量~中程度飲酒者のリスクがわずかに低く,J字型の傾向がみとめられた。
Sadakane A, et al. Amount and Frequency of Alcohol Consumption and All-Cause Mortality in a Japanese Population: The JMS Cohort Study. J Epidemiol. 2009;
- コホート
- JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992~1995年にベースライン健診を受けた12490人のうち,追跡健診の受診を拒否した95人,対象地域に居住していなかった2人,40歳未満または69歳超の1859人,アルコール摂取に関する回答に不備があった1028人,心筋梗塞・脳卒中・癌のいずれかの既往のある572人を除いた8934人(男性3444人,女性5490人)を平均12年間追跡。追跡率は99.2 %。
平均年齢は男性56.3歳,女性56.4歳。
アルコールの摂取状況(摂取頻度,よく飲む酒の種類など)を自己記入式質問票により調査し,1日あたりの摂取量を算出したうえで以下のようなカテゴリーに分けて解析を行った(1合=アルコール換算で22.8~22.9 g)。
・ 男性
飲酒未経験者,禁酒者,少量飲酒者(1日1合以下),中程度飲酒者(1日1合超~3合),多量飲酒者(1日3合超)
・ 女性
飲酒未経験者,禁酒者,飲酒者
(女性では中程度~多量飲酒者の割合が少なかったため,飲酒量による解析は行わなかった) - 結 果
- ◇ 対象背景
男性では,年齢が高いほうが飲酒未経験者・禁酒者の割合が高く,若年層では飲酒量が多い傾向がみられた。結婚している人よりしていない人,および身体活動度が高い人より低い人で,飲酒未経験者・禁酒者・多量飲酒者が多かった。18.5~24.9 kg/m2の人にくらべ,BMI 25 kg/m2以上の人では禁酒者・少量飲酒者が多く,BMI 18.4 kg/m2以下の人では飲酒未経験者,少量飲酒者の割合が高かった。また,収縮期血圧,拡張期血圧,HDL-Cは飲酒量と相関傾向,LDL-Cは逆相関傾向を示した。
女性では,高齢層より若年層,教育年数の短い人より長い人,身体活動度の高い人より低い人で飲酒者の割合が高かった。非飲酒者の収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール,LDL-Cは飲酒者よりも高かった。
◇ 飲酒と死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは637人(男性397人,女性240人)。
癌による死亡は男性の43.1 %,女性の43.8 %を占めていた。心血管疾患による死亡はそれぞれ14.1 %,18.8 %。
飲酒状況ごとの全死亡の相対危険度(多変量調整)は以下のとおりで,男性の多量飲酒者において有意な死亡リスク上昇がみとめられた。少量~中程度飲酒者では相対危険度が低い傾向がみられた。
・ 男性
飲酒未経験者: 1 (対照)
禁酒者: 1.18 (95 %信頼区間0.71-1.96)
少量飲酒者: 0.95 (0.72-1.26)
中程度飲酒者: 0.91 (0.69-1.19)
多量飲酒者: 1.67 (1.10-2.55)
・ 女性
飲酒未経験者: 1 (対照)
禁酒者: 0.97 (0.30-3.07)
飲酒者: 1.23 (0.90-1.69)
ベースライン時の喫煙の有無により層別化して検討を行った結果,非喫煙者の男性では,禁酒者における有意な全死亡リスクの上昇がみとめられた(ハザード比1.88,95 %信頼区間1.02-3.45)。一方,喫煙者の男性では,多量飲酒者における有意な全死亡リスクの上昇がみとめられた(2.13,1.32-3.43)。
女性では非喫煙者が92 %を占めており,飲酒状況と全死亡との関連に対する喫煙の影響はみとめられなかった。
◇ 結論
アルコール摂取状況と全死亡リスクとの関連を検討するため,日本人一般住民を対象とした前向き追跡研究を行った。その結果,男性では飲酒未経験者にくらべて多量飲酒者の全死亡リスクが有意に増加している一方で,少量~中程度飲酒者のリスクがわずかに低く,J字型の傾向がみとめられた。