[2014年文献] 男性の徐脈(60拍/分未満)は心血管イベントの独立した危険因子
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,安静時脈拍数と心血管疾患発症ならびに全死亡リスクとの関連を検討した。その結果,60拍/分未満および80拍/分以上の人では有意な心血管イベント発症リスクの増加がみとめられた。このことから,日本人男性において,従来より指摘されてきた頻脈のみならず,徐脈も,心血管イベント発症の独立した危険因子である可能性が示唆される。
Makita S, et al. Bradycardia is associated with future cardiovascular diseases and death in men from the general population. Atherosclerosis. 2014; 236: 116-120.
- コホート
- 2002年4月~2005年1月年に健診を受け,研究への参加に同意した岩手県北地域の住民26469人のうち,80歳超の797人,40歳未満の1100人,心筋梗塞・うっ血性心不全・脳卒中既往のある978人,健診時に心房細動のあった396人,脈拍数のデータのない15人,虚血性心疾患治療中の223人,降圧治療中の5551人を除く17776人(男性5958人,女性11818人,平均年齢61.5歳)を平均5.6年間追跡。
看護師が血圧とともに測定した安静時脈拍数(拍/分)により,対象者を以下のカテゴリーに分類し,心血管イベント(心筋梗塞・脳梗塞・脳出血の発症またはこれらによる死亡+発症から24時間以内の突然死)のリスクとの関連を検討した。
60未満/60~69.5/70~79.5/80以上 - 結 果
- ◇ 対象背景
安静時脈拍数が60拍/分未満の人では,60~69.5拍/分に比して,男女とも年齢と脈圧が有意に高く,拡張期血圧が有意に低かった。
安静時脈拍数が80拍/分以上の人で,60~69.5拍/分に比して有意に高かったのは収縮期血圧,拡張期血圧,脈圧,HbA1c(男性のみ),推算糸球体濾過量(女性のみ),尿酸(男性のみ),ヘモグロビン,LDL-C(女性のみ),喫煙量(男性のみ),アルコール摂取量(男性のみ)であった,一方,安静時脈拍数が80拍/分以上の人で有意に低かったのは年齢(男性のみ),HDL-C(女性のみ),BMI(女性のみ)であった。
追跡期間中に心筋梗塞を発症したのは男性36人,女性9人で(累積発症率はそれぞれ0.60%,0.08%),脳卒中の発症は男性170人,女性152人(2.85%,1.29%)。
発症から24時間以内に突然死した男性7人,女性25人を含め,心血管イベントは男性で213件,女性で186件であった。
◇ 安静時脈拍数と心血管イベントリスク
・男性
安静時脈拍数のカテゴリーごとの心血管イベントの多変量調整ハザード比†(†年齢,収縮期血圧,BMI,喫煙量,推算糸球体濾過量,HDL-C,LDL-C,HbA1c,アルコール摂取量で調整)は以下のとおりで,もっとも低いカテゴリー,およびもっとも高いカテゴリーの両方で有意なリスク増加がみられた。
この結果は,安静時脈拍数50拍/分未満の人を除外した解析,ならびに60歳以上の人のみで行った解析でも同様であった。
60拍/分未満: 1.55(95%信頼区間1.05-2.27),P=0.026
60~69.5拍/分: 1.00(対照)
70~79.5拍: 1.06(0.71-1.56),P=0.78
80拍以上: 1.72(1.16-2.57),P=0.007
・女性
安静時脈拍数のカテゴリーごとの心血管イベントの多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも対照に比した有意差はみられなかった。
60拍/分未満: 0.73(0.37-1.44),P=0.36
60~69.5拍/分: 1.00(対照)
70~79.5拍: 1.24(0.86-1.78),P=0.25
80拍以上: 1.10(0.73-1.64),P=0.66
◇ 安静時脈拍数と心筋梗塞,脳梗塞および脳出血リスク
男性において,安静時脈拍数と非致死的な心筋梗塞,脳梗塞および脳出血の年齢調整ハザード比との関連をみた結果,60拍/分未満では,60~69.5拍/分に比して心筋梗塞と脳梗塞のリスクが上がる傾向がみられたが,有意差はなかった。
80拍/分以上では,60~69.5拍/分に比して脳梗塞と脳出血のリスクが有意に高かった(それぞれ年齢調整ハザード比2.15[95%信頼区間1.25-3.70,P=0.005],2.67[1.25-5.67,P=0.001])。
◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,安静時脈拍数と心血管疾患発症ならびに全死亡リスクとの関連を検討した。その結果,60拍/分未満および80拍/分以上の人では有意な心血管イベント発症リスクの増加がみとめられた。このことから,日本人男性において,従来より指摘されてきた頻脈のみならず,徐脈も,心血管イベント発症の独立した危険因子である可能性が示唆される。