[2007年文献] 危険因子の保有数が同じ場合,過体重の人の医療費は正常体重の人より高額になる
国民健康保険に加入している一般住民を対象とした前向きコホート研究において,心血管危険因子の保有数と,長期的な医療費との関連を検討した。平均9.0年間の追跡の結果,危険因子の保有数が同じ場合は,過体重の人の医療費のほうが正常体重の人より高額になることが示された。一方,集団としてみると,過体重で危険因子を1つ以上もつ人よりも,正常体重で危険因子を1つ以上もつ人のほうが人数が多いことから,全医療費に占める割合は後者のほうが大きかった。
Okamura T, et al.; Health Promotion Research Committee, Shiga National Health Insurance Organizations. Effect of combined cardiovascular risk factors on individual and population medical expenditures: a 10-year cohort study of national health insurance in a Japanese population. Circ J. 2007; 71: 807-13.
- コホート
- 滋賀国保コホート研究。
1989~1991年に健診を受診した40~69歳の国民健康保険加入者4535人のうち,健診のデータに不備のあった57人を除いた4478人(男性1921人,女性2557人)を,2001年まで平均9.0年間追跡(40815人・年)。
3つの危険因子(高血圧,糖尿病および高脂血症[総コレステロール≧220 mg/dL])の保有数によって,対象者を「なし/1つ/2つ以上」の3つのカテゴリーに分類した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
過体重(BMI≧25 kg/m2)の割合は21.0%(男性18.1%,女性23.3%),危険因子を2つ以上もつ人の割合は39.5%(40.8%,38.6%)であった。
危険因子を1つ以上もつ人では,もたない人にくらべて高血圧の割合や高脂血症の割合,BMIが有意に高かったが,喫煙率や習慣的な飲酒率は同程度であった。
◇ 危険因子の保有数と個人の医療費
危険因子の保有数ごとの,個人の医療費(加入1か月あたり)は以下のとおりで,危険因子を1つ以上もつ人では,もたない人にくらべて有意に高額であった(*P<0.05)。
なし(2135人): 算術平均16400円,幾何平均7361円
1つ(1766人): 23002円,9382円*
2つ以上(577人): 25090円,10562円*
◇ 過体重の有無別にみた,危険因子の保有数と個人の医療費
過体重の有無別にみた,危険因子の保有数と個人の医療費(加入1か月あたり,幾何平均値)の関連は以下のとおりで,危険因子を1つ以上もつ人では,過体重かどうかを問わず,「なし・正常体重」の人に対して有意に高額であった(*P<0.05)。
なし・正常体重(1849人): 6985円
なし・過体重(286人): 9168円*
1つ・正常体重(1336人): 9091円*
1つ・過体重(430人): 10703円*
2つ以上・正常体重(351人): 10263円*
2つ以上・過体重(226人): 12048円*
◇ 過体重の有無別にみた,各危険因子と個人の医療費
過体重の有無別にみた,各危険因子と個人の医療費(加入1か月あたり,幾何平均値)の関連は以下のとおりで,いずれの危険因子をもつ人についても,過体重をあわせもつ場合のほうが高額となっていた。
高血圧・正常体重(1098人): 11407円
高血圧・過体重(519人): 12991円
高脂血症・正常体重(803人): 9210円
高脂血症・過体重(312人): 10551円
糖尿病・正常体重(153人): 15139円
糖尿病・過体重(63人): 19497円
◇ 集団の過剰な医療費
また,人口寄与割合(population attributable fraction)と同様の考え方で,危険因子の保有数および過体重の有無による5つのカテゴリー(なし・過体重/1つ・正常体重/1つ・過体重/2つ以上・正常体重/2つ以上・過体重)ごとに,集団の過剰な医療費(危険因子なし・正常体重であれば発生しなかった)を,以下のように推算した。
過剰な医療費
=(各カテゴリーの集団の医療費[算術平均]-「なし・正常体重」の集団の医療費[算術平均])× 各カテゴリーの該当者数
その結果,追跡期間中の総医療費は,なし・過体重では218万3324円,1つ・正常体重では1184万7648円,1つ・過体重では161万9380円,2つ以上・正常体重では302万7375円,2つ以上・過体重では257万7350円であった。
追跡期間中の全医療費(9011万3463円)に対して,正常体重で危険因子を1つ以上もつ人の医療費が占める割合は16.5%,過体重で危険因子を1つ以上もつ人の医療費が占める割合は7.1%であった。
◇ 結論
国民健康保険に加入している一般住民を対象とした前向きコホート研究において,心血管危険因子の保有数と,長期的な医療費との関連を検討した。平均9.0年間の追跡の結果,危険因子の保有数が同じ場合は,過体重の人の医療費のほうが正常体重の人より高額になることが示された。一方,集団としてみると,過体重で危険因子を1つ以上もつ人よりも,正常体重で危険因子を1つ以上もつ人のほうが人数が多いことから,全医療費に占める割合は後者のほうが大きかった。