[2017年文献] 10年後の心房細動予測スコアを開発
わが国では,2008年から開始された特定健診で心電図が必須項目から外れたことから,心房細動(AF)患者が増加する可能性が懸念されている。現状では,健診や一般診療の場でAF高リスク者を早期に同定し,追加の心電図検査を行うことが望まれる。そこで,都市部一般住民を対象とした前向きコホート研究である吹田研究のデータを用い,危険因子の保有状況から10年後のAF罹病率を予測するリスクスコアを作成した。欧米人以外を対象としたAFのリスクスコアとしては初めてのもので,用いられた危険因子はすべて健診や一般診療の場で評価可能である。リスクを色分けして図示したチャートや,リスク計算機( 国立循環器病研究センターのプレスリリースを参照 )などのツールも準備されており,これらを含めて今回のリスクスコアを活用することで,AFの高リスク者に対して早期に心電図検査を実施する,具体的な生活習慣の改善を促すといった対応を行うことが期待される。
Kokubo Y, et al. Development of a Basic Risk Score for Incident Atrial Fibrillation in a Japanese General Population - The Suita Study. Circ J. 2017;
- コホート
- 吹田市民から無作為に抽出され,国立循環器病研究センターで定期健診(ベースライン)を受診した30~79歳の一般住民(1次コホート: 1989~1996年に受診した6485人,2次コホート: 1996~1998年に受診した1329人),ならびにボランティアで1992~2006年のあいだに研究に参加した一般住民546人のうち,心房細動/粗動所見または既往を有する42人,80歳以上で受診していた34人,ベースラインのデータに不備のある4人,および追跡データに不備のある1382人を除いた6898人を2015年12月31日まで追跡(95180人・年)。
- 結 果
- ◇ 対象背景
追跡期間中に,311件の心房細動(AF)が確認された。
ベースライン時の背景をみると,AF罹病者で非罹病者に対して有意に高い値を示していたのは収縮期血圧,BMI,降圧薬服用率,糖尿病や耐糖能異常の割合,喫煙者や禁煙者の割合,飲酒者や多量飲酒者の割合,冠動脈疾患既往の割合,心雑音の割合およびAF以外の不整脈の割合であった。
◇ AF罹病率予測モデルの作成
Cox比例ハザードモデルで検討された既知の危険因子(性,年齢,血圧,脈圧,降圧薬服用,BMI,総コレステロール,HDL-C,non-HDL-C,トリグリセリド,脂質低下薬服用,慢性腎臓病(CKD),推算糸球体濾過量,糖尿病,喫煙,飲酒,冠動脈疾患既往,心雑音,AF以外の不整脈†,脳卒中既往)のうち,AFの性・年齢調整ハザード比との有意な関連を示していたのは以下の因子であった。
性: 男性1(対照),女性0.48(95%信頼区間0.38-0.61)
年齢: 30~39歳1(対照),40~49歳1.74(0.78-3.88),50~59歳3.83(1.83-8.02),60~69歳11.87(5.80-24.31),70~79歳26.92(12.93-56.05)
収縮期血圧: 119 mmHg以下1(対照),120~139 mmHg 1.50(1.11-2.04),140 mmHg以上2.07(1.51-2.83)
拡張期血圧: 79 mmHg以下1(対照),80~89 mmHg 1.22(0.94-1.58),90 mmHg以上1.63(1.23-2.16)
脈圧: 39 mmHg以下1(対照),40~59 mmHg 1.32(0.95-1.83),60 mmHg以上1.95(1.36-2.81)
降圧薬服用: なし1(対照),あり1.75(1.33-2.29)
BMI: 18.5 kg/m2未満1.09(0.69-1.72),18.5 kg/m2以上25.0 kg/m2未満1(対照),25.0 kg/m2以上1.65(1.29-2.11)
