[2018年文献] 脂質異常症の人では軽度ST-T異常所見が脳卒中発症リスクと関連

日常診療や健診でみられる軽度のST-T異常(平坦またはやや陰性のT波を伴う0.1 mV未満のST低下)が脳卒中発症リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした多施設前向きコホート研究による検討を行った。ベースライン健診での軽度ST-T異常の保有率は約10%で,平均128.7か月の追跡の結果,軽度ST-T異常のある人では脳卒中発症リスクが有意に高くなっていたが,この関連は,血圧や脂質異常症などの心血管危険因子を含む多変量調整を行うと有意ではなくなった。層別解析を行った結果,脂質異常症のある人では,心血管危険因子や心電図上の左室肥大所見で調整後も,軽度ST-T異常と脳卒中発症リスクとの独立した有意な関連がみとめられた。以上の結果より,脂質異常症の人における軽度ST-T異常所見には注意したほうがよい可能性がある。

Ishikawa J, et al. Minor Electrocardiographic ST-T Change and Risk of Stroke in the General Japanese Population. Circ J. 2018; 82: 1797-1804.pubmed

コホート
JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992年4月~1995年7月にベースライン健診を受けた12490人のうち,心電図データのない1285人,ペースメーカを植え込んでいる7人,心房細動の57人,高度房室ブロックの1人,完全房室ブロックの1人,右胸心の2人,完全左脚ブロックの20人,完全右脚ブロックの196人,補正QT(QTc)時間が得られなかった27人,心拍数>150拍/分の1人,データに不備のある5人,追跡データのない84人,Cornell積のデータのない7人,脳卒中既往のある104人,心筋梗塞既往のある50人,およびST-T部分のデータが明瞭ではなかった1人を除いた10642人を平均128.7か月間追跡(11万4132人・年)。

ST-T異常(重度[major]または軽度[minor])の診断は,過去の報告(J Hypertens. 2004; 22: 407-14. pubmed)で用いられた基準に基づいて行った。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢55.4歳,男性37.6%,BMI 23.1 kg/m2,喫煙率22.5%,習慣的な飲酒率31.9%,血圧129.4 / 77.5 mmHg,高血圧33.9%,糖尿病3.6%,脂質異常症(総コレステロール>220 mg/dL,トリグリセリド>150 mg/dLまたは脂質低下薬服用)35.9%。

重度ST-T異常がみられた人の割合は0.5%(男性0.6%,女性0.5%)で,軽度ST-T異常がみられたのは10.7%(男性5.4%,女性13.7%)であった。
重度または軽度のST-T異常のある人では,ない人にくらべて年齢,血圧,高血圧の割合,降圧薬服用率,糖尿病の割合,脂質異常症の割合,心電図上の左室肥大所見の割合が高かった。

◇ ST-T異常に関連する因子
多変量解析を用いてST-T異常に関連する因子を検討した。
年齢,収縮期血圧および降圧薬服用は,軽度ST-T異常と重度ST-T異常のどちらとも有意な正の関連を示した。
また,軽度ST-T異常のみと有意な正の関連を示していたのは女性および脂質異常症で,重度ST-T異常のみと有意な正の関連を示していたのは喫煙であった。

◇ ST-T異常と脳卒中発症率
追跡期間中の脳卒中の発症は375件で,うち脳内出血が85件,虚血性脳卒中が242件,くも膜下出血が47件,病型不明が1件であった。

Kaplan-Meier解析における脳卒中の10年累積発症率は,異常なし2.6%,軽度ST-T異常5.6%,重度ST-T異常21.4%であった(P<0.001)。

◇ ST-T異常と脳卒中発症リスク
調整なしのモデルでは,軽度ST-T異常および重度ST-T異常の人における全脳卒中,脳内出血および虚血性脳卒中の発症のハザード比(vs. 異常なし)はいずれも有意に高かったが,多変量調整を行うと,軽度ST-T異常は虚血性脳卒中のリスクと,重度ST-T異常は全脳卒中および虚血性脳卒中のリスクと,それぞれ独立した有意な関連を示した(年齢,性,BMI,収縮期血圧,糖尿病,脂質異常症および喫煙で調整)。
この結果は,さらにCornell積でみた左室肥大[244 mV・ms以上]で調整しても変わらなかった。

・全脳卒中
  軽度ST-T異常: 1.32(95%信頼区間0.97-1.78),P=0.078
  重度ST-T異常: 3.07(1.55-6.06),P=0.001

・脳内出血
  軽度ST-T異常: 1.28(0.66-2.47),P=0.459
  重度ST-T異常: 3.34(0.78-14.29),P=0.103

・虚血性脳卒中
  軽度ST-T異常: 1.47(1.01-2.14),P=0.042
  重度ST-T異常: 4.04(1.85-8.82),P<0.001

◇ 層別解析
ST-T異常と脳卒中発症リスクとの関連について,年齢(65歳未満/以上),性,BMI(25 kg/m2未満/以上),喫煙,飲酒,高血圧の有無,糖尿病の有無および脂質異常症の有無による層別解析を行った。
その結果,軽度ST-T異常と脳卒中発症リスクとの関連について,有意な相互作用を示していたのは脂質異常症で(P for interaction=0.016),軽度ST-T異常における脳卒中発症の多変量調整ハザード比は脂質異常症のある人では1.75(95%信頼区間1.15-2.67,vs. 異常なし)と有意に高かったが,ない人では1.01(0.64-1.59)であった(年齢,性,BMI,収縮期血圧,糖尿病,喫煙,およびCornell積でみた左室肥大で調整)。
一方,重度ST-T異常と脳卒中発症リスクとの関連について,有意な相互作用のみられた項目はなかった。


◇ 結論
日常診療や健診でみられる軽度のST-T異常(平坦またはやや陰性のT波を伴う0.1 mV未満のST低下)が脳卒中発症リスクと関連するかどうかについて,日本人一般住民を対象とした多施設前向きコホート研究による検討を行った。ベースライン健診での軽度ST-T異常の保有率は約10%で,平均128.7か月の追跡の結果,軽度ST-T異常のある人では脳卒中発症リスクが有意に高くなっていたが,この関連は,血圧や脂質異常症などの心血管危険因子を含む多変量調整を行うと有意ではなくなった。層別解析を行った結果,脂質異常症のある人では,心血管危険因子や心電図上の左室肥大所見で調整後も,軽度ST-T異常と脳卒中発症リスクとの独立した有意な関連がみとめられた。以上の結果より,脂質異常症の人における軽度ST-T異常所見には注意したほうがよい可能性がある。


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