[2010年文献] 前高血圧+hsCRP高値の人では虚血性脳卒中リスクが高い

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,前高血圧と,虚血性脳卒中発症リスクとの関連を検討し,さらに高感度CRP(hsCRP)値を用いた層別化解析を行った。2.7年間の追跡の結果,前高血圧かつhsCRPが高値の場合は,正常血圧かつCRP低値に比した有意なリスク増加がみとめられたが,前高血圧かつhsCRP低値の場合はリスク増加はみられなかった。このことから,前高血圧の人における比較的短期の虚血性脳卒中リスクを推定するために,hsCRP値による評価が有用であることが示唆された。

Tanaka F, et al.; Iwate-KENCO Study Group. Prehypertension subtype with elevated C-reactive protein: risk of ischemic stroke in a general Japanese population. Am J Hypertens. 2010; 23: 1108-13.pubmed

コホート
岩手県北地域(二戸,久慈,宮古)に居住し,2002年4月~2005年1月に実施された健診を受診した26469人(男性9161人)のうち,心筋梗塞既往のある119人,脳卒中既往のある872人,ベースラインデータに不備のある1456人を除いた40~80歳の22676人(男性7666人,女性15010人)を平均2.7年間追跡。

血圧については,JNC7に基づく以下の分類を用いた。
   正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
   前高血圧: 120≦SBP<140 mmHgまたは80≦DBP<90 mmHg
   高血圧: SBP≧140 mmHg,DBP≧90 mmHgまたは降圧薬服用
結 果
◇ 対象背景
正常血圧は7625人(33.6%),前高血圧は5721人(25.2%),高血圧は9330人(41.1%)。
男女別にみると,男性の前高血圧は2144人(28.0%),女性では3577人(23.8%)であった。

血圧カテゴリー間で有意な差がみられたのは年齢,BMI,総コレステロール値,HDL-C値,および高感度CRP(hsCRP)値。血圧が高いカテゴリーほど,糖尿病,心房細動,腎機能障害,および現在飲酒している人の割合が高くなっており,前高血圧では男性の割合と現在喫煙率が高かった。

hsCRPの中央値は,男性0.5 mg/L,女性0.4 mg/Lであった。

◇ 前高血圧と虚血性脳卒中リスク
追跡期間中に脳卒中をはじめて発症したのは239人(1.1%)で,このうち143人(男性89人,女性54人)が虚血性脳卒中であった。

Kaplan-Meier曲線をみると,前高血圧では正常血圧に比して虚血性脳卒中の発症率が有意に高かった(P=0.002)。
多変量Cox比例ハザードモデルにおける,前高血圧での正常血圧に比した虚血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比*は1.72(95%信頼区間0.93-3.18)と有意ではなかった。
*年齢,性別,総コレステロール,HDL-C,腎機能障害,BMI,糖尿病,喫煙習慣,飲酒,心房細動により調整

◇ hsCRPによる層別化
正常血圧,前高血圧,高血圧のすべてのカテゴリーについて,hsCRP値による層別化(高値: 中央値以上,低値: 中央値未満)を行った。
・ 背景因子の比較
いずれの血圧カテゴリーについても,hsCRP高値の人ではhsCRP低値に比して年齢,BMI,総コレステロール値が有意に高く,HDL-C値が低かった。正常血圧+hsCRP高値の人では正常血圧+hsCRP低値に比して有意に収縮期血圧および拡張期血圧が高かったが,前高血圧と高血圧ではこのような差はみられなかった。

・ 虚血性脳卒中発症率の比較
Kaplan-Meier曲線をみると,正常血圧においては,hsCRP値による虚血性脳卒中発症率の有意な差はみられなかったが,前高血圧および高血圧においては,hsCRP高値の人で,hsCRP低値に比して有意に発症率が高かった。また,前高血圧+hsCRP高値では,正常血圧+hsCRP高値に比して有意に発症率が高かったが,前高血圧+hsCRP低値と正常血圧+hsCRP低値との比較では有意な差はみられなかった。

・ 虚血性脳卒中発症リスクの比較
hsCRP値により層別化したカテゴリーごとの,多変量Cox比例ハザードモデルによる虚血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。
同じ前高血圧であっても,hsCRP高値では有意なリスク増加がみとめられたが,hsCRP低値の場合はリスク増加はみられなかった。一方,高血圧の人では,hsCRP値をとわず,正常血圧+hsCRP低値に比した有意なリスク増加がみとめられた。
   正常血圧+hsCRP低値: 1.00(対照)
   正常血圧+hsCRP高値: 1.16(0.43-3.13),P=0.771
   前高血圧+hsCRP低値: 0.91(0.31-2.73),P=0.872
   前高血圧+hsCRP高値: 2.63(1.11-6.24),P<0.03
   高血圧+hsCRP低値: 2.64(1.13-6.16),P<0.03
   高血圧+hsCRP高値: 3.47(1.54-7.79),P<0.01


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,前高血圧と,虚血性脳卒中発症リスクとの関連を検討し,さらに高感度CRP(hsCRP)値を用いた層別化解析を行った。2.7年間の追跡の結果,前高血圧かつhsCRPが高値の場合は,正常血圧かつCRP低値に比した有意なリスク増加がみとめられたが,前高血圧かつhsCRP低値の場合はリスク増加はみられなかった。このことから,前高血圧の人における比較的短期の虚血性脳卒中リスクを推定するために,hsCRP値による評価が有用であることが示唆された。


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