[2010年文献] 正常高値血圧の人では血糖カテゴリーをとわず,正常血圧の人では空腹時高血糖または糖尿病を合併する場合に心血管疾患発症リスクが上昇
都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の前向きコホート研究において,空腹時血糖値のカテゴリーおよび血圧値のカテゴリーの組み合わせと心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,正常高値血圧の人では,空腹時血糖値のカテゴリーをとわず,CVD発症リスクの有意な増加がみとめられた。また正常血圧の人では,空腹時高血糖または糖尿病をあわせもつ場合にCVDリスクが有意に増加することが示された。糖尿病の人については,さらなる大規模コホートにおける検討が必要と考えられる。
Kokubo Y, et al. The combined impact of blood pressure category and glucose abnormality on the incidence of cardiovascular diseases in a Japanese urban cohort: the Suita Study. Hypertens Res. 2010; 33: 1238-43.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に定期健診を受診した30~79歳の6485人のうち,心血管疾患/既往のある208人,データがない170人,空腹時の採血ではなかった173人,追跡不能の613人を除いた5321人を平均11.7年間追跡(観察は62036人・年)。
空腹時血糖値により,全体を以下の3つのカテゴリーに分けて解析した。
正常域(<100 mg/100 mL): 男性1458人,女性2126人
空腹時高血糖(IFG)(100~125 mg/100 mL): 874人,611人
糖尿病(≧126 mg/100 mL,または糖尿病治療薬を使用): 154人,98人
血圧については,ベースライン時に測定した値により,日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2009』の基準を用いた4つのカテゴリー(至適血圧/正常血圧/正常高値血圧/高血圧)に分けて解析した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
糖尿病の人は,年齢,BMI,高血圧の割合,高脂血症の割合,および降圧薬服用率が高かった。糖尿病の男性は非糖尿病の男性にくらべて飲酒未経験者の割合が低かった。
追跡期間中の心血管疾患(CVD)の発症は364人で,うち脳卒中の発症は198人,冠動脈疾患(CHD)の発症は166人であった。
◇ 空腹時血糖とCVD発症リスク
空腹時血糖が正常域の人に比べ,空腹時高血糖(IFG)の人のCVDの多変量調整*ハザード比(HR)は1.25(95%信頼区間 1.00-1.58),CHDのHRは1.46(1.04-2.04),脳卒中のHRは1.11(0.81-1.52)であった。糖尿病の人のHRはそれぞれ2.13(1.50-3.03),2.28(1.34-3.88),2.08(1.29-3.35)であった。
*年齢,BMI,高血圧,高脂血症,喫煙状況,および飲酒状況により調整
◇ 空腹時血糖+血圧値とCVD発症リスク
空腹時血糖のカテゴリーと血圧のカテゴリーの組み合わせとCVD発症リスクとの関連を検討した結果は以下のとおりで,空腹時血糖と血圧カテゴリーの有意な相互作用がみとめられた(P for interaction=0.046)。
・正常域
正常域+至適血圧の人にくらべ,正常域+正常高値血圧,および正常域+高血圧の人ではCVD発症リスクが有意に高く,また血圧が高いほどリスクが高い有意な傾向がみとめられた(P for trend<0.001)。
・IFG
正常域+至適血圧の人にくらべ,IFG+正常血圧,IFG+正常高値血圧,IFG+高血圧の人ではCVD発症リスクが有意に高く,また血圧が高いほどリスクが高い有意な傾向がみとめられた(P for trend=0.001)。
・糖尿病
血圧カテゴリーを問わず,正常域+至適血圧の人にくらべて,CVD発症リスクが有意に高くなっていた。血圧とリスクの大きさとの有意な関連はみられなかった(P for trend=0.41)。
◇ 空腹時血糖+血圧値と人口寄与危険度(PAF)
空腹時血糖正常域+至適血圧の人を基準としたCVD発症のPAFは,空腹時血糖正常域+正常高値血圧の人で3.7%,IFG+正常血圧または正常高値血圧の人で5.7%,糖尿病+すべての血圧カテゴリーの人で8.2%であった。
◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象とした11.7年間の前向きコホート研究において,空腹時血糖値のカテゴリーおよび血圧値のカテゴリーの組み合わせと心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,正常高値血圧の人では,空腹時血糖値のカテゴリーをとわず,CVD発症リスクの有意な増加がみとめられた。また正常血圧の人では,空腹時高血糖または糖尿病をあわせもつ場合にCVDリスクが有意に増加することが示された。糖尿病の人については,さらなる大規模コホートにおける検討が必要と考えられる。