[2009年文献] CKDを有する人では,血圧と心血管疾患リスクとの関連が強い
都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の前向き追跡研究において,慢性腎臓病(CKD)の有無によって血圧カテゴリーと心血管疾患発症リスクとの関連が異なるかどうかを検討した。その結果,CKDは心血管疾患,全脳卒中,脳梗塞,および心筋梗塞の有意な危険因子であり,CKD有病者では非CKDよりも血圧と心血管疾患リスクとの関連が強い傾向がみられた。男性では心血管疾患発症の8.3 %,女性では17.6 %がCKDの寄与によるものであることが示された。
Kokubo Y, et al. Relationship between blood pressure category and incidence of stroke and myocardial infarction in an urban Japanese population with and without chronic kidney disease: the Suita Study. Stroke. 2009; 40: 2674-9.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病センターで定期健診(隔年)を受診した30~79歳の6,485人のうち,心血管疾患既往のある208人,データに不備のある170人,1994年4月以降に健診を受診した79人,追跡不能となった534人を除いた5,494人を平均11.7年間追跡。
血圧カテゴリーの分類は,ESH-ESC2007ガイドラインの基準にしたがった。
至適血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
正常血圧: SBP 120~129 mmHgあるいはDBP 80~84 mmHg
正常高値血圧: SBP 130~139 mmHgあるいはDBP 85~89 mmHg
高血圧: SBP 140 mmHg以上あるいはDBP 90 mmHg以上
CKDの定義は,日本人向けの係数を用いたMDRD式(Clin Exp Nephrol. 2007; 11: 41-50. )により算出した推算糸球体濾過量(glomerular filtration rate: GFR)が60 mL/分/1.73 m2未満とした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
慢性腎臓病(CKD)の有病率は,男性8.9 %,女性11.3 %。
CKDの有病率は,性別を問わず,年齢とともに上昇していた。
CKD有病者では,非CKDにくらべて年齢が高く,高血圧および高脂血症の割合が高く,飲酒率が低かった。
◇ 腎機能と心血管疾患リスク
脳卒中を発症したのは213人,心筋梗塞を発症したのは133人。
CKD有病者の心血管疾患発症の多変量調整ハザード比は1.70(95 %信頼区間1.30-2.23,vs. 非CKD)だった。
腎機能ごとの心血管疾患(脳卒中+心筋梗塞)発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりとなった(それぞれGFR≧90 mL/分/1.73 m2,60~89 mL/分/1.73 m2,50~59 mL/分/1.73 m2,<50 mL/分/1.73 m2のハザード比[95 %信頼区間]の値)。
・ 全体: 1(対照),1.21(0.93-1.58),1.75(1.22-2.50),2.48(1.56-3.94) [P for trend<0.001]
・ 男性: 1(対照),1.21(0.85-1.70),1.78(1.08-2.94),2.38(1.21-4.68) [P for trend=0.004]
・ 女性: 1(対照),1.21(0.80-1.84),1.76(1.05-2.93),2.31(1.20-4.33) [P for trend=0.002]
心血管疾患の内訳をみると,全脳卒中,脳梗塞,および心筋梗塞発症ではそれぞれ以下のとおりとなった。
・ 全脳卒中: 1(対照),1.04(0.74-1.45),1.94(1.26-2.98),2.19(1.18-4.06) [P for trend<0.001]
・ 脳梗塞: 1(対照),0.98(0.65-1.49),1.81(1.07-3.07),2.26(1.07-4.78) [P for trend=0.008]
・ 心筋梗塞: 1(対照),1.60(1.03-2.49),1.51(0.80-2.88),3.56(1.73-7.30) [P for trend=0.002]
◇ CKDの有無が血圧カテゴリーと心血管疾患リスクとの関連に及ぼす影響
CKD有病者,および非CKDのそれぞれについて,血圧カテゴリーごとに心血管疾患リスクとの関連を検討した。
その結果,CKDの有無にかかわらず,心血管疾患リスクは血圧カテゴリーとともに増加していたが,いずれのカテゴリーにおいても, CKD有病者のほうが非CKDよりも高いリスクを有していた(CKDと血圧との相互作用のP値: 男性0.04,女性0.49,全体で0.06)。
この結果は全脳卒中リスクについても同様であった。
CKDの心血管疾患発症に対する人口寄与危険度割合(population attributable fraction: PAF)を算出した結果,男性では心血管疾患発症の8.3 %,女性では17.6 %がCKDの寄与によるものであることが示された。
◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の前向き追跡研究において,慢性腎臓病(CKD)の有無によって血圧カテゴリーと心血管疾患発症リスクとの関連が異なるかどうかを検討した。その結果,CKDは心血管疾患,全脳卒中,脳梗塞,および心筋梗塞の有意な危険因子であり,CKD有病者では非CKDよりも血圧と心血管疾患リスクとの関連が強い傾向がみられた。男性では心血管疾患発症の8.3 %,女性では17.6 %がCKDの寄与によるものであることが示された。