[2009年文献] 喫煙の心血管疾患発症への人口寄与割合(PAF)は,MetSよりも大きい
都市部の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,「喫煙とメタボリックシンドローム(MetS)という2つの因子をあわせもつ人では心血管疾患(CVD)発症リスクがより高くなる」「喫煙率の高い日本人男性では,CVD発症に対し,MetSよりも喫煙のほうが高い人口寄与割合を示す」という仮説を検討した。その結果,MetSによるCVD発症リスクと喫煙によるCVD発症リスクはほぼ同等であり,MetSと喫煙の2つの因子をあわせもつ人ではさらにリスクが高くなっていた。また,男性において,喫煙単独によるCVD発症の人口寄与割合は21.8 %と,MetS単独による人口寄与割合(7.5 %)を大きく上回っていた。以上の結果より,CVD予防の観点から,MetSだけでなく,喫煙についても公衆衛生学上の重要な課題として引き続き対策を行っていく必要があると考えられた。
Higashiyama A, et al. Risk of smoking and metabolic syndrome for incidence of cardiovascular disease--comparison of relative contribution in urban Japanese population: the Suita study. Circ J. 2009; 73: 2258-63.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年2月に国立循環器病研究センター(2010年春,国立循環器病研究センターに改組)で定期健診を受診した40~74歳の4,285人のうち,心筋梗塞または脳卒中既往のある127人,非空腹時に受診した155人,ベースラインの情報に不備がある,または追跡不能となった92人を除いた3,911人(男性1,822人,女性2,089人)を平均11.9年間追跡。
メタボリックシンドロームについては,NCEP-ATP III基準に基づき,以下のうち3つ以上の構成因子をもつ場合に有病とした。
- 肥満: 腹囲が男性90 cm以上,女性80 cm以上
- 高トリグリセリド血症: 150 mg/dL以上
- 低HDL-C血症: 男性40 mg/dL未満,女性50 mg/dL未満
- 血圧高値: 130 / 85 mmHg以上または降圧薬服用
- 血糖高値: 空腹時血糖値110 mg/dL以上またはインスリン/経口糖尿病薬服用
- 結 果
- ◇ 対象背景
ベースラインの喫煙率は,男性49.5 %(901人),女性11.1 %(232人)だった。
ベースラインのメタボリックシンドローム(MetS)の有病率は,男性19.8 %(360人),女性23.5 %(491人)だった。
男女別に喫煙およびMetSの有無により4群(MetS・喫煙,MetS・非喫煙,非MetS・喫煙,非MetS・非喫煙)に分けて対象背景を比較したところ,性別を問わず,男性のアルコール摂取率を除くすべての項目(年齢,腹部肥満,高血圧,コレステロール値,疾患治療歴など)について有意な群間差がみとめられた。
◇ 喫煙と心血管疾患(CVD)リスク
心筋梗塞の発症は42人,脳卒中の発症は111人だった。
・ 男性
喫煙状況ごとのCVD(心筋梗塞+脳卒中)発症ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
喫煙未経験者: 1.00 (対照)
禁煙者: 1.34 (0.67-2.69)
喫煙者(1日20本以下): 2.65 (1.35-5.21)
喫煙者(1日20本超): 2.31 (1.06-5.05)
喫煙者では喫煙未経験者にくらべてCVD発症リスクが2倍以上と有意に高くなっており,疾患(全脳卒中,脳梗塞,心筋梗塞)別に検討しても同様の傾向がみとめられた。
・ 女性
喫煙状況ごとのCVD発症ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
喫煙未経験者: 1.00 (対照)
禁煙者: 発症者なし
喫煙者(1日20本以下): 2.70 (1.34-5.45)
喫煙者(1日20本超): 2.80 (0.36-21.55)
喫煙者では喫煙未経験者にくらべてCVD発症リスクが3倍近く高くなっていたが,1日20本超の喫煙者では数が少なく有意差はみられなかった。
疾患(全脳卒中,脳梗塞,心筋梗塞)別に検討しても同様の傾向がみとめられ,とくに心筋梗塞については喫煙者のリスクが8.35倍(2.64-26.48)と顕著に高くなっていた。
◇ 喫煙およびMetSと心血管疾患(CVD)リスク
ベースライン時のMetSおよび喫煙の有無ごとにCVD発症の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間),および人口寄与割合(population attributable fraction: PAF)を男女別に検討した結果は以下のとおり。
・男性
非喫煙・非MetS
1.00(対照)喫煙・非MetS
2.07(1.26-3.40)
PAF 21.8 %非喫煙・MetS
2.09(1.08-4.04)
PAF 7.5 %喫煙・MetS
3.56(1.89-6.72)
PAF 11.9 %
喫煙単独によるCVD発症のPAFは,MetS単独によるPAFを大きく上回っていた。
・女性
非喫煙・非MetS
1.00(対照)喫煙・非MetS
2.67(1.07-6.65)
PAF 6.7 %非喫煙・MetS
2.33(1.25-4.34)
PAF 22.4 %喫煙・MetS
4.84(1.81-12.97)
PAF 7.1 %
◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,「喫煙とメタボリックシンドローム(MetS)という2つの因子をあわせもつ人では心血管疾患(CVD)発症リスクがより高くなる」「喫煙率の高い日本人男性では,CVD発症に対し,MetSよりも喫煙のほうが高い人口寄与割合を示す」という仮説を検討した。その結果,MetSによるCVD発症リスクと喫煙によるCVD発症リスクはほぼ同等であり,MetSと喫煙の2つの因子をあわせもつ人ではさらにリスクが高くなっていた。また,男性において,喫煙単独によるCVD発症の人口寄与割合は21.8 %と,MetS単独による人口寄与割合(7.5 %)を大きく上回っていた。以上の結果より,CVD予防の観点から,MetSだけでなく,喫煙についても公衆衛生学上の重要な課題として引き続き対策を行っていく必要があると考えられた。