[2014年文献] 口腔衛生異常(歯周病,不正咬合,歯牙喪失,歯肉出血)の保有数は高血圧と関連
都市部の日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析において,複数の検査項目により評価した口腔衛生状態と高血圧との関連について検討した。その結果,口腔衛生状態の問題を示す4項目(歯周病,不正咬合,歯牙喪失,歯肉出血)のうち3つ以上あわせもつ人では高血圧のリスクが高いことが示された。高血圧予防の観点からみた歯科治療の必要性を検討するために,今後の縦断的な研究が求められる。
Iwashima Y, et al. Additive Interaction of Oral Health Disorders on Risk of Hypertension in a Japanese Urban Population: The Suita Study. Am J Hypertens. 2014; 27: 710-9.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病研究センターでベースライン健診を受診し,さらに2008年6月~2012年3月に定期健診ならびに歯科検診を受けた1797人のうち,心血管疾患既往のある88人,心房細動を有する35人,ベースライン時に歯科検診を受けなかった31人を除外した30~79歳の1643人(断面解析)。
口腔衛生状態については,以下の4つの項目を用いて評価した。
(1)歯周組織の状態: 地域歯周疾患処置必要度指数(modified Community Periodontal Index of Treatment Needs: CPITN)を用いて,ステージ0(健康)~4(歯周ポケットの深さ6 mm以上)の4段階で評価。
(2)残存歯数(最大28)
(3)咬合状態: Eichner Indexを用いて,クラスA(4つの支持域すべてに咬合接触あり)~クラスC(4支持域とも咬合接触なし)の3段階で評価。
(4)歯肉出血 - 結 果
- ◇ 対象背景
ベースラインのおもな対象背景は以下のとおり。
平均年齢66.6歳,男性の割合43.4%,BMI 22.7 kg/m2,糖尿病10.6%,脂質異常症38.2%,降圧薬服用30.1%,血圧128 / 78 mmHg,心拍数69拍/分,トリグリセリド106 mg/dL,HDL-C 62 mg/dL,血糖104 mg/dL,HbA1c 5.47%,喫煙率10.8%,飲酒率(毎日)54.8%,果物の摂取(毎日)53.6%,砂糖添加飲料の摂取(1日3杯以上)7.7%,身体活動(1日1時間以上)40.4%,睡眠時間6.55時間
口腔衛生状態についてみると,地域歯周疾患処置必要度指数(modified Community Periodontal Index of Treatment Needs: CPITN)のステージ0が35.4%,1が0.9%,2が11.5%,3が32.2%,4が20.0%で,歯肉出血あり35.6%,残存歯数21.8本,Eichner IndexのクラスAが60.4%,クラスBが28.1%,クラスCが11.5%であった。
口腔衛生状態を示す4つの項目のいずれかに問題がある人は,その他の異常もあわせもつ傾向がみとめられた。
ベースライン時の高血圧者と非高血圧者の比較を行った結果,高血圧者で有意に高い値を示していたのは年齢,男性の割合,BMI,糖尿病の割合,脂質異常症の割合,心拍数,トリグリセリド,血糖,HbA1c,睡眠時間,CPITNステージ4の割合,Eichner IndexクラスBおよびCの割合,歯肉出血ありの割合で,有意に低い値を示していたのはHDL-C,推算糸球体濾過量,喫煙率,砂糖添加飲料の摂取(1日3杯以上)の割合,CPITNステージ0の割合,残存歯数,Eichner IndexクラスAの割合。
◇ 口腔衛生状態と高血圧リスク
口腔衛生状態の各評価項目,ならびにその合併と高血圧との関連を多変量ロジスティック回帰分析†により検討した(†年齢,性,BMI,糖尿病,脂質異常症,推算糸球体濾過量,喫煙,飲酒,果物の摂取,砂糖添加飲料の摂取,身体活動,睡眠時間により調整)。
その結果,有意な関連がみられたものは以下のとおりで,単独の項目では有意な関連はみられなかったものの,2つの項目が合併することで,いずれももたない場合に比した高血圧リスクの有意な増加がみられた。
歯周組織異常(CPITNステージ4)+歯肉出血あり: オッズ比1.71(95%信頼区間1.17-2.50),P<0.01
歯周組織異常+不正咬合(Eichner IndexクラスC): 1.44(1.02-2.02),P=0.04
残存歯数が少ない(男性18以下,女性21以下)+歯肉出血: 1.63(1.07-2.47),P=0.01
不正咬合+歯肉出血: 2.51(1.30-5.00),P<0.01
口腔衛生状態の問題を示す4項目(CPITNステージ4,残存歯数が男性18以下・女性21以下,Eichner IndexクラスC,歯肉出血あり)の保有数と高血圧との関連を検討した結果は以下のとおりで,3つ以上をあわせもつ人では高血圧の多変量調整オッズ比†が有意に高かった。
0: 1.00(対照)
1つ: オッズ比1.23(95%信頼区間0.95-1.59),P=0.12
2つ: 1.28(0.91-1.79),P=0.16
3つ以上: 1.82(1.23-2.72),P=0.003
◇ 口腔衛生状態と血圧値
降圧薬を服用していない1148人のみを対象に,口腔衛生状態の問題を示す4項目(CPITNステージ4,残存歯数が男性18以下・女性21以下,Eichner IndexクラスC,歯肉出血あり)の保有数と収縮期血圧値および拡張期血圧値との関連を検討した。その結果,収縮期血圧と拡張期血圧のいずれについても,保有数が多いほど値が高くなる有意な傾向がみとめられた(それぞれP for trend=0.03,P for trend=0.046[多変量調整†])。
◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析において,複数の検査項目により評価した口腔衛生状態と高血圧との関連について検討した。その結果,口腔衛生状態の問題を示す4項目(歯周病,不正咬合,歯牙喪失,歯肉出血)のうち3つ以上あわせもつ人では高血圧のリスクが高いことが示された。高血圧予防の観点からみた歯科治療の必要性を検討するために,今後の縦断的な研究が求められる。