[2016年文献] 高血圧者と非高血圧者の脳卒中生涯リスクの差は,若年世代のほうが大きい

脳卒中の絶対リスク評価の一環として,都市部一般住民を対象に,脳卒中発症の短期間~中期間,および生涯リスクに対する高血圧の影響を検討した。その結果,高血圧者における脳卒中の生涯リスクは非高血圧者より高く,とくに若年の高血圧者における生涯リスクが高齢者より大きくなっていたことから,脳卒中予防のためには若年世代から血圧に注意する必要があることが示唆された。また,高血圧者のなかで,ステージ1高血圧の人における脳卒中の生涯リスクは,ステージ2高血圧の人よりも低かった。

Turin TC, et al. Hypertension and lifetime risk of stroke. J Hypertens. 2016; 34: 116-22.pubmed

コホート
吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病研究センター(大阪)で定期健診を受診した30~79歳の6483人のうち,脳卒中既往のある98人,追跡不可能の602人を除いた5783人(男性2722人,女性3061人)を対象とし,脳卒中発症,死亡,あるいは2007年12月31日のいずれかまで追跡を行った(観察は74932.7人・年)。

脳卒中の発症について,男女別に設定した8段階のindex age(45歳,55歳,65歳,75歳)ごとに,短期間~中期間リスク(10年,20年,30年,40年)および生涯リスクを算出した。
生涯リスク(lifetime risk)とは,ある時点の年齢から死亡するまでに疾患を発症する確率を示す疫学的な指標。死亡による競合リスクも考慮したうえで算出されている。

高血圧およびそのステージについては,JNC7の以下の基準を用いた。
  高血圧: 収縮期血圧(SBP)140 mmHg以上,拡張期血圧(DBP)90 mmHg以上,または降圧薬服用
  ステージ1高血圧: SBP 140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg
  ステージ2高血圧: SBP 160 mmHg以上またはDBP 100 mmHg以上
結 果
◇ 対象背景
ベースライン時の高血圧の割合は以下のとおり。
  男性33.36%(高血圧者のうち,ステージ1高血圧が60.02%,ステージ2高血圧が33.26%)
  女性27.61%(それぞれ56.92%,32.78%)
高血圧者では,非高血圧者にくらべて年齢,血糖および総コレステロール値が高かった。

追跡期間中の脳卒中の発症は276人(男性149人,女性127人)で,うち脳梗塞が166人(男性102人,女性64人),脳出血が52人(27人,25人),くも膜下出血が58人(25人,33人)であった。
このように発症者数が少なかったため,短期間~中期間リスク,および生涯リスクについて病型別の検討を行うことはできなかった。

◇ 高血圧の有無ごとの脳卒中発症の短期間~中期間リスク,および生涯リスク
脳卒中発症リスクは評価期間の延長とともに段階的に増加し,非高血圧者よりも高血圧者で高くなっていた。これは,性別やindex ageを問わず同様であった。
index ageごとに算出した,高血圧の有無別の脳卒中の10年,20年,30年,40年,および生涯リスクは以下のとおり(死亡による競合リスクを考慮)。

・男性
45歳(非高血圧): 10年リスク0.34%,20年リスク1.74%,30年リスク5.34%,40年リスク11.62%,生涯リスク17.21%
45歳(高血圧): 0.60%,6.31%,13.15%,22.90%,32.79%
 
55歳(非高血圧): 1.42%,5.06%,11.43%,-,17.10%
55歳(高血圧): 5.89%,12.95%,22.99%,-,33.20%

65歳(非高血圧): 3.79%,10.41%,-,-,16.29%
65歳(高血圧): 7.36%,17.83%,-,-,28.46%

75歳(非高血圧): 7.65%,-,-,-,14.45%
75歳(高血圧): 12.11%,-,-,-,24.41%

・女性
45歳(非高血圧): 0.35%,1.53%,3.36%,9.40%,15.97%
45歳(高血圧): 1.41%,4.25%,8.43%,18.35%,27.99%
 
55歳(非高血圧): 1.20%,3.05%,9.19%,-,15.85%
55歳(高血圧): 2.86%,7.06%,17.05%,-,26.74%

65歳(非高血圧): 1.91%,8.23%,-,-,15.09%
65歳(高血圧): 4.31%,14.57%,-,-,24.52%

75歳(非高血圧): 6.62%,-,-,-,13.8%
75歳(高血圧): 10.85%,-,-,-,21.39%

◇ 高血圧ステージと脳卒中発症の短期間~中期間リスク,および生涯リスク
ステージ1およびステージ2高血圧の人における脳卒中発症リスクは,評価期間の延長とともに段階的に増加し,ステージ1よりもステージ2高血圧で高くなっていた。これは,性別やindex ageを問わず同様であった。
45歳時の脳卒中発症の生涯リスクは,ステージ1高血圧20.21%,ステージ2高血圧48.33%であった。

◇ 高血圧の有無ごとの脳梗塞発症の短期間~中期間リスク,および生涯リスク
脳梗塞発症リスクは評価期間の延長とともに段階的に増加し,非高血圧者よりも高血圧者で高くなっていた。これは,性別やindex ageを問わず同様であった。
45歳時の脳梗塞発症の生涯リスクは,非高血圧8.25%,高血圧19.01%で,高血圧ステージごとにみると,ステージ1高血圧14.75%,ステージ2高血圧25.43%であった。


◇ 結論
脳卒中の絶対リスク評価の一環として,都市部一般住民を対象に,脳卒中発症の短期間~中期間,および生涯リスクに対する高血圧の影響を検討した。その結果,高血圧者における脳卒中の生涯リスクは非高血圧者より高く,とくに若年の高血圧者における生涯リスクが高齢者より大きくなっていたことから,脳卒中予防のためには若年世代から血圧に注意する必要があることが示唆された。また,高血圧者のなかで,ステージ1高血圧の人における脳卒中の生涯リスクは,ステージ2高血圧の人よりも低かった。


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