[2015年文献] 高血圧と過体重は心房細動の危険因子であり,両者の合併でさらにリスクが増加

欧米にくらべて血圧が高く,肥満の少ない日本人都市部一般住民を対象としたコホート研究において,血圧高値と肥満が合併すると心房細動発症リスクを増加させるという仮説をはじめて検討した。12.8年間の追跡の結果,収縮期高血圧および過体重は多変量調整後も心房細動発症の危険因子であること,ならびに,両者が合併すると,相互作用によって心房細動の発症リスクがさらに増加することが示された。心房細動の予防のために,収縮期高血圧と過体重の両方を有する人では定期的な心電図検査が必要と考えられる。

Kokubo Y, et al. Interaction of Blood Pressure and Body Mass Index With Risk of Incident Atrial Fibrillation in a Japanese Urban Cohort: The Suita Study. Am J Hypertens. 2015; pubmed

コホート
吹田市民から無作為に抽出され,国立循環器病研究センターで定期健診を受診した30~79歳の一般住民(1次コホート: 1989~1996年に受診した6485人,2次コホート: 1996~1998年に受診した1329人),ならびにボランティアで1992~2006年のあいだに研究に参加した一般住民546人を,2013年5月31日まで平均12.8年間追跡。ベースラインに心房細動または心房粗動を有していた42人,検査データに不備のあった2人,健診を完了しなかった2人,追跡健診に参加しなかった1408人を除いた6906人を解析対象とした。

血圧およびBMIについては,以下のカテゴリーをそれぞれ設定し,対象者を分類した。
  正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHg,拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
  前高血圧: SBP 120~139 mmHg,DBP 80~89 mmHg
  高血圧: SBP≧140 mmHg,DBP≧90 mmHgまたは降圧薬服用

  低体重: <18.5 kg/m2
  正常体重: 18.5kg/m2以上25 kg/m2未満
  過体重: ≧25 kg/m2

以下のいずれかに該当する場合に心房細動と診断した。
 ・追跡健診時(隔年)の12誘導心電図で心房細動または心房粗動がみとめられた場合
 ・追跡健診時,現在罹患している疾患として心房細動の申告があった場合
 ・病院受診時のカルテに心房細動の記録がある場合
 ・死亡証明書に心房細動の記録がある場合
結 果
◇ 対象背景
収縮期血圧(SBP)とBMIのカテゴリーごとに見ると,男女とも,SBPやBMIが高い人ほど,年齢,糖尿病や脂質異常症の有病率,ならびに脳卒中や心疾患既往の割合が高く,現在喫煙率が低かった。

追跡期間中に心房細動を発症したのは253人。

◇ 血圧と心房細動発症リスク
SBP,拡張期血圧(DBP),およびその両方,ならびに脈圧のカテゴリーごとにみた心房細動発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれについてももっとも血圧値の高いカテゴリーで,正常に比した有意なリスク増加がみとめられた。
年齢,性別,BMI,高脂血症,糖尿病,喫煙,飲酒,コホート,慢性腎臓病,脳卒中・冠動脈疾患・慢性心不全既往,期外収縮により調整)

  [SBP]正常: 1(対照),前高血圧: 1.29(0.91-1.85),高血圧: 1.74(1.22-2.49),P for trend=0.002
  [DBP]正常: 1,前高血圧: 1.16(0.84-1.61),高血圧: 1.47(1.08-1.99),P for trend=0.014
  [SBP+DBP]正常: 1,前高血圧: 1.20(0.83-1.73),高血圧: 1.53(1.07-2.19),P for trend=0.016
  [脈圧]<40 mmHg: 1,40~59 mmHg: 1.29(0.90-0.87),≧60 mmHg: 1.75(1.17-2.64),P for trend=0.005

収縮期高血圧におけるリスク増加は,さらにDBPによる調整を行っても有意であったが(ハザード比1.74[95%信頼区間1.12-2.69]),拡張期高血圧および脈圧≧60 mmHgにおけるリスク増加は,さらにSBPによる調整を行うと有意ではなくなった(拡張期高血圧: 1.14[0.77-1.69],脈圧≧60 mmHg: 1.28[0.72-2.25])。

連続変数としてのSBP,DBPおよび脈圧と心房細動発症の多変量調整ハザード比との関連をみると,SBPの20 mmHgの増加,および脈圧の10 mmHgの増加は,いずれも心房細動リスクの有意な増加と関連していた。
SBPについては,さらにDBPによる調整を行っても結果は同様であったが,脈圧については,さらにSBPによる調整を行うと有意なリスク増加はみられなくなった。

◇ BMIと心房細動発症リスク
BMIのカテゴリーごとにみた心房細動発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,過体重において,正常体重に比した有意なリスク増加がみとめられた。
  [BMI]低体重: 1.02(0.60-1.72),正常体重: 1(対照),過体重: 1.35(1.01-1.80),P for trend=0.081

この結果は,さらにSBPおよびDBPで調整を行っても同様であった。
また,BMIを連続変数として解析すると,BMIの1 kg/m2増加あたりの心房細動発症の多変量調整ハザード比は1.05(95%信頼区間1.01-1.10)と有意に増加しており,さらにSBPによる調整を行ってもこの結果は同様であった。

◇ 血圧およびBMIの組合わせと心房細動発症リスク
おもな血圧とBMIのカテゴリーの組合わせにおける心房細動発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,両者の相互作用は有意であった(P for interaction=0.04)。
  SBP正常+正常体重: 1(対照)
  SBP前高血圧+過体重: 1.72(1.01-2.91)
  SBP高血圧+正常体重: 1.66(1.10-2.50)
  SBP高血圧+過体重: 2.31(1.47-3.65)


◇ 結論
欧米にくらべて血圧が高く,肥満の少ない日本人都市部一般住民を対象としたコホート研究において,血圧高値と肥満が合併すると心房細動発症リスクを増加させるという仮説をはじめて検討した。12.8年間の追跡の結果,収縮期高血圧および過体重は多変量調整後も心房細動発症の危険因子であること,ならびに,両者が合併すると,相互作用によって心房細動の発症リスクがさらに増加することが示された。心房細動の予防のために,収縮期高血圧と過体重の両方を有する人では定期的な心電図検査が必要と考えられる。


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