[2008年文献] 都市部男性の正常高値血圧は,心血管疾患の危険因子
正常血圧と正常高値血圧における心血管疾患リスクを比較するために,都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の追跡研究を行った。男性の正常高値血圧は,心血管疾患,心筋梗塞,および脳卒中リスクとの有意な関連を示した。また男性では,全心血管疾患の発症のうち,前高血圧の寄与度が約2割を占めていた。
Kokubo Y, et al. Impact of high-normal blood pressure on the risk of cardiovascular disease in a Japanese urban cohort: the Suita study. Hypertension. 2008; 52: 652-9.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病センターで定期健診(隔年)を受診した30~79歳の6485人のうち,心血管疾患既往のある208人,データに不備のある170人,1994年4月以降に健診を受診した79人,追跡不能となった534人を除いた5494人を平均11.7年間追跡。
血圧の分類は,ESH-ESC2007ガイドラインの基準にしたがった。
至適血圧(男性803人,女性1240人): 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
正常血圧(502人,504人): SBP 120~129 mmHgあるいはDBP 80~84 mmHg
正常高値血圧(463人,465人): SBP 130~139 mmHgあるいはDBP 85~89 mmHg
ステージ1高血圧(516人,457人): SBP 140~159 mmHgあるいはDBP 90~99 mmHg
ステージ2+3高血圧*(286人,258人): SBP≧160 mmHgあるいはDBP≧100 mmHg
*ステージ3高血圧の人数が少なかったため,ステージ2とあわせて解析を実施。
高脂血症の定義は,総コレステロール220 mg/dL以上または抗高脂血症薬服用とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
血圧カテゴリーとの有意な関連を示していたのは,年齢,総コレステロール,HDL-C(女性のみ),BMI,降圧薬服用,高脂血症有病率,糖尿病有病率,喫煙率,飲酒率。
脳卒中を発症したのは213人(うち脳梗塞141人,脳出血32人,くも膜下出血22人,病型不明18人),心筋梗塞(MI)を発症したのは133人(確診が64人,心筋梗塞の可能性または心突然死が69人)。
◇ 血圧レベルと心血管疾患(CVD)リスク
各血圧カテゴリーにおけるCVDのハザード比(多変量調整)は以下のとおりとなった。
至適血圧: 1 (対照)
正常血圧: 1.62 (95 %信頼区間1.08-2.43)
正常高値血圧: 2.08 (1.42-3.05)
ステージ1高血圧: 2.06 (1.42-2.98)
ステージ2+3高血圧: 3.53 (2.43-5.13)
男女別の解析の結果は以下のとおりで,それぞれMIと脳卒中に関しても同様の結果が得られた。
・ 男性
至適血圧: 1 (対照)
正常血圧: 2.04 (1.19-3.48)
正常高値血圧: 2.46 (1.46-4.14)
ステージ1高血圧: 2.62 (1.59-4.32)
ステージ2+3高血圧: 3.95 (2.37-6.58)
・ 女性
至適血圧: 1 (対照)
正常血圧: 1.12 (0.59-2.13)
正常高値血圧: 1.54 (0.85-2.78)
ステージ1高血圧: 1.35 (0.75-2.43)
ステージ2+3高血圧: 2.86 (1.60-5.12)
さらに,降圧薬服用者をすべて高血圧カテゴリーに分類し,至適血圧,正常血圧,正常高値血圧,高血圧の4カテゴリーについての解析を行った。
男性では,正常高値血圧(降圧薬非服用)カテゴリーにおけるCVD,MI,脳卒中のハザード比の有意な上昇(vs. 至適血圧)がみとめられた。ただし,正常高値血圧(降圧薬非服用)カテゴリーのハザード比は,降圧薬服用者を含む正常高値血圧カテゴリーを用いた先の解析でのハザード比よりもやや小さくなった。
女性では有意なハザード比の上昇はみとめられなかった。
◇ CVD発症に対する前高血圧の寄与度
各カテゴリーでのCVDリスクへの血圧の寄与度を推定した結果は以下のとおりで,CVDリスクのうち,前高血圧(正常血圧+正常高値血圧)の寄与度は男性で20.5 %,女性で8.4 %と考えられた。
・ 男性
至適血圧: 0 (対照),正常血圧: 8.3 %,正常高値血圧: 12.2 %,ステージ1高血圧: 16.8 %,ステージ2+3高血圧: 18.5 %
・ 女性
至適血圧: 0 (対照),正常血圧: 1.3 %,正常高値血圧: 7.1 %,ステージ1高血圧: 5.4 %,ステージ2+3高血圧: 18.0%
◇ 結論
正常血圧と正常高値血圧における心血管疾患リスクを比較するために,都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の追跡研究を行った。男性の正常高値血圧は,心血管疾患,心筋梗塞,および脳卒中リスクとの有意な関連を示した。また男性では,全心血管疾患の発症のうち,前高血圧の寄与度が約2割を占めていた。