[2012年文献] 少量~中程度の飲酒者男性では心筋梗塞発症リスクが低下
日本人一般住民男性を対象とした前向きコホート研究において,日常的なアルコール摂取量と,心筋梗塞・虚血性脳卒中発症リスクとの関連を検討した。5.5年間の追跡の結果,飲酒者,とくに少量~中程度の飲酒者では非飲酒者にくらべて心筋梗塞発症リスクが低かった。肥満の人のみを対象とした解析では,アルコール摂取量と心筋梗塞発症リスクにU字型の関連がみられた。虚血性脳卒中に関しては飲酒との関連はみとめられなかった。
Makita S, et al. Influence of mild-to-moderate alcohol consumption on cardiovascular diseases in men from the general population. Atherosclerosis. 2012;
- コホート
- 岩手県北地域(二戸,久慈,宮古)に居住し,2002年4月~2005年1月に実施された健診を受診した男性9161人のうち,40歳未満の300人,80歳超の280人,アルコール摂取量に関する情報に不備のある23人,心血管疾患既往のある526人を除いた8059人を平均5.5年間追跡。
平均年齢は64.1歳。
自己記入式質問票により調査した飲酒状況により,全体を以下の3つのカテゴリーに分けて解析を行った。
A1: 「飲まない」または「ときどき」(3246人,平均アルコール摂取量0.1 g/日)
A2: 1日のアルコール摂取量25 g以下(2441人,17.4 g/日)
A3: 1日のアルコール摂取量25 g超(2372人,49.7 g/日) - 結 果
- ◇ 対象背景
アルコール摂取量の多いA3カテゴリーでは,A2カテゴリーにくらべて,血圧やBMI,推算糸球体濾過値(eGFR),尿酸値,トリグリセリド値,HDL-C値,喫煙指数(箱・年)が有意に高く,年齢およびLDL-C値が有意に低かった。またA3カテゴリーでは,ほかのカテゴリーにくらべて糖尿病有病率,脂質異常症有病率が有意に低かった。
◇ アルコール摂取と心筋梗塞発症リスク
追跡期間中に非致死的心筋梗塞をはじめて発症したのは53人であった(累積発症率0.66%)。
多変量調整Cox回帰ハザードモデル*を用いて,アルコール摂取のカテゴリーごとに心筋梗塞発症のハザード比(HR)を比較した結果は以下のとおり。A2では有意なHRの低下がみられ,A3では,有意ではないもののHRが低下する傾向がみられるという, L字型の関連であった。
*年齢,高血圧,糖尿病,脂質異常症,BMI,喫煙指数により調整
A1: 対照
A2: HR 0.49(95%信頼区間0.24-0.98),P=0.043
A3: HR 0.53(0.25-1.12),P=0.10
肥満(BMI≧25.0 kg/m2)の人のみを対象に同様の検討を行った結果,U字型の関連がみとめられ,A2では有意なHRの低下がみられたが(HR 0.29,95%信頼区間0.08-0.99,P=0.049),A3ではA1との有意な差はなかった(0.61,0.22-1.64,P=0.32)。
◇ アルコール摂取と虚血性脳卒中発症リスク
追跡期間中に虚血性脳卒中をはじめて発症したのは186人であった(累積発症率2.32%)。
多変量調整Cox回帰ハザードモデル*を用いて,アルコール摂取のカテゴリーごとに虚血性脳卒中発症のHRを比較した結果は以下のとおりで,A2,A3ともにA1との有意な差はみとめられなかった。
*年齢,高血圧,糖尿病,脂質異常症,心房細動,BMI,喫煙指数により調整。
A1: 対照
A2: HR 1.25(0.88-1.75),P=0.21
A3: HR 1.26(0.87-1.83),P=0.22
この結果は,肥満の人のみを対象に行った解析でも同様であった。
◇ 結論
日本人一般住民男性を対象とした前向きコホート研究において,日常的なアルコール摂取量と,心筋梗塞・虚血性脳卒中発症リスクとの関連を検討した。5.5年間の追跡の結果,飲酒者,とくに少量~中程度の飲酒者では非飲酒者にくらべて心筋梗塞発症リスクが低かった。肥満の人のみを対象とした解析では,アルコール摂取量と心筋梗塞発症リスクにU字型の関連がみられた。虚血性脳卒中に関しては飲酒との関連はみとめられなかった。