[2009年文献] 10年間の脳卒中発症率を予測できるリスクチャート
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータをもとに,個人の危険因子の保有状況(年齢,性別,喫煙の有無,糖尿病の有無,収縮期血圧)から全脳卒中,脳内出血,脳梗塞発症の絶対リスクを予測できるチャートを作成した。臨床医やその他の医療従事者が個人の脳卒中リスクを評価する際に有用と考えられる。ただし,研究の対象者はおもに農村部の一般住民であるため,都市部住民に適用する際には注意が必要である。
Ishikawa S, et al.; Jichi Medical School (JMS) Cohort Study Group. Risk charts illustrating the 10-year risk of stroke among residents of Japanese rural communities: the JMS Cohort Study. J Epidemiol. 2009; 19: 101-6.
- コホート
- JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992~1995年にベースライン健診を受けた12490人のうち,研究への参加を拒否した95人,追跡データのない7人,脳卒中の既往のある112人などを除いた11223人(男性4406人,女性6817人)を平均10.7年間追跡。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は男性55.2歳,女性55.3歳,収縮期血圧は131.3 mmHg,128.0 mmHg,喫煙率は50.4%,5.5%,糖尿病有病率は4.5%,2.2%。
◇ 脳卒中発症率を予測するリスクチャートの作成
追跡期間中に脳卒中を発症したのは男性190人,女性165人であった。
男性における内訳は,脳内出血21.6%,脳梗塞71.6%,くも膜下出血6.8%,病型不明0%で,女性ではそれぞれ23.0%,52.7%,23.6%,0.6%であった。
5つの既知の危険因子の保有状況(年齢,性別,喫煙の有無,糖尿病の有無,収縮期血圧)をもとに,10年間の脳卒中の発症率を5段階(1%未満/1%以上5%未満/5%以上10%未満/10%以上20%未満/20%以上)で予測するリスクチャートを作成した。リスクチャートは3つに分かれており,それぞれ全脳卒中,脳内出血,脳梗塞の発症率を評価できる。
たとえば,66歳の喫煙者の男性で収縮期血圧が145 mmHg,糖尿病はない場合,予測される10年間の全脳卒中発症率は10%以上20%未満,脳内出血発症率は1%以上5%未満,脳梗塞発症率は10%以上20%未満となる。
全体に,収縮期血圧または年齢が高くなるほど予測発症率は高くなっていた。
また,全脳卒中と脳梗塞については,喫煙者と糖尿病有病者で予測発症率が高くなっていた。
脳内出血の予測発症率は脳梗塞にくらべて低かったが,男性では脳梗塞のリスクチャートと似たパターンを示していた。
なお,Cox比例ハザードモデルにははじめ総コレステロールを含めていたが,男女とも脳卒中との有意な関連がみられなかったため,解析から除外した。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータをもとに,個人の危険因子の保有状況(年齢,性別,喫煙の有無,糖尿病の有無,収縮期血圧)から全脳卒中,脳内出血,脳梗塞発症の絶対リスクを予測できるチャートを作成した。臨床医やその他の医療従事者が個人の脳卒中リスクを評価する際に有用と考えられる。ただし,研究の対象者はおもに農村部の一般住民であるため,都市部住民に適用する際には注意が必要である。