Turin TC, et al. Lifetime Risk of Stroke in Japan. Stroke. 2010; 41: 1552-4.

コホート

吹田市民から無作為に抽出され，1989年～1994年に国立循環器病センター（大阪）で定期健診を受診した30～79歳の6485人のうち，心血管疾患の既往のある208人，追跡不能の779人を除いた5498人（男性2571人，女性2927人）を対象とし，脳卒中発症，死亡，あるいは2005年12月31日のいずれかまで追跡を行った（観察は67475人・年）。

脳卒中の発症について，男女別に設定した8段階のindex age（45歳，55歳，65歳，75歳）ごとに，短期間～中期間リスク（10年，20年，30年，40年）および生涯リスク^*を算出した。
^*生涯リスク（lifetime risk: LTR）とは，ある時点の年齢から死亡するまでに疾患を発症する確率を示す疫学的な指標。死亡による競合リスクも考慮して算出されている。

結　果

追跡期間中の脳卒中の発症率（10万人・年あたり）は，男性392.8，女性253.6であった。

◇　脳卒中発症の10～40年リスク，および生涯リスク
全脳卒中発症リスクは，評価期間の延長とともに段階的に増加した。これは，脳卒中のどの病型でも同様であった。
脳梗塞のLTRは脳出血のLTRよりも高くなっており，これは性別や年代を問わず同様であった。

index ageごとに算出した脳卒中，脳梗塞，脳出血およびくも膜下出血発症の10年，20年，30年，40年リスク，および生涯リスク（LTR）は以下のとおり（死亡による競合リスクを考慮）。

（1）全脳卒中
　・男性
　　45歳：10年リスク0.65％，20年リスク3.15％，30年リスク7.90％，40年リスク14.42％，LTR 18.93％
　　55歳：2.50％，7.26％，13.77％，－，18.28％
　　65歳：4.76％，11.27％，－，－，15.70％
　　75歳：6.51％，－，－，－，11.02％

　・女性
　　45歳：0.61％，2.05％，4.43％，11.55％，20.18％
　　55歳：1.44％，3.82％，10.94％，－，19.57％
　　65歳：2.38％，9.50％，－，－，18.13％
　　75歳：7.12％，－，－，－，15.75％

（2）脳梗塞
　・男性
　　45歳：0.32％，2.34％，5.36％，10.54％，14.95％
　　55歳：2.03％，5.04％，10.22％，－，14.63％
　　65歳：3.02％，8.19％，－，－，12.61％
　　75歳：5.18％，－，－，－，9.59％

　・女性
　　45歳：0.12％，0.63％，1.81％，7.01％，15.60％
　　55歳：0.51％，1.70％，6.90％，－，15.48％
　　65歳：1.18％，6.38％，－，－，14.97％
　　75歳：5.20％，－，－，－，13.79％

（3）脳出血
　・男性
　　45歳：0.00％，0.36％，1.58％，2.42％，2.42％
　　55歳：0.36％，1.58％，2.42％，－，2.42％
　　65歳：1.22％，2.05％，－，－，2.05％
　　75歳：0.84％，－，－，－，0.84％

　・女性
　　45歳：0.24％，0.56％，1.09％，1.64％，1.64％
　　55歳：0.31％，0.85％，1.39％，－，1.39％
　　65歳：0.53％，1.08％，－，－，1.08％
　　75歳：0.54％，－，－，－，0.54％

（4）くも膜下出血
　・男性
　　45歳：0.17％，0.17％，0.51％，0.71％，0.71％
　　55歳：0.00％，0.34％，0.54％，－，0.54％
　　65歳：0.34％，0.54％，－，－，0.54％
　　75歳：0.20％，－，－，－，0.20％

　・女性
　　45歳：0.25％，0.77％，1.38％，1.93％，2.58％
　　55歳：0.51％，1.13％，1.67％，－，2.33％
　　65歳：0.62％，1.16％，－，－，1.81％
　　75歳：0.54％，－，－，－，1.19％


◇　結論
欧米人以外のコホートにおいて，長期，および生涯の脳卒中発症リスクを評価したはじめての研究である。中年世代の脳卒中発症リスクはいまだ高く，男女とも約5人に1人が脳卒中を発症するリスクを有することが示された。また，脳出血にくらべて脳梗塞のリスクのほうが高かった。今回の研究で得られた脳卒中発症の生涯リスクの値は，欧米の Framingham Heart StudyやRotterdam Studyで得られた結果と同等であった。