[2010年文献] 日本人の急性心筋梗塞の生涯リスクは欧米より低い
欧米人以外のコホートにおいて,短期~中期,および生涯の急性心筋梗塞(AMI)発症リスクを評価したはじめての研究である。吹田研究におけるAMIの生涯リスク(LTR)は,50歳の男性で16.1%(中年男性の約6人に1人),女性で11.6%(中年女性の約9人に1人)であり,これは,Framingham研究(心血管疾患のLTR:50歳男性46.9%,50歳女性31.1%)およびPhysicians’ Health 研究(LTR:男性34.5%)にくらべて顕著に低い値であった。
Turin TC, et al. Lifetime risk of acute myocardial infarction in Japan. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2010; 3: 701-3.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年~1994年に定期健診を受診した30~79歳の6485人のうち,心血管疾患の既往のある208人,追跡不能の779人を除いた5498人(男性2571人,女性2927人)を対象とし,急性心筋梗塞(AMI)発症,死亡,吹田市からの転居,あるいは2005年12月31日のいずれかまで追跡した(観察は67475人・年)。
AMI発症について,男女別に設定した8段階のindex age(45歳,50歳,55歳,60歳,65歳,70歳,75歳,80歳)ごとに,短期~中期リスク(10年,20年,30年,40年)および生涯リスク*を算出した。
*生涯リスク(lifetime risk: LTR)とは,ある時点の年齢から死亡するまでに疾患を発症する確率を示す疫学的な指標。死亡によるリスクの競合も考慮して算出されている。 - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢は男性55.8歳,女性54.2歳。
男性の高血圧の割合は37%,糖尿病の割合は6.4%,高脂血症の割合は28.3%,現在喫煙率は46.5%,飲酒者は72%で,女性ではそれぞれ34.1%,4.3%,41.8%,12%,30%であった。
追跡期間中の急性心筋梗塞(AMI)発症は124人。
うち男性は83人(269.5/10万人・年),女性は41人(111.8/10万人・年)であった。
◇ AMI発症の生涯リスク,および短期~中期リスク
AMI発症リスクは,評価期間の延長とともに,段階的に増加した。
index ageごとに算出したAMI発症の生涯リスク(LTR),および10年,20年,30年,40年リスクは以下のとおり。
・男性
45歳:LTR 16.24%,10年リスク0.96%,20年リスク2.77%,30年リスク5.02%,40年リスク9.47%
50歳:16.07%,1.58%,3.44%,6.77%,13.42%
55歳:15.28%,1.81%,4.06%,8.51%,-
60歳:14.48%,1.86%,5.19%,11.84%,-
65歳:13.47%,2.25%,6.70%,-,-
70歳:12.62%,3.33%,9.98%,-,-
75歳:11.22%,4.45%,-,-,-
80歳:9.29%,6.65%,-,-,-
・女性
45歳:11.60%,0.24%,0.65%,1.74%,5.07%
50歳:11.60%,0.45%,1.05%,3.57%,8.17%
55歳:11.36%,0.41%,1.51%,4.83%,-
60歳:11.15%,0.60%,3.13%,7.72%,-
65歳:10.95%,1.10%,4.42%,-,-
70歳:10.55%,2.53%,7.12%,-,-
75歳:9.86%,3.33%,-,-,-
80歳:8.03%,4.59%,-,-,-
◇ 結論
欧米人以外のコホートにおいて,短期~中期,および生涯の急性心筋梗塞(AMI)発症リスクを評価したはじめての研究である。吹田研究におけるAMIの生涯リスク(LTR)は,50歳の男性で16.1%(中年男性の約6人に1人),女性で11.6%(中年女性の約9人に1人)であり,これは,Framingham研究(心血管疾患のLTR:50歳男性46.9%,50歳女性31.1%)およびPhysicians’ Health 研究(LTR:男性34.5%)にくらべて顕著に低い値であった。