[2011年文献] 男性のLDL-C/HDL-C比は急性心筋梗塞の予測因子

非都市部の日本人一般住民を対象として,LDL-C/HDL-C比,総コレステロール(TC)値,LDL-C値,HDL-C値,およびTC/HDL-C比の心血管疾患発症リスクの予測能を検討し,LDL-C/HDL-C比と急性心筋梗塞が関連することを示したはじめての研究である。2.7年間の前向きコホート研究の結果,男性のLDL-C/HDL-C比は急性心筋梗塞発症の独立した予測因子であり,LDL-C/HDL-C比が高いカテゴリー(2.6以上)の男性は,急性心筋梗塞発症リスクが高いことが示唆された。虚血性脳卒中発症と脂質値および脂質比との関連は,男女ともに示されなかった。以上の結果より,LDL-C/HDL-C比が高い日本人男性では,将来の心血管疾患を予防するために,心血管リスクの管理が重要であることが示唆された。

Yokokawa H, et al. Serum low-density lipoprotein to high-density lipoprotein ratio as a predictor of future acute myocardial infarction among men in a 2.7-year cohort study of a Japanese northern rural population. J Atheroscler Thromb. 2011; 18: 89-98.pubmed

コホート
岩手県北地域(二戸,久慈,宮古)の17市町村に居住しており,2002年4月~2005年1月に実施された健診を受診し,試験参加に同意した18歳以上の男女26469人のうち,心血管疾患既往,心血管疾患の治療歴,脂質低下薬の服用歴,または脂質関連のデータ不備のある計1903人を除いた24566人(男性8714人,女性15852人)を平均2.7年間追跡。
平均年齢は男性63.7歳,女性60.7歳。

LDL-C/HDL-C比,総コレステロール(TC)値,LDL-C値,HDL-C値,TC/HDL-C比により,全体をそれぞれ以下のように四分位に分けて解析した。

・LDL-C/HDL-C比
Q1:1.6未満(2277人),Q2:1.6以上2.1未満(2125人),Q3:2.1以上~2.6未満(1818人),Q4:2.6以上(2494人)

・TC値(mg/dL)
Q1:180未満(3292人),Q2:180以上~200未満(2183人),Q3:200以上~220未満(1651人),Q4:220以上(1588人)

・LDL-C値(mg/dL)
Q1:100未満(2884人),Q2:100以上~120未満(2427人),Q3:120以上~140未満(1813人),Q4:140以上(1590人)

・HDL-C値(mg/dL)
Q1:50未満(3253人),Q2:50以上~60未満(2346人),Q3:60以上~70未満(1647人),Q4:70以上(1468人)

・TC/HDL-C比
Q1:2.8未満(2003人),Q2:2.8以上~<3.4未満(2148人),Q3:3.4以上~4.1未満(2066人),Q4:4.1以上(2497人)
結 果
◇ 対象背景
追跡期間中における急性心筋梗塞の発症は男性35人,女性5人で,虚血性脳卒中の発症は114人,68人。

男性の対象背景をLDL-C/HDL-C比のカテゴリーごとに比較すると,LDL-C/HDL-C比が高くなるほど,BMI,HbA1c,尿酸,総コレステロール(TC),トリグリセリド,LDL-C,および高感度CRPも有意に高くなっていた。LDL-C/HDL-C比と有意な負の関連を示したのは,定期的に飲酒する人の割合,およびHDL-C値。

◇ 各脂質パラメータと急性心筋梗塞発症リスク
女性では急性心筋梗塞の発症数が少ないことから,解析は不可能であった。

男性の急性心筋梗塞発症リスクは,LDL-C/HDL-C比がもっとも高いカテゴリー(Q4)でもっとも高く,Q1に比したQ4の多変量調整ハザード比(HR)*は3.50(95%信頼区間1.15-10.64,P=0.03)と有意に高かった。
また,TC値がQ3のカテゴリーの男性,およびLDL-C値がQ4のカテゴリーの男性では,Q1に比した急性心筋梗塞の多変量調整HR*は2.44(1.01-5.91,P=0.04),2.50(1.02-6.09,P=0.04)とそれぞれ有意に高く,HDL-C値がQ3のカテゴリーの男性では,多変量調整HR*は0.20(0.05-0.86,P=0.03)と有意に低かったが,いずれもはっきりとした直線的な関連はみられなかった。
Cox回帰分析における,カテゴリーごとの男性の急性心筋梗塞発症の多変量調整HR*の詳細は以下のとおり。
*年齢(10歳増加ごと),喫煙,収縮期血圧,BMI,尿酸,HbA1cにより調整。

・LDL-C/HDL-C比
   Q1:1.00(対照)
   Q2:0.99(0.25-3.96)P=0.98
   Q3:1.51(0.42-5.46),P=0.53
   Q4:3.50(1.15-10.64),P=0.03

・TC
   Q1:1.00(対照)
   Q2:0.82(0.34-2.52)P=0.88
   Q3:2.44(1.01-5.91),P=0.04
   Q4:1.81(0.68-4.77),P=0.23

・LDL-C
   Q1:1.00(対照)
   Q2:0.64(0.21-1.96)P=0.43
   Q3:1.30(0.48-3.51),P=0.60
   Q4:2.50(1.02-6.09),P=0.04

・HDL-C
   Q1:1.00(対照)
   Q2:0.48(0.21-1.13)P=0.09
   Q3:0.20(0.05-0.86),P=0.03
   Q4:0.27(0.06-1.19),P=0.08

・TC/HDL-C比
   Q1:1.00(対照)
   Q2:0.60(0.13-2.72),P=0.51
   Q3:1.52(0.45-5.19),P=0.50
   Q4:2.82(0.91-8.72),P=0.07

◇ 各脂質パラメータと虚血性脳卒中発症リスク
男性の虚血性脳卒中発症リスクを,各脂質パラメータのカテゴリーごとに評価したところ,LDL-C/HDL-C比,LDL-C値,HDL-C値,およびTC/HDL-C比のいずれも虚血性脳卒中発症リスクとの有意な関連を示さなかった。
TC値については,Q3のカテゴリーでQ1に比して虚血性脳卒中発症リスクが有意に低かったが(HR 0.55,P=0.04),はっきりとした直線的な関連はみられなかった。

女性でも,LDL-C/HDL-C比(Q4 vs Q1:HR 1.17,P=0.69),TC値(HR 0.73,P=0.44),LDL-C値(HR 0.68,P=0.34),HDL-C値(HR 0.59,P=0.19),およびTC/HDL-C比(HR 1.43,P=0.39)のいずれも虚血性脳卒中発症との有意な関連を示さなかった。


◇ 結論
非都市部の日本人一般住民を対象として,LDL-C/HDL-C比,総コレステロール(TC)値,LDL-C値,HDL-C値,およびTC/HDL-C比の心血管疾患発症リスクの予測能を検討し,LDL-C/HDL-C比と急性心筋梗塞が関連することを示したはじめての研究である。2.7年間の前向きコホート研究の結果,男性のLDL-C/HDL-C比は急性心筋梗塞発症の独立した予測因子であり,LDL-C/HDL-C比が高いカテゴリー(2.6以上)の男性は,急性心筋梗塞発症リスクが高いことが示唆された。虚血性脳卒中発症と脂質値および脂質比との関連は,男女ともに示されなかった。以上の結果より,LDL-C/HDL-C比が高い日本人男性では,将来の心血管疾患を予防するために,心血管リスクの管理が重要であることが示唆された。


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