non-HDL-C: 129 mg/dL以下1(対照),130~189 mg/dL 0.74(0.57-0.97),190 mg/dL以上0.80(0.56-1.12)
喫煙状況: 未経験1(対照),喫煙1.52(1.09-2.13),禁煙1.24(0.90-1.73)
多量飲酒(基準記載なし): なし1(対照),あり1.96(1.42-2.69)
冠動脈疾患既往: なし1(対照),あり1.94(1.18-3.18)
心雑音: なし1(対照),あり2.88(1.80-4.60)
AF以外の不整脈†: なし1(対照),あり2.88(2.02-4.11)
(†AF以外の不整脈と診断されている,または診察[血圧測定,胸腹部の聴診,あるいは脈拍測定]でAF以外の不整脈がみとめられたもの)
上記の因子のうち,多変量調整後もAFリスクとの有意な関連がみられたもの(年齢,性,収縮期血圧,BMI,降圧薬服用,喫煙,多量飲酒,non-HDL-C,冠動脈疾患既往,AF以外の不整脈,ならびに心雑音)を変数として含めた最終的なCox比例ハザードモデルを作成した。
性と年齢,ならびに心雑音と年齢については有意な相互作用がみとめられたことから(それぞれP for interaction<0.001,P for interaction=0.002),相互作用項としてモデルに含めた。
◇ 10年後のAF罹病率を予測するリスクスコア
最終的なCox比例ハザードモデルをもとに,性×年齢,収縮期高血圧,過体重,多量飲酒,喫煙,non-HDL-C,AF以外の不整脈,冠動脈疾患既往,ならびに心雑音×年齢の各項目について以下のスコアを設定。これらのスコアの合計に対応する,吹田研究コホートでのAF罹病状況をもとに,各対象者における合計スコアから予測される10年間のAF罹病率が換算表から算出できるようになっている(C統計量0.749,95%信頼区間0.724-0.774)。
年齢
30~49歳: 男性0点,女性-5点
50~59歳: 男性3点,女性0点
60~69歳: 男性7点,女性5点
70~79歳: 男性9点,女性9点
収縮期高血圧: 2点
過体重(BMI≧25 kg/m2): 2点
多量飲酒: 2点
喫煙: 1点
non-HDL-C 130~189 mg/dL: -1点
AF以外の不整脈: 4点
冠動脈疾患既往: 2点
心雑音あり
30~49歳: 8点
50~59歳: 6点
60~69点: 2点
70~79歳: 0点
合計スコア<0点: 10年後のAF罹病率0.5%未満,0点: 0.8%,1~2点: 1%,3点: 2%,4点: 3%,5~7点: 4%,8~9点: 7%,10~11点: 9%,12点: 12%,13点: 16%,14~15点: 20%,16点以上: 27%
たとえば,60歳の喫煙者の男性で,収縮期高血圧あり,過体重あり,多量飲酒なし,non-HDL-C値 195 mg/dL,AF以外の不整脈と冠動脈疾患既往がなく,心雑音がみとめられた場合,スコアの合計は14点となり,予測される10年後のAF罹病率は20%となる。
◇ 結論
わが国では,2008年から開始された特定健診で心電図が必須項目から外れたことから,心房細動(AF)患者が増加する可能性が懸念されている。現状では,健診や一般診療の場でAF高リスク者を早期に同定し,追加の心電図検査を行うことが望まれる。そこで,都市部一般住民を対象とした前向きコホート研究である吹田研究のデータを用い,危険因子の保有状況から10年後のAF罹病率を予測するリスクスコアを作成した。欧米人以外を対象としたAFのリスクスコアとしては初めてのもので,用いられた危険因子はすべて健診や一般診療の場で評価可能である。リスクを色分けして図示したチャートや,リスク計算機( 国立循環器病研究センターのプレスリリースを参照 )などのツールも準備されており,これらを含めて今回のリスクスコアを活用することで,AFの高リスク者に対して早期に心電図検査を実施する,具体的な生活習慣の改善を促すといった対応を行うことが期待される。