[2010年文献] HbA1c(NGSP値)は大血管合併症リスクの予測に有用
都市部の日本人一般住民を対象とした12年間のコホート研究において,新しい糖尿病診断基準におけるHbA1c値と心血管疾患リスクとの関連を検討した(HbA1c値は,これまで日本で用いられてきたJDS値をNGSP値に換算したものを用いた)。その結果,HbA1c(NGSP値)は心血管疾患,脳卒中,虚血性脳卒中の発症リスクと有意に関連しており,とくにHbA1c(NGSP値)≧6.5 %の人でリスクが顕著に高くなっていた。以上の結果より,新しい糖尿病診断基準が日本人の大血管合併症リスクの予測に有用であることが示唆された。
Watanabe M, et al. New diagnosis criteria for diabetes with hemoglobin A1c and risks of macro-vascular complications in an urban Japanese cohort: the Suita study. Diabetes Res Clin Pract. 2010; 88: e20-3.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病センターで定期健診を受診した30~79歳の健常な男女1,607人(男性764人,女性843人,平均年齢51.2歳)。心筋梗塞(MI)/脳卒中の既往のある人は除いた。
HbA1c値を1990年6月~1991年2月に測定し,2005年12月まで追跡(平均12.7年間)。
HbA1c値はすべて,日本の測定値(Japan Diabetes Society[JDS]値)からNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値に換算したうえで検討を行った。
JDS値からInternational Federation of Clinical Chemistry(IFCC)値,さらにIFCC値からFGSP値への換算式は以下のとおり。
IFCC値(mmol/mol)=10.39×JDS値(%)-16.8
NGSP値(%)=0.0981×IFCC値(mmol/mol)+1.95
新しい糖尿病診断基準におけるHbA1c(NGSP値)を用い,全体を以下の3つのカテゴリーに分けて解析した。
≦5.9 %: 1,451人
6.0~6.4 %: 108人
≧6.5 %: 48人 - 結 果
- ◇ 対象背景
BMI 22.5 kg/m2,HbA1c 5.3 %,高血圧25.8 %,高脂血症38.9 %,糖尿病薬使用0.9 %,喫煙状況(喫煙未経験者54.8 %,禁煙者12.6 %,喫煙者32.6 %),飲酒状況(飲酒未経験者42.3 %,禁酒者 1.4 %,飲酒者 56.3 %)。
追跡期間中における心血管疾患(CVD)発症は70人。うち心筋梗塞(MI)発症は24人,脳卒中発症は44人(出血性脳卒中19人,虚血性脳卒中22人,病型不明3人),突然死は2人。
◇ HbA1cとCVD発症との関連
HbA1cが高くなるにつれ,全CVD発症,全脳卒中,および脳梗塞発症リスクが有意に増加したが,MI発症リスクの増加は有意ではなかった。
各カテゴリーにおける多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 全CVD
≦5.9 %: 1(対照)
6.0~6.4 %: 1.2(0.6-2.5)
≧6.5 %: 3.0(1.2-7.4)
(P for trend=0.04)
・ 全脳卒中
≦5.9 %: 1(対照)
6.0~6.4 %: 1.5(0.7-3.6)
≧6.5 %: 3.4(1.1-10.8)
(P for trend=0.03)
・ 虚血性脳卒中
≦5.9 %: 1(対照)
6.0~6.4 %: 1.6(0.5-4.9)
≧6.5 %: 6.4(1.4-30.4)
(P for trend=0.03)
・ MI
≦5.9 %: 1(対照)
6.0~6.4 %: 0.8(0.2-3.3)
≧6.5 %: 2.5(0.5-11.6)
(P for trend=0.48)
◇結論
都市部の日本人一般住民を対象とした12年間のコホート研究において,新しい糖尿病診断基準におけるHbA1c値と心血管疾患リスクとの関連を検討した(HbA1c値は,これまで日本で用いられてきたJDS値をNGSP値に換算したものを用いた)。その結果,HbA1c(NGSP値)は心血管疾患,脳卒中,虚血性脳卒中の発症リスクと有意に関連しており,とくにHbA1c(NGSP値)≧6.5 %の人でリスクが顕著に高くなっていた。以上の結果より,新しい糖尿病診断基準が日本人の大血管合併症リスクの予測に有用であることが示唆された。