[2013年文献] 日本人向けCKD-EPI式によるeGFRは,MDRD式によるeGFRよりも全死亡および心血管疾患発症リスク予測能が高い
日本人一般住民を対象とした5.6年間の前向きコホート研究において,推算糸球体濾過量(eGFR)の算出に日本人向けのCKD-EPI式とMDRD式を用いた場合の全死亡および心血管疾患リスク予測能を比較した。その結果,単変量解析ではCKD-EPI式によるeGFR用いたモデルのほうが識別能(discrimination)に優れていた。多変量解析では,MDRD式によるeGFRの代わりにCKD-EPI式によるeGFRを用いることで全死亡リスクの予測能が有意に改善することが示された。このことから,より正確なリスク評価のためには,新しいCKD-EPI式を用いることが推奨される。
Ohsawa M, et al. Comparison of Predictability of Future Cardiovascular Events Between Chronic Kidney Disease (CKD) Stage Based on CKD Epidemiology Collaboration Equation and That Based on Modification of Diet in Renal Disease Equation in the Japanese General Population. Circ J. 2013;
- コホート
- 岩手県北地域(二戸,久慈,宮古)に2002~2004年に居住していた26469人のうち,血清クレアチニン値に不備のある143人,心筋梗塞または脳卒中既往のある984人,解析に必要なベースラインデータのいずれかに不備のある785人を除いた24560人を平均5.6年間追跡(136961人・年)。
推算糸球体濾過量(eGFR)は,日本人向けのCKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)式とMDRD(Modification of Diet in Renal Disease)式により算出し,それぞれを用いて全体を以下の4つCKDステージに分類して解析を行った。
ステージ1: ≧90 mL/min/1.73 m2(CKD-EPI式: 2504人,MDRD式4449人)
ステージ2: 60~89 mL/min/1.73 m2(20607人,17128人)
ステージ3a: 45~59 mL/min/1.73 m2(1259人,2711人)
ステージ3b+: <45 mL/min/1.73 m2(190人,272人) - 結 果
- CKD-EPI式による推算糸球体濾過量(eGFR)は,MDRD式による推算糸球体濾過量と良好な相関を示した(r=0.863,P<0.001)が,全体に,MDRD式を用いるとeGFRがやや過小評価される傾向がみられた。
eGFRの推算にCKD-EPI式を用いた場合とMDRD式を用いた場合とでは,年齢の分布が大きく異なっており,ステージ1の平均年齢はCKD-EPI式を用いると43.0歳でばらつきが少なく,MDRD式を用いると56.2歳でばらつきが大きかった。
◇ eGFR推算式と全死亡・心血管イベント予測能
追跡期間中に死亡したのは851人。
急性心筋梗塞の発症は78人で,脳卒中の発症は605人であった。
CKD-EPI式,MDRD式を用いて推算したeGFRと全死亡,急性心筋梗塞,脳卒中発症リスク予測能との関連について,受信者動作特性曲線下面積(area under the receiver operating characteristic curve: AUROC)(単変量解析)による比較を行った結果は以下のとおりで,いずれについてもCKD-EPI式によるeGFRのほうが予測能に優れていた。
全死亡: CKD-EPI式 0.680(95%信頼区間0.662-0.697),MDRD式 0.582(0.562-0.602)
急性心筋梗塞: 0.718(0.665-0.771),0.642(0.581-0.703)
脳卒中: 0.656(0.636-0.676),0.576(0.553-0.599)
Cox回帰分析における,CKD-EPI式とMDRD式を用いたCKDステージと全死亡および心血管イベントの多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。CKDステージと全死亡については,CKD-EPI式を用いるとU字型の関連,MDRD式を用いるとJ字型の関連がみられたが,急性心筋梗塞と脳卒中については推算式による大きな違いはみられなかった。
*年齢,性別,収縮期血圧,BMI,総コレステロール,HDL-C,HbA1c,アルブミン尿の有無,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣により調整
<CKD-EPI式>
・ 全死亡
ステージ1: 1.93(1.25-2.98),ステージ2: 1(対照),ステージ3a: 1.12(0.90-1.40),ステージ3b+: 2.05(1.43-2.92)
・ 急性心筋梗塞
0.55(0.07-4.34),1,1.86(1.01-3.44),0.71(0.10-5.24)
・ 脳卒中
0.72(0.38-1.36),1,1.13(0.86-1.48),1.17(0.66-2.10)
<MDRD式>
・ 全死亡
1.28(1.04-1.58),1,1.03(0.85-1.25),1.99(1.43-2.78)
・ 急性心筋梗塞
0.65(0.25-1.67),1,2.14(1.29-3.55),0.65(0.09-4.78)
・ 脳卒中
0.89(0.68-1.15),1,1.02(0.82-1.28),1.03(0.00-0.45)
赤池情報量基準,ベイズ情報量基準,C統計量の3つの指標により,CKD-EPI式を用いたモデルとMDRD式を用いたモデルの予測能を比較した結果,全死亡,急性心筋梗塞,脳卒中のいずれについても,両モデルは同等であり優劣はないと考えられた。
また,net reclassification improvement(NRI)解析を行った結果,CKD-EPI式を用いたモデルは全死亡リスク予測時の正のNRIと有意に関連していたが,急性心筋梗塞および脳卒中リスクの予測においては正のNRIとの関連はみられなかった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした5.6年間の前向きコホート研究において,推算糸球体濾過量(eGFR)の算出に日本人向けのCKD-EPI式とMDRD式を用いた場合の全死亡および心血管疾患リスク予測能を比較した。その結果,単変量解析ではCKD-EPI式によるeGFR用いたモデルのほうが識別能(discrimination)に優れていた。多変量解析では,MDRD式によるeGFRの代わりにCKD-EPI式によるeGFRを用いることで全死亡リスクの予測能が有意に改善することが示された。このことから,より正確なリスク評価のためには,新しいCKD-EPI式を用いることが推奨される。