[2005年文献] 高血圧は,ステージを問わず医療費増加の要因となる

国民健康保険に加入している一般住民を対象とした前向きコホート研究において,高血圧による医療費への長期的な影響を検討した。平均9.0年間の追跡の結果,個人の医療費は,血圧カテゴリーが高いほど高額となる傾向がみられた。一方,集団としてみると,全医療費に占める高血圧有病者の医療費の割合は23.7%で,この内訳をみると,人数の多い軽度~中程度の高血圧(前高血圧+ステージ1高血圧)が寄与する医療費のほうが,ステージ2高血圧が寄与する医療費より多くなっていた。以上のように,高血圧が,ステージを問わず医療費増加の要因となっていることが示された。高血圧の予防は,医療費抑制の観点からも重要と考えられる。

Nakamura K, et al.; Health Promotion Research Committee of the Siga National Insurance Organizations. Impact of hypertension on medical economics: A 10-year follow-up study of national health insurance in Shiga, Japan. Hypertens Res. 2005; 28: 859-64.pubmed

コホート
滋賀国保コホート研究。
1989~1991年に健診を受診した40~69歳の4535人のうち,降圧薬服用者および心血管疾患既往のある人を除いた4191人を,2001年まで平均9年間追跡(37775人・年)。

血圧のカテゴリー別の解析では,JNC7に基づく以下の血圧分類を用いた。
   正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgおよび拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
   前高血圧: SBP 120~139 mmHgまたはDBP 80~89 mmHg
   ステージ1高血圧: SBP 140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg
   ステージ2高血圧: SBP≧160 mmHgまたはDBP≧100 mmHg

また,人口寄与割合(population attributable fraction)と同様の考え方で,高血圧が寄与する(正常血圧であれば発生しなかった)集団の医療費を,以下のように推算した。

前高血圧/ステージ1高血圧/ステージ2高血圧が寄与する医療費(1000人・月あたり)
=(有病者の医療費[算術平均]-正常血圧者の医療費[算術平均])×有病者数
結 果
◇ 対象背景
年齢は男性53.6歳,女性54.1歳,血圧はそれぞれ132.2 / 80.9 mmHg,130.6 / 78.6 mmHg,BMIは22.6 kg/m2,23.0 kg/m2
男女とも,血圧が高いカテゴリーで年齢,BMIおよび総コレステロール値が高い傾向がみられた。

◇ 高血圧と個人の医療費,入院リスクおよび全死亡リスクの関連
性および血圧カテゴリーごとの,観察期間中の個人医療費(加入1か月あたりの幾何平均値),入院のハザード比,および全死亡のハザード比は以下のとおり(いずれも多変量調整)。
男女とも,血圧が高いカテゴリーほど医療費が高くなっていたが,有意差がみとめられたのは男性のみであった(男性: P<0.01,女性P=0.18[ANCOVA])。また,男性のステージ2高血圧では,正常血圧にくらべて入院および全死亡のリスクが有意に高かった。
年齢,BMI,喫煙,飲酒,総コレステロールおよび糖尿病既往で調整)

・男性
 正常血圧(347人): 6694円,1.00(対照),1.00(対照)
 前高血圧(858人): 6995円,1.10(95%信頼区間0.84-1.43),1.33(0.77-2.30)
 ステージ1高血圧(450人): 8325円,1.05(0.77-1.42),1.21(0.66-2.21)
 ステージ2高血圧:(164人) 15756円,1.96(1.29-2.98),3.19(1.67-6.08)

・女性
 正常血圧(546人): 7723円,1.00,1.00
 前高血圧(1135人): 7848円,1.04(0.83-1.29),1.23(0.57-2.66)
 ステージ1高血圧(527人): 7801円,0.85(0.65-1.11),1.32(0.55-3.17)
 ステージ2高血圧(164人): 9887円,1.14(0.78-1.66),1.06(0.31-3.60)

◇ 高血圧が寄与する医療費の増加
男女別に,高血圧が寄与する集団の医療費(算術平均,1000人・月あたり)を推算した結果は以下のとおり。

・男性
 前高血圧: 340万1492円
 ステージ1高血圧: 331万6041円
 ステージ2高血圧: 507万3770円

・女性
 前高血圧: 422万4237円
 ステージ1高血圧: 146万3100円
 ステージ2高血圧: 149万3965円

全医療費(1909万468円/1000人・月)に占める高血圧有病者の医療費の割合は23.7%であった。
内訳は,前高血圧9.5%(181万9549円),ステージ1高血圧6.0%(114万334円),ステージ2高血圧8.2%(156万7105円)。


◇ 結論
国民健康保険に加入している一般住民を対象とした前向きコホート研究において,高血圧による医療費への長期的な影響を検討した。平均9.0年間の追跡の結果,個人の医療費は,血圧カテゴリーが高いほど高額となる傾向がみられた。一方,集団としてみると,全医療費に占める高血圧有病者の医療費の割合は23.7%で,この内訳をみると,人数の多い軽度~中程度の高血圧(前高血圧+ステージ1高血圧)が寄与する医療費のほうが,ステージ2高血圧が寄与する医療費より多くなっていた。以上のように,高血圧が,ステージを問わず医療費増加の要因となっていることが示された。高血圧の予防は,医療費抑制の観点からも重要と考えられる。


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