[2016年文献] 高血圧者の冠動脈疾患の生涯リスクは,非高血圧者の約2倍
冠動脈疾患(CHD)の絶対リスク評価の一環として,都市部一般住民を対象に,CHD発症の短期間~中期間,および生涯リスクに対する高血圧の影響を検討した。その結果,高血圧者におけるCHD発症の生涯リスクは,年齢や性別を問わず,非高血圧者の約2倍と高かった。このように,欧米にくらべてCHD発症率の低い日本においても,CHDの生涯リスクに対する高血圧の影響が明らかであったという今回の結果は,わが国のCHD予防のために重要と考えられた。
Turin TC, et al. Impact of hypertension on the lifetime risk of coronary heart disease. Hypertens Res. 2016; 39: 548-51.
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病研究センター(大阪)で定期健診を受診した30~79歳の6483人のうち,健診データに不備がある,または追跡不可能となった602人,および冠動脈疾患(CHD)既往のある47人を除いた5834人(男性2759人,女性3075人)を対象とし,CHD発症,死亡,あるいは2007年12月31日のいずれかまで追跡を行った(観察は75387.5人・年)。
CHDの発症について,男女別に設定した8段階のindex age(45歳,55歳,65歳,75歳)ごとに,短期間~中期間リスク(10年,20年,30年,40年)および生涯リスク†を算出した。
†生涯リスク(lifetime risk)とは,ある時点の年齢から死亡するまでに疾患を発症する確率を示す疫学的な指標。死亡による競合リスクも考慮したうえで算出されている。 - 結 果
- ◇ 対象背景
ベースライン時の高血圧の割合は以下のとおり。
男性33.89%(高血圧者のうち,ステージ1高血圧が59.57%,ステージ2高血圧が33.90%)
女性27.74%(それぞれ56.98%,32.83%)
高血圧者では,非高血圧者にくらべて年齢,血糖および総コレステロールが高かった。
追跡期間中の冠動脈疾患(CHD)の発症は204人(男性137人,女性67人)であった。
◇ 高血圧の有無ごとのCHD発症の短期間~中期間リスク,および生涯リスク
CHD発症リスクは評価期間の延長とともに段階的に増加し,非高血圧者よりも高血圧者で高くなっていた。これは,性別やindex ageを問わず同様であった。
index ageごとに算出した,高血圧の有無別のCHDの10年,20年,30年,40年,および生涯リスクは以下のとおり(死亡による競合リスクを考慮)。
・男性
45歳(非高血圧): 10年リスク0.83%,20年リスク2.37%,30年リスク4.94%,40年リスク8.98%,生涯リスク14.12%
45歳(高血圧): 1.08%,6.39%,11.65%,18.77%,26.95%
55歳(非高血圧): 1.56%,4.17%,8.27%,-,13.49%
55歳(高血圧): 5.48%,10.90%,18.25%,-,26.67%
65歳(非高血圧): 2.72%,7.01%,-,-,12.46%
65歳(高血圧): 5.75%,13.54%,-,-,22.47%
75歳(非高血圧):5.05%,-,-,-,11.47%
75歳(高血圧): 9.59%,-,-,-,20.59%
・女性
45歳(非高血圧): 0.23%,0.47%,1.01%,4.89%,6.21%
45歳(高血圧): 1.97%,2.78%,5.89%,10.25%,14.85%
55歳(非高血圧): 0.24%,0.78%,4.72%,-,6.07%
55歳(高血圧): 0.81%,3.94%,8.33%,-,12.95%
65歳(非高血圧): 0.56%,4.63%,-,-,6.01%
65歳(高血圧):3.24%,7.79%,-,-,12.58%
75歳(非高血圧): 4.28%,-,-,-,5.74%
75歳(高血圧): 4.93%,-,-,-,10.11%
◇ 結論
冠動脈疾患(CHD)の絶対リスク評価の一環として,都市部一般住民を対象に,CHD発症の短期間~中期間,および生涯リスクに対する高血圧の影響を検討した。その結果,高血圧者におけるCHD発症の生涯リスクは,年齢や性別を問わず,非高血圧者の約2倍と高かった。このように,欧米にくらべてCHD発症率の低い日本においても,CHDの生涯リスクに対する高血圧の影響が明らかであったという今回の結果は,わが国のCHD予防のために重要と考えられた。