[2010年文献] LOX index高値は冠動脈疾患リスク増加と,低値は脳梗塞リスク低下と関連する
都市部の日本人一般住民を対象とした11年間のコホート研究において,新規生化学マーカーであるLOX index(動脈硬化の進展に寄与するとされる酸化LDLに結合する受容体の活性化の度合いを評価する指標)と冠動脈疾患(CHD)および脳卒中との関連を検討した。その結果,LOX index高値はCHD発症リスクと有意に関連していた。一方,LOX index低値は脳梗塞発症リスク低下と関連しており,脳梗塞発症に対し予防的に働く可能性が示唆された。
Inoue N, et al. LOX index, a novel predictive biochemical marker for coronary heart disease and stroke. Clin Chem. 2010; 56: 550-8.
- コホート
- 1989年に吹田市民から無作為に抽出され,1994年4月~1995年2月に定期健診を受診した30~79歳の男女2,437人のうち,冠動脈疾患(CHD)/脳卒中既往のある94人,追跡不能の17人,データがない31人を除いた2,295人(男性1,094人,女性1,201人)を平均11年間追跡(2007年12月31日まで)。
◇ レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)
動脈硬化の進展に寄与するとされる酸化LDLに結合する受容体。これまでに,血中の酸化LDL増加によって血管内皮細胞に存在するLOX-1が活性化されると,内皮機能障害が起こることが示されている。
この研究では,以下のように定義したLOX indexを指標としてLOX-1の活性化の度合いを評価し,CHDおよび脳卒中との関連を検討した。
LOX index = (アポリポ蛋白質B含有のLOX-1リガンド[LAB]) × (可溶性LOX-1[sLOX-1])
LAB,sLOX-1,およびLOX indexにより,全体をそれぞれ以下のように四分位に分けて検討を行った。
・ LAB(μg/L)
Q1: 21~349,Q2: 350~644,Q3: 649~1128,Q4: 1133~6379
・ sLOX-1(ng/L)
Q1: 85~754,Q2: 755~1085,Q3: 1084~1534,Q4: 1540~9874
・ LOX index(×106)
Q1: 0.017~0.363 ,Q2: 0.364~0.7040,Q3: 0.7043~1.314,Q4: 1.315~44.22 - 結 果
- ◇対象背景
アポリポ蛋白質B含有のレクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)リガンド(LAB)の四分位ごとの比較では,男女ともに値がもっとも高いQ4で血清総コレステロールおよびnon-HDL-C値が有意に高かった。一方,可溶性LOX-1(sLOX-1)の四分位ごとの比較では,血清総コレステロールおよびnon-HDL-C値に差はみられなかった。女性では,sLOX-1が高いカテゴリー(Q3,4)では低いカテゴリーの女性(Q1,2)にくらべ,HDL-Cが有意に低かった(P for trend=0.04)。喫煙率はsLOX-1が高いほど有意に高くなったが(P for trend<0.001),LABの値による差はみられなかった。高血圧および糖尿病有病率については,LABまたはsLOX-1の値による有意な差は認められなかった。
追跡期間中の冠動脈疾患(CHD)発症は68人,脳卒中発症は91人(脳梗塞60人)。
◇LABおよびsLOX-1と心血管疾患リスク
LABは,心血管疾患,脳卒中発症リスクとの有意な関連を示していた(それぞれ多変量調整後のP for trend=0.02,0.05)。
sLOX-1では心血管疾患発症リスクとの有意な関連は認められなかった。
◇LOX indexと心血管疾患リスク
LOX indexのカテゴリーごとの心血管疾患の多変量調整オッズ比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 心血管疾患 (P for trend=0.03)
LOX indexがもっとも高い四分位(Q4)でQ1にくらべて2倍近くと高くなっていた。
Q1: 1 (対照)
Q2: 1.48 (0.91-2.41)
Q3: 1.31 (0.80-2.17)
Q4: 1.83 (1.13-2.96)
・ 全脳卒中 (P for trend=0.09)
Q1: 1 (対照)
Q2: 1.44 (0.76-2.71)
Q3: 1.60 (0.85-3.00)
Q4: 1.74 (0.92-3.30)
・ 脳梗塞 (P for trend=0.04)
脳梗塞リスクはQ2~4でQ1にくらべて有意に高くなっており,リスクの増加度は3つのカテゴリーでほぼ同等であった。
Q1: 1 (対照)
Q2: 3.39 (1.34-8.53)
Q3: 3.15 (1.22-8.13)
Q4: 3.23 (1.24-8.37)
・ CHD (P for trend=0.11)
Q1: 1 (対照)
Q2: 1.67 (0.78-3.59)
Q3: 1.02 (0.44-2.35)
Q4: 2.09 (1.00-4.35)
◇結論
都市部の日本人一般住民を対象とした11年間のコホート研究において,新規生化学マーカーであるLOX index(動脈硬化の進展に寄与するとされる酸化LDLに結合する受容体の活性化の度合いを評価する指標)と冠動脈疾患(CHD)および脳卒中との関連を検討した。その結果,LOX index高値はCHD発症リスクと有意に関連していた。一方,LOX index低値は脳梗塞発症リスク低下と関連しており,脳梗塞発症に対し予防的に働く可能性が示唆された。