[2013年文献] 高血圧の人の多量飲酒は避けるべきだが,少量~中等量の飲酒は冠動脈疾患リスクを低下させる可能性がある
都市部の日本人男性を対象とした13年間の前向きコホート研究において,高血圧の有無と飲酒状況の組み合わせと,心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,非高血圧の飲酒未経験者にくらべ,高血圧の人では,飲酒状況にかかわらずCVD,冠動脈疾患,全脳卒中,および脳梗塞の発症リスクが高かった。冠動脈疾患の発症リスクは高血圧の飲酒未経験者でもっとも高く,全脳卒中発症リスクは高血圧の多量飲酒者でもっとも高かった。非高血圧者では飲酒状況とCVD発症リスクとの明らかな関連はみとめられなかった。以上の結果から,高血圧の人では,多量飲酒はCVD予防のために控えるべきであるが,少量~中等量の飲酒は冠動脈疾患に対して保護的な効果を有する可能性が示唆された。また,非高血圧の飲酒者では継続的な血圧モニタリングが必要であることが示唆された。
Higashiyama A, et al. Alcohol consumption and cardiovascular disease incidence in men with and without hypertension: the Suita study. Hypertens Res. 2013; 36: 58-64.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年2月にベースライン健診を受けた30~79歳の6485人のうち,追跡不能または心血管疾患の既往のある821人,女性3093人,非空腹時採血だった男性83人,ベースラインデータに不備のある男性58人,以前飲酒していたがべースライン時には飲酒していなかった男性94人を除いた男性2336人を平均13年間追跡。
平均年齢55歳。
高血圧(≧140/90 mmHg)の有無と飲酒状況*の組み合わせにより,全体を以下の8つのカテゴリーに分けて解析を行った。*1杯=エタノール換算摂取量11.5 g=0.5合
非高血圧
+飲酒未経験: 380人
+少量飲酒(1日2.0杯以下): 684人
+中等量飲酒(1日2.0杯超,4.0杯以下): 348人
+多量飲酒(1日4.0杯超): 214人
高血圧
+飲酒未経験: 141人
+少量飲酒: 276人
+中等量飲酒: 178人
+多量飲酒: 115人 - 結 果
- ◇ 対象背景
高血圧の人は非高血圧の人よりも年齢が高く,飲酒者は飲酒未経験者よりも年齢が低かった。喫煙者の割合は,高血圧の有無にかかわらず,多量飲酒者でもっとも高かった。高血圧の人のトリグリセリド(中央値)は,飲酒量が多いほど高くなっていた。
追跡期間中の心血管疾患(CVD)の発症状況は,冠動脈疾患109人,脳梗塞78人,脳出血29人。
◇ 高血圧の有無+飲酒状況とCVD発症リスク
高血圧の有無と飲酒状況を組み合わせたカテゴリーごとにCVD発症の多変量調整ハザード比*を比較したところ,高血圧の人のCVD発症リスクは,飲酒状況にかかわらず,非高血圧+飲酒未経験(対照)にくらべて高くなっていた。
高血圧の人では,飲酒量と全CVDおよび冠動脈疾患発症リスクはU字型の関連を示しており,もっともリスクが高いのは飲酒未経験者であった。全脳卒中および脳梗塞リスクもやはり飲酒未経験者で高くなっていたが,もっとも高いのは全脳卒中については多量飲酒者,脳梗塞については少量飲酒者であった。
非高血圧の人では,飲酒量と全CVD発症リスクとの明らかな関連はみとめられなかったが,飲酒者の全CVDおよび冠動脈疾患リスクは非高血圧+飲酒未経験(対照)にくらべて低く,また全脳卒中および脳梗塞リスクは,対照にくらべて少量飲酒者でやや高く,中等量~多量飲酒者でやや低い傾向がみとめられた。
8つのカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。
*年齢,BMI,脂質異常症および糖尿病の合併,喫煙状況により調整
(1) 全CVD
・非高血圧:
+飲酒未経験者: 1.00(対照)
+少量飲酒者: 0.80(0.51-1.26)
+中等量飲酒者: 0.74(0.41-1.33)
+多量飲酒者: 0.79(0.37-1.66)
・高血圧
+飲酒未経験者: 2.14(1.32-3.47)
+少量飲酒者: 1.62(1.03-2.54)
+中等量飲酒者: 1.23(0.72-2.10)
+多量飲酒者: 1.68(0.92-3.09)
(2) 冠動脈疾患
・非高血圧
+飲酒未経験者: 1.00(対照)
+少量飲酒者: 0.58(0.30-1.11)
+中等量飲酒者: 0.63(0.27-1.44)
+多量飲酒者: 0.91(0.36-2.32)
・高血圧
+飲酒未経験者: 2.24(1.46-5.08)
+少量飲酒者: 1.28(0.68-2.43)
+中等量飲酒者: 0.88(0.40-1.96)
+多量飲酒者: 1.18(0.47-2.99)
(3) 全脳卒中
・非高血圧
+飲酒未経験者: 1.00(対照)
+少量飲酒者: 1.08(0.57-2.06)
+中等量飲酒者: 0.88(0.38-2.02)
+多量飲酒者: 0.61(0.18-2.15)
・高血圧
+飲酒未経験者: 1.47(0.66-3.24)
+少量飲酒者: 2.03(1.07-3.88)
+中等量飲酒者: 1.67(0.80-3.49)
+多量飲酒者: 2.28(1.01-5.18)
(4) 脳梗塞
・非高血圧
+飲酒未経験者:1.00(対照)
+少量飲酒者:1.33(0.59-2.97)
+中等量飲酒者: 0.96(0.34-2.75)
+多量飲酒者: 0.63(0.13-2.98)
・高血圧
+飲酒未経験者: 1.66(0.63-4.38)
+少量飲酒者: 2.69(1.21-5.95)
+中等量飲酒者: 1.33(0.49-3.61)
+多量飲酒者: 2.43(0.88-6.68)
◇結論
都市部の日本人男性を対象とした13年間の前向きコホート研究において,高血圧の有無と飲酒状況の組み合わせと,心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討した。その結果,非高血圧の飲酒未経験者にくらべ,高血圧の人では,飲酒状況にかかわらずCVD,冠動脈疾患,全脳卒中,および脳梗塞の発症リスクが高かった。冠動脈疾患の発症リスクは高血圧の飲酒未経験者でもっとも高く,全脳卒中発症リスクは高血圧の多量飲酒者でもっとも高かった。非高血圧者では飲酒状況とCVD発症リスクとの明らかな関連はみとめられなかった。以上の結果から,高血圧の人では,多量飲酒はCVD予防のために控えるべきであるが,少量~中等量の飲酒は冠動脈疾患に対して保護的な効果を有する可能性が示唆された。また,非高血圧の飲酒者では継続的な血圧モニタリングが必要であることが示唆された